国産食品は本当に安心か

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 全ての加工食品に原料の原産地表示を義務付ける新たな表示ルールが先月、施行された。輸入食品に対する消費者の不安の声にこたえると同時に、あわよくば国産農産物の消費拡大につなげようとの関係者の思惑がある。しかし、国産食品は輸入食品に比べて本当に安心して食べることができるのだろうか。

 加工食品の原料原産地表示はこれまで、加工度の低い一部の食品だけが対象だったが、新ルールでは対象を全加工食品に拡大した。実際に表示義務の対象となるのは、製品中の使用量が一番多い原材料。複数の国の原材料を混ぜて使っている場合は、使用割合の多い順に「A国、B国」と表示するなどが新ルールの柱だ。もっとも、2022年3月末までの猶予期間を設けてあるため、消費者が新ルールの恩恵を実感するのは少し先になりそうだ。

消費者の6割強が国産志向

 そもそも、今回、消費者庁が原産地表示の拡大に踏み切った背景には、輸入食品の安全性に対する消費者の根強い不安がある。

 それを裏付けるのが、ルール改訂の検討にあたって消費者庁が昨年3月に実施した消費者意識調査だ。調査では、全体の76.8%が加工食品を購入する際に原産地表示を参考にすると回答。参考にする理由を聞いたところ(複数回答可)、「原料が国産のものを選びたい」が65.4%、「原料が特定の原産国のものを選びたい又は選びたくない」が39.0%に達した。

 調査結果を見ると、消費者の多くが輸入食品に強い不安を持つと同時に、国産食品に深い信頼と安心を抱いていることがわかる。

 輸入食品“不信”が、中国からの輸入餃子に殺虫剤の成分が混入していたり、同じく中国産の冷凍野菜から高濃度の農薬が検出されたりした事件から来ていることは、想像に難くない。しかし、本当に国産品は輸入品より安心して食べることができるのか。「国産だから安心」は単なる神話に過ぎないのではないか。そんな疑問を抱かざるを得ないようなニュースが最近相次いでいる。

広がる農薬汚染

 一例が、この夏、新聞各紙が報じた殺虫剤のネオニコチノイドによる「農薬汚染」の実態だ。東京新聞は「蜂蜜 ネオニコチノイド汚染全国に」、日本経済新聞は「蜂蜜やミツバチ、広がる農薬汚染 9都県で検出」との見出しで報じている。

 記事によると、千葉工業大学の研究チームが、北は岩手から南は沖縄まで全国9都県で蜂蜜製品、蜜蜂、蜜蜂のさなぎのサンプルを収集し分析したところ、73のサンプル全てからネオニコチノイドを検出。蜂蜜中の残留濃度は、28サンプル中、6割超の18サンプルで国が定める食品中の農薬の残留基準を上回った(ネオニコチノイドの対蜂蜜の残留基準は設定されていないため、他の農薬の暫定基準を適用)。

 研究チームは、日常生活で食べる量であれば人の健康にすぐに影響が出るレベルではないとしているが、気になる情報もある。

 ネオニコチノイドは、稲や野菜、果物など様々な農産物に使われ、世界的に使用量が多い。しかし、世界各地で起きている蜜蜂の大量死や、子供の発達障害の原因と疑われたりするなど、自然環境や人の健康への影響が問題視されており、各国が使用の禁止や制限に乗り出しているのだ。

緩い残留基準

 欧州連合(EU)は13年、クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサムの3種類のネオニコチノイド系農薬について、安全性を確認するまで使用禁止を決定。翌年、韓国もEUに追随し、同様の措置を講じた。さらにその翌年、米国が独自の使用規制に踏み切り、フランス議会は昨年、ネオニコチノイド系農薬の全面使用禁止法案を可決した。

 対照的なのが日本。厚生労働省は11年にイミダクロプリド、15年にクロチアニジン、アセタミプリドの一部農産物に対する残留基準を緩和。欧米に比べて元々緩いネオニコチノイドの規制が一段と緩くなった。

 こうした結果、国内で売られている野菜の中には、日本の残留基準はクリアしても、海外の残留基準を超えているものがある。一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストが昨年、ネオニコチノイド系農薬7種類と、ネオニコチノイドに似た農薬2種類、あわせて9種類について、市販の小松菜、ホウレンソウ、白菜、レタスへの残留量を調査したところ、全30サンプル中、20サンプルから、1種類以上の農薬を検出。国の残留基準超えのサンプルはなかったが、EUの基準を上回ったのが8サンプルあった。

抗生物質も問題

 農薬だけではない。

 米マクドナルドは8月、人の病気の治療に重要な抗生物質と同じ種類の抗生物質を投与した鶏肉の使用を、18年から日本を含む全世界の店舗で順次、中止すると発表した。牛肉についても、将来は同様の措置を取る方針という。マクドナルドが使用を禁止する抗生物質は、世界保健機関(WHO)がHPCIAと呼ぶカテゴリーに分類しているものが対象だ。

 抗生物質は人の病気の治療に欠かせないが、実は牛や豚、鶏などの家畜にも大量の抗生物質が使われている。病気治療にも使われるが、問題視されているのは、病気予防や成長促進のために日常的に多くの抗生物質が使われている点。家畜に抗生物質を投与すると、家畜の体内に薬剤耐性菌が生まれ、それが食肉を通じて消費者に感染する可能性が指摘されている。人に薬剤耐性菌が感染すると、病気の治療で抗生物質が効かなくなる。命にかかわる問題だ。

 EUは06年に成長促進目的での抗生物質の投与を禁止するなど、いち早く厳しい使用制限を打ち出した。米国も抗生物質の使用削減に乗り出しており、マクドナルドの取り組みもこの流れに沿ったもの。米国内店舗では、すでに16年末までに、HPCIAを投与した鶏肉の使用を止めている。米国では、他の大手ファストフード・チェーンも抗生物質不使用肉への切り替えを進めているほか、ホールフーズ・マーケットなど高級スーパーに行けば、抗生物質不使用肉が簡単に手に入る。

「国産だから安心」とは限らず

 日本の農林水産省も、抗生物質の家畜への使用に一定の基準を設けてはいるものの、EUのように成長促進目的での使用の禁止にまでは踏み込んでいない。市場でも、今のところ、一部の生産者やスーパー、有機野菜宅配サービス業者が、抗生物質不使用肉を扱うにとどまっている。

 もちろん、輸入食肉の中にも抗生物質や、同じく発がん性の疑いが指摘されている成長ホルモンを投与し飼育された家畜の肉が多く含まれており、輸入肉のほうが安心とは到底、言うことはできない。しかし、だからといって、「国産品だから安心」とは必ずしも言えないのが現状なのだ。