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小麦高騰でスーパーの惣菜はピザも麺もピンチ 消費者を救うための次なる食材は?

池田恵里フードジャーナリスト
小麦の高騰から主食であるベーカリー、麺の価格に大きく影響を及ぼす。次なる手は(写真:アフロ)

これまでにない食品価格の高騰 消費者も厳しい状況

消費者物価指数が7月では2.6%上昇し、2%超えは4か月続き、消費者にとって厳しい状況が続いている。エンゲル係数も高止まりしている。エンゲル係数は、現在では消費の多様化から、食費のみで生活水準を図るのは難しい。そのため、過去の指標とも言われてきた。

しかしコロナにより、消費者の行動が狭まれ、今こそわかりやすい指標なのかもしれない。日本人におけるエンゲル係数の平均は約25%で2022年2月を見ると29.5%まで上昇した。これはレジャー中心の支出が減少したことによる上昇と言われている。そして4月には28.33%の上昇となっている。これについては、食品の値上がりによる要因が大きく、全体の85%が食品価格の高騰によるものと言われている(第一生命経済研究所:熊野英生氏参照)。

次に消費者の意識を見ると、暮らし向きは、4月から見てみると、「やや悪くなる」「悪くなる」といったネガティブな回答を合わせて読むと、2月は52%で7月の直近では65%も上がっている。年収も関しても同様で、2月は42%から7月では65%と急激に悪くなっているのだ(内閣府の消費動向参照)。

主な原因とされる食料の高騰の原因は、エネルギーの高騰、金利引き上げによる為替変動が大きく影響している。しかし何といっても日本の食品の約9割が海外からの輸入に頼りきっており、今や依存していると言ってもよいのが問題である。

小麦の状況

例えば、日本における小麦の輸入先は、カナダが9割を占め、次にアメリカとなっている。ウクライナ産小麦の輸出減少は穀物市場に大きく影響している。しかし日本において輸入先がカナダ、アメリカといったことから、多少、ウクライナ問題から回避しているように見える。しかしアメリカは、小麦を生育するために必要な窒素肥料をロシアから購入している。現状、ロシアからの輸入が滞っていることで窒素肥料の価格は2倍に跳ね上がり、アメリカの農家は肥料がこれほどまでに上がると小麦が作れない状況に直面している。今後、最低2年間、もしくはそれ以上、長引くと考えられている。

小麦の問題はウクライナ問題だけに限ってはいない。地球の環境の異常な変化から、嘗てない大規模な干ばつが起こっている。昨年の2021年は、熱波と干ばつが起こり、米南西部では大規模な干ばつ「メガドラウド」という被害となっている。

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さてこのような状況のため、2022年4月、日本の小麦の輸入譲渡金額は、主要銘柄が1トン7万2530円となり、小麦の価格の引き上げが17.3%となった。

ベーカリー、麺がピンチに・・・

小麦を使用している商品として真っ先に思い浮かぶのが、ベーカリー、そして麺である。そこで、これまでのスーパーの動向を見ながら、消費者が日頃使っている、惣菜の売り場のこれからを考えていきたい。

ようやく粗利がとれるようになったベーカリー

スーパーのベーカリーは、長らくテナントに委ねられ、それもあってか、なかなか利益が生まれない商品だった。スーパーの入口に近い場所にベーカリー売り場を構えても、利益が生まれなかったのだ。

しかし、自社で粉からブレンドし、店舗内で混ぜる、もしくはセントラルキッチンで製造したベーカリー生地を冷凍し、店舗に配送、店舗内で焼き始めたことで粗利がとれるようになったのだ。とある関西の有名スーパーが、一律、本体価格100円でベーカリーを販売し、大いに話題となった。これはセントラルキッチンで製造したことで、100円という値ごろな価格設定が可能となった。他のスーパーは、そのスーパーを見て、見よう見まねでベーカリーに注力し始め、結果、2015年には、前年比をみると、110.8%の伸びを表し、2016年は前年比102.6%となった(惣菜白書2017年)。スーパーのイートインの併設で同時に増えたことで、ベーカリー売り上げを押し上げたとされる。

