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大麻汚染、高まる「米国リスク」

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
大麻が合法化されたカリフォルニア州では、大麻入りクッキーが売られている(写真:ロイター/アフロ)

 大麻事件が相次ぐ中、「米国リスク」が急速に高まっている。米国では各州で大麻の合法化が進み、成人なら誰でも簡単に入手できる環境だ。大麻入りの飲食品も次々と発売されており、危険薬物との認識は急速に薄れつつある。日本からの観光客や留学生、駐在員も多いだけに、日本人が大麻の罠に陥るリスクはかつてなく大きくなっている。

「米国留学中に覚えた」

 今月19日、野村証券の20代の社員2人が、千葉市内の同社社員寮で大麻を所持しているのが見つかり、大麻取締法違反の疑いで逮捕・起訴されたというニュースが流れた。

 一部報道によると、逮捕された2人のうち25歳の社員は、調べに対し「大麻は米国留学中に覚えた」と供述している。

 同じ19日には、宮崎県警が、大麻入りの菓子を米国から輸入しようとした宮崎県日南市と京都市の男女2人を、大麻取締法違反の容疑で逮捕したというニュースもあった。

 2人は共謀し、大麻を練り込んだスナック菓子やグミ、ブラウニーを米国内の郵便局から何者かに発送させ、輸入しようとした。しかし、税関職員が発見し、御用となった。

 翌20日には、東京都荒川区で今月10日に開かれたダンスイベントに参加し、手足のしびれや呼吸困難の症状を訴えて病院に搬送された50代から80代の男女7人の体内から、大麻の成分が検出されたとNHKなどが報じた。

 7人はいずれも、参加者がイベント会場に持ち込んだ外国製のチョコレート菓子を食べたといい、警視庁は、菓子に大麻の成分が含まれていたとみて、調べているという。菓子が米国製かどうかは報道されていないが、米国製である可能性は否定できない。

違法輸入が急増

 事実、日本に持ち込まれる大麻の大半は米国からだ。財務省の「全国の税関における関税法違反事件の取締り状況資料」によると、昨年の大麻製品を含む大麻樹脂の摘発件数は、計101件。国・地域別で見ると米国からのものが77件と最も多く、全体の76%を占めた。押収量では、実に96%が米国からのものだった。

 大麻草の摘発件数でも、米国は全体の47%と最多。大麻の違法輸入は件数、量ともに年々増えており、財務省は「近年、大麻は急増傾向が続いている」と警戒している。

 違法輸入も含めて米国がらみの大麻事件が目立つのは、米国内の大麻合法化の動きが影を落としているのは間違いない。

 昨年10月にカナダが大麻を合法化した際、日本では、「先進国初」などと大きく報道された。それに比べると、米国の各州がそれ以前から次々と合法化している事実は、日本ではそれほど報道されていない印象がある。

 米国は、国としては依然、大麻は非合法のため、各州の動きは「米国内のローカルな話」と日本のメディアには映るのかもしれない。

20%の州がすでに合法化

 だが、州の権限の大きい米国では、国が禁止していても、合法化された州では、成人なら誰でも一定の条件下で大麻を所持、吸引することが可能だ。連邦政府は州への介入も可能だが、これまでのところ目をつぶっている。合法化する州はさらに増える見通しで、米国は事実上、世界一の大麻大国と化している。

 米国では、医療目的での大麻の使用は、すでに全50州中、30以上の州で合法化されている。いま関心を集めているのは、タバコや酒などと同様、嗜好品として解禁する動きだ。

 嗜好用大麻は、コロラド州が2014年、初めて解禁。その後、ワシントン州やカリフォルニア州、マサチューセッツ州などが次々と解禁に踏み切り、現在は10州とワシントンDCが合法化している。

 これとは別に、嗜好用大麻の所持を「非犯罪化」した州も13州ある。非犯罪化とは、警察が所持や吸引を見つけても、交通ルール違反のように少額の罰金や、現物の没収にとどめるなど「大目に見る」制度だ。

 ニューヨーク州も、クオモ知事が合法化に積極的な姿勢を見せており、近い将来、解禁になる可能性がある。

現状追認が背景

 解禁の背景は様々だ。

 第1は、現状追認だ。違法にもかかわらず、大麻を吸う米国人は昔から多い。とくに大学生など若者の間では、大麻を吸うことは大人になるための一種の通過儀礼のようなものだ。

 事実、クリントン元大統領やオバマ前大統領も、若いころに大麻を吸ったことがあると在職中に認めているが、まったく問題視されなかった。

 第2は、米国人が最も過敏に反応する人種問題との関係だ。黒人団体や人権団体は、「大麻常習者には白人も多いのに、大麻の不法所持で検挙されるのはいつも黒人で、人種差別だ」と主張している。

 また、たいして他人に迷惑をかけない大麻を取り締まるぐらいなら、銃犯罪の防止に警察の資源を振り向けるべきだとする意見も多い。

 第3は、肺がんをはじめ様々な病気を引き起こすタバコに比べれば心身への影響が軽微で、依存症に陥る可能性も低いと考えられていることだ。ただ、これに関しては、依然、様々な議論がある。

 カナダが合法化に踏み切ったのも、同じような背景からだ。

大企業も参入

 合法化を大きなビジネスチャンスととらえる企業の動きも活発だ。

 米国の酒類販売大手コンステレーション・ブランズは昨年8月、カナダの大麻栽培販売大手キャノピー・グロースに、約40億ドルの追加投資をすると発表した。大麻を原料とした飲料の開発を推進するという。

 翌9月には、米コカ・コーラが、大麻成分入りの飲料を開発するため、カナダの大麻栽培販売オーロラ・カンナビスと協議に入ったと報じられた。ウイスキーの「ジョニーウォーカー」で有名な英ディアジオも、米国の大麻企業への投資を検討中という。

 大麻が合法化された州ではすでに、大麻成分入りのチョコレートやクッキーなどが販売許可を得た店舗で販売されている。世論調査では、大麻合法化を支持する声は多く、大都市の住民を中心に、大麻に対する罪悪感は急速に薄れていると言っていい。

誘われて、つい

 外務省によると、海外に3カ月以上在留する日本人、いわゆる在留邦人が最も多い国は米国で、その数42万人強(2017年10月1日現在)。在留邦人全体の32%を占め、2位中国の9.2%を大きく引き離している。短期の海外旅行でも、米国は依然、高い人気だ。

 米国滞在中、好奇心からつい大麻を吸ってしまう日本人は、筆者の知る限りでも、昔から少なくない。特に10代、20代の留学生は、同世代の米国人と交流する機会も多いだけに、誘われてつい、というケースも珍しくない。ただ、あくまで「アメリカの思い出」として、日本には持ち帰らない場合がほとんどだ。

 それでも、いったん知った大麻の味が忘れられず、大麻を違法輸入しようとする者がいないとは言えない。各州で合法化が進む今、そのリスクは確実に大きくなっている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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