エナジードリンク、海外の教訓生かせず

米国のスーパーの棚に所せましと並ぶエナジードリンク(写真:ロイター/アフロ)

若者に人気のカフェイン入り清涼飲料水「エナジードリンク」を愛飲していた九州に住む20代の男性が、カフェイン中毒で死亡していたことが、報道で明らかになった。エナジードリンクの常用による中毒死の報告は国内初という。

エナジードリンクは今や世界的に人気だが、一方で、発祥の地である米国では、エナジードリンクが原因と疑われる死亡例がこれまでに30件以上報告されており、医師や市民団体からは販売に何らかの規制を求める声が高まっている。タバコや酒と同様、子どもへの販売を禁止する国もあるなど、実は、その“副作用”に対する認識は、世界的に共有が進んでいる。

海外のそうした情勢にもかかわらず、日本では、消費者庁や専門家、業界などによる消費者への目立った注意喚起や啓発活動が見られなかったことが、今回の事故を招いた一因と言えそうだ。

米国では30件を上回る死亡例

米国では、2012年、エナジードリンクの人気ブランドを好んで飲んでいた14歳の少女が死亡。検視の結果、カフェインの過剰摂取による心臓の不整脈が原因とわかり、遺族が情報公開法に基づいて政府の食品医薬品局(FDA)に同ブランドに関する情報を請求。その結果、過去数年間で5件の死亡事故が報告されていたことが明らかになった。

この報道をきっかけに、エナジードリンクの危険性に対する社会的関心が、一気に上昇。直後に複数のメディアが、別のブランドのエナジードリンクを飲んで死亡した例が、過去4年間で13件あったと報じた。さらにニューヨーク・タイムズ紙は、エナジードリンクを飲んだ後に、心臓発作や不整脈などの症状で医療施設の救急室に運び込まれた患者が、2011年だけで約20,700人いると伝えた。

その後、食品の安全問題に取り組む市民団体の公益科学センターが、情報公開法を使ってFDAにデータの提供を求めたところ、エナジードリンクが原因と疑われる死亡例が、これまでに少なくとも計34件あることがわかった。ただ、医療施設からの報告漏れや別の死因で処理されたケースも多数あると考えられ、同センターは、34件という数字はあくまで氷山の一角と見ている。

米国以外の国でも、エナジードリンクを飲んだ後に死亡した例や心臓発作などを起こして病院に搬送された例が、これまでに多数報道されている。

エナジードリンクによるとみられる健康被害が多発していることを受け、海外では、エナジードリンクの販売を法律で規制したり、エナジードリンクの製造販売会社に対し、カフェインの影響を受けやすい子どもへの販売自粛を要請したりする動きが広がっている。

現地からの報道によると、インド政府は今年5月、人体に有害な成分が含まれていることを理由に一部のエナジードリンクの国内での販売を禁止した。EUに属するリトアニアも昨年、18歳未満へのエナジードリンクの販売を同様に禁止した。

米大手医療機関のメイヨー・クリニックは、この11月、エナジードリンクの健康リスクに関する新たな研究結果を公表した。その中で、エナジードリンクは以前から言われていた血圧の上昇をもたらすだけでなく、副腎髄質ホルモンの分泌も促し、心臓発作などのリスクを一段と高めると指摘。その上で同病院の研究者は、「現場の医師は、患者のエナジードリンクの摂取量に普段から関心を払うべきだ」と注意を促した。

法規制の動きも

公益科学センターは、FDAに対し、エナジードリンクに使用するカフェインの量をコーラ並みに引き下げるよう規制すべきだと訴えているほか、タバコや酒などと同様、健康への被害を警告するラベルの表示を義務付けるよう要求している。さらに、エナジードリンク内のカフェイン以外の原材料についても、健康への影響を詳しく調査すべきだとしている。

米国では、このほか、イリノイ州なワシントン州など多くの州で、未成年者に対するエナジードリンクの販売を規制する法案が議会に提出されたり、連邦議会の議員が実態調査に乗り出したりするなど、エナジードリンクの健康被害の拡大を食い止めようとする動きが、政治の中からも出始めている。

エナジードリンクが死因と主張する遺族による、製造販売会社を相手取った集団訴訟も各地で起きており、すでに和解が成立したものもある。

米国では、規制強化に関しては業界の反発が強く、実際にどうなるかは不透明だが、エナジードリンクに関する一連の動きが、消費者の注意を喚起したことは確かだ。ある民間調査会社によると、エナジードリンクを飲んだことがある米国の消費者の約6割が、製品の安全性について懸念があると答えている。

日本で売られているエナジードリンクは、海外と同じブランドでも成分が違っており、海外と同程度の健康被害が起きるとは限らない。容器には、子どもや妊婦、カフェインに敏感な人は控えるよう注意書きもある。ただ、注意書きは非常に小さな字で目立たないよう書かれている上、現状では、読んでもどれほど多くの人がピンとくるかは疑問だ。また、今回死亡した人は20代であることから、小さな子どもだけではなく、海外同様、一般の消費者への注意喚起も必要ではないかという議論も今後、出てくるかもしれない。

健康被害の拡大を防ぐため、海外の事例を教訓や手本として生かすことは、今からでも遅くはないはずだ。