ちょうどベーカリーに注力し始めた前後に、スーパーではピザも手掛け、店舗内で焼くようになった。

惣菜は、通常、定番しか売れないとされてきたが、近年、ピザが定番の商品となった極めてレアなケースだろう。

すっかり定番になったピザも

ピザも粗利がとれると見込んだスーパーでは、惣菜売り場とベーカリー売り場の境界線に並べたり、惣菜売り場の近隣のゴンドラ(陳列台)に大量に並べるスーパーがよく見受けられるようになった。

さて2017年のスーパーのピザ価格を調べると、ホールで450円、500円といった価格設定が見受けられ、これは宅配ピザの三分の一ほどの価格でもあり、焼きたてでの提供で一気に人気商品となった。新業態のディスカウントスーパーの惣菜でも、大量に陳列しているのがピザで、ちなみに昨年、話題となったロピアでも朝から大量に焼かれ、400円から500円の価格設定となっていた。

2021年1月ロピア 本体400円(筆者撮影)
2021年1月ロピア 本体400円(筆者撮影)

ピザの価格に異変

しかし、原料の高騰から、スーパーのピザも最近では1ホール600円以上となっており、容器も変更をかけている(流山おおたかの森の各店舗訪問にて確認した)。

これはピザ容器もコストがアップしており、透明のフィルムを一部使用することでピザの中身が見えるようにしていた。しかし、そのフィルムも高騰している。そこで、中身が見えるようにするために使用しているフイルムの部分を極力減らし、販売している。顧客に少しでも満足してもらうように、食べる商品のコストカットを極力減らし、売る側のスーパーがいかに苦労しているかが窺える。

ハート型に変更し、価格も本体価格550円とアップ(筆者撮影)
ハート型に変更し、価格も本体価格550円とアップ(筆者撮影)

ようやく改善された麺も今、重荷となっているスーパー

麺についても同様である。

スーパーの麺についても、ここ数年で随分、改善された。以前の麺は、並べても「どうせ売れないから」というあきらめと思い込みからアイテム数を少なくし片隅で販売し、200円後半の安価な設定であった。「安かろう、まずかろう」に加え、店側も売ることに消極的で売り場の麺商品の占める面積(フェース)を小さくしていたのだ。麺に占める売り場が狭いとますます視認性が低くなり、さらに売れなくなってしまう。確かにコンビニの商品力の高さは目を見張るものがある。しかし、コンビニの麺価格は、スーパーの麺価格より100円高い設定となっている。中には450円設定のものが見受けられた。これはスーパーの価格に置き換えると、弁当の価格398円(本体)より高くなってしまう。そのため、スーパーでは値段を高く設定し、より良い商品を開発することが非常に難しかったのも一因である。

しかし、ベンダーが製麺機を導入したことで、随分、スーパーの麺が良くなったのだ。その上である程度、陳列することで麺も利益が生まれることがわかり、そこでスーパーは、自社のセントラルキッチンにここ数年、製麺機を導入する企業が増えてきたのだ。ようやく麺の売り場が充実してきた矢先の出来事なのだ。

今回の小麦の高騰で、これから麺の流れは、大きく変わらざるを得ない。その一方で、既にセントラルキッチンに製麺機を入れているスーパーは稼働せざるをえないといったジレンマに陥っている。

このように主食でもある小麦を使用した商品は非常に厳しい状況となっている。

しかし唯一、価格が前年より、下がっている食材があるのだ。

それがなのである。

米がカギ

まず米は、日本での自給率は9割と高い。前年比より数量は増加し、価格は対前年比78%から、最高価格魚沼産コシヒカリでも100%で、それ以上にはなっていない。

農林水産省「米に関するマンスリーレポート 令和4年8月号」より抜粋
農林水産省「米に関するマンスリーレポート 令和4年8月号」より抜粋

今後、弁当や米を使ったピラフの商品がこれまで以上に売り場に並ぶであろう。

そして価格設定の幅が広がりを見せ、おかず類の高騰も踏まえ、値上げは価格設定の低いつまり398円(本体価格)を少しあげていく方向にいく。しかし他の商品ほどの値上げ率と比較すると顧客、スーパー双方に納得できるのではないだろうか。

