Yahoo!ニュース

欧州、ミツバチ大量死の原因殺虫剤を全面禁止 際立つ日本の独自路線

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家
(写真:ロイター/アフロ)

 欧州連合(EU)は野生生物や人への影響が指摘されているネオニコチノイド(ネオニコ)系殺虫剤を全面的に禁止する。同様の動きは世界各国で相次いでおり、規制強化に消極的な日本と世界の認識のズレが一段と目立つ格好となっている。

 禁止は4月27日、加盟国代表の投票で決まった。年内に発効する。対象となるのは、ネオニコ系殺虫剤のうちクロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムの主要3種類。屋外での使用は全面禁止。環境汚染リスクの小さい温室内での使用は例外的に認める。

ペットのノミ退治にも

 ネオニコはタバコのニコチンに似た構造の神経毒。1980年代に殺虫剤として商品化され、90年代から急速に普及。イネやトウモロコシなどの穀物から、野菜や果物にいたるまで幅広い農作物に使用され、現在、世界の殺虫剤の主力を占める。ペットにつくノミやダニの駆除剤としても人気だ。

 半面、世界で多発している蜜蜂の集団失踪や大量死の真犯人と疑われ、各国の研究機関が調査を進めている。蜜蜂は、蜂蜜を生産するだけでなく、植物の花粉を運んで受粉させるポリネーター(花粉媒介者)としての重要な役割も果たしていることから、蜜蜂が地球上から消えれば、世界の食料需給にも大きな影響が出かねない。ポリネーターとしての蜜蜂がいなくなると、世界が被る経済的損失は20兆円以上になるとの試算もある。

 また、ネオニコ系農薬は蜜蜂以外にも、様々な昆虫や小動物、野鳥に影響を与えている可能性があると考えられることから、生物多様性が維持できなくなるとの懸念も強い。

 さらには、農作物の表面や内部に残留したネオニコの成分を人が食事を通じて日常的に摂取した場合、神経の正常な発達が阻害されるとの研究結果が報告されるなど、人体への影響も心配されている。

中国、韓国も規制強化

 このため、ドイツやフランス、イタリアなど欧州の主要国がいち早くネオニコ系農薬の規制強化に踏み切り、EUも2013年、先の3種類のネオニコ系農薬の使用を安全性が確認できるまで暫定的に制限する措置を打ち出した。

 その直後、EUの助言機関である欧州食品安全機関(EFSA)が安全性を確認する作業に着手。今年2月、ネオニコ系農薬が蜜蜂の活動や生存にとってリスク要因であることが「確認できた」と発表した。これが今回のEUの決定につながっている。

 ここ数年、欧州以外でも、米国やカナダ、ブラジル、中国、韓国、台湾など世界の主要国・地域で、ネオニコ系農薬の使用を制限したり禁止したりする動きが急速に広がっている。例えば韓国は14年、EUの暫定措置にならい、ネオニコ系農薬主要3種類の使用禁止を打ち出した。

日本政府は容認

 日本は、農地面積あたりの農薬使用量が英国やドイツなどの約3倍と、韓国と並ぶ世界有数の農薬大国で、ネオニコ系農薬の使用量も比較的多いとみられる。実際、ネオニコ系農薬の使用と蜜蜂の大量死との関連を疑わせる事件が長崎県などで起きているほか、スーパーで売られている野菜の一部からはEUの残留基準を上回る量のネオニコ成分が検出されている。

 このため、ネオニコ系農薬の使用禁止を政府に要求したり、ネオニコ系農薬不使用をうたった農作物を販売したりする動きも、市民団体や一部の生協の間から出ている。

 しかし、政府は11年にイミダクロプリド、15年にクロチアニジン、アセタミプリドの一部農作物に対する残留基準を緩和するなど、ネオニコ系農薬の使用を容認、後押ししている。

ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

猪瀬聖の最近の記事