弁当へシフトするにも慎重に

少し話はそれるかもしれないが、外食から唐揚げ業態に参入した企業で、唐揚げの鶏の供給が、コロナによりストップし鶏肉価格がアップした。このことから閉店に追い込まれた店が多くなり、現在、苦肉の策として「のり弁当」を導入し始めていたのだ。これは米が安価であると知った上でのメニュー構成なのかもしれない。しかし、たとえ米が他の原料より安いとはいえ、白飯だけで弁当は成り立たない。フライ商品はオペレーションが簡単だからとはいえ、油の価格も高騰しており、魚はほぼ価格が上がってしまっている。長年、弁当の食材の原価をよく理解しているスーパー、ベンダーでは売り上げ上位の弁当(一例とんかつ弁当)を発売中止しているところもあるほどだ。つまり米が安価とはいえ、バランスを持って提案していく必要があるのだ。

そしてもう一つ、米粉の提案も必要になってくる。一時期、米粉はブームを見せたが、すぐに下火になった。記憶をたどると、米粉が高かったことでスーパーの希望している粗利が確保できず、商品化ができなかった。

米粉も安価に

最近、米粉が小麦粉より安価なのである。農林水産省(2022年7月)が調査したところ、1キロ当たり120円から390円で小麦粉価格110円より高い。しかし、これはあくまで令和3年ものであるため、4月の17.3%の小麦粉価格の引き上げにより、米粉が安価になる。

日本農業新聞によると、米粉の需要が増えている。

米粉用米の需要が着実に伸びている。農水省によると、2022年度の需要量は4.3万トンと過去最多を更新する見通し。5年前の1.7倍に当たる。新型コロナウイルス下で米粉の家庭用需要が好調で消費者に浸透してきたことに加え、業務用需要が回復傾向にある。製粉業者は輸入小麦高騰を受け、米粉需要のさらなる高まりを期待する。  同省の製粉業者への聞き取りによると、21年度の米粉用米の需要量は前年比14%増の4.1万トン。22年度はさらに5%伸び、4.3万トンを見通す。コロナの影響で20年に家庭用小袋商品の需要が高まり、その後も好調に推移。業務用需要も回復傾向にあることから、全体では需要増を見込んでいる。需要量は一時2万トン台で足踏みしていたが、18年度から増加基調に転じた。米粉の用途別表示やノングルテンの認証制度が整い消費者が商品を選びやすくなったことや、品質安定でパンや麺のおいしさが向上したことが需要増につながった。家庭用商品を販売する米粉メーカーは「コロナ下で家庭で使ったことをきっかけにおいしさが認識され、消費者の認知度も向上してきた」と話す。米粉ならではの食感やだまになりにくい点、天ぷらの吸油が少なくヘルシーであることなどもPRしている。輸入小麦価格の上昇で、小麦粉と国産米粉との価格差が縮まることも米粉にはプラス材料だ。業務用中心の米粉メーカーは「すぐに切り替えるまではいかないが、小麦粉の代替品としての商品提案にお客も目を向けつつあると感じる」と話す。21年産の米粉用米生産量は、主食用からの転換が進み、前年比2割増え4万トン。22年産も引き続き、需要に応じた生産が求められる。

2008年にも小麦の価格が高騰し、その際、今後、起こりうることを見据えていたならば、リスクは少なく、分散できていたかもしれない。そして米は唯一、日本での自給率が高く、主食でもある。パン食に移行している消費者をもう一度、米の良さを分かってもらえるような提案をしていくのが大切ではないだろうか。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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