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2019年度のスーパー、アンダー300坪の小型化、最低賃金アップ、地方ではAI化が一気に進む

池田恵里フードジャーナリスト
消費税で大きく変わった顧客行動 スーパー各社、新たに対応する(写真:吉澤菜穂/アフロ)

大きな分岐点、それが2019年度

2019年度、軽減税率が施行された年であるのはご承知の通り。

中食にとって、激動の年の幕開けとなった。外的要因として、2019年度の人口減は、自然滅が50万人越えとなった。

2019年度のスーパー 大きな特徴

・人口減による都市への小型スーパー 出店加速

・人口減による地方のスマートストアの展開

・軽減税率導入により、中食混乱

では順に追ってみよう。

都市部への小型スーパーの出店加速  そのためにはアンダー300坪での出店が必須条件

日本の中で人口の移入が最も多く、唯一、増加傾向にあるの都市は東京であり、日本の人口の約1割が日本の国土の0.6%である東京に一極集中しているのだ。

これほど人口が密集している都市は世界的に珍しいとされている。その上、日本全体に言えることだが、高齢化に伴い、住民の行動範囲はますます狭くなっていく。勿論、東京は他の地域より地代はがぜん高い。そのためスーパーは小型化された約300坪以下でないとなかなか出店しづらい。

売り場が変わった!食品スーパーの総菜売り場はベーカリーから イートインへ流れ込む

坪数が小さいこと、そして顧客の数が減少していることから、これまでの売り方では通用しない。例えば、小型である為、ポスデーターで惣菜の売り上げ上位3位までの商品構成をしても顧客に支持されない。顧客が減少していくなか、いかに一人一人にその店に何回も来てもらえるか?これがポイントとなる。たとえば売り上げNO1のポテトサラダを大中小と量目を変え、売り場を埋め尽くす。つまり「松竹梅戦略」といった商品陳列だと、顧客に「飽きられてしまう」のだ。

大中小(松竹梅)で構成されているポテトサラダ陳列(筆者撮影)。今後、商品の変化対応が求められる。
大中小(松竹梅)で構成されているポテトサラダ陳列(筆者撮影)。今後、商品の変化対応が求められる。

そして店舗内での調理は人手不足からますます集まらない。今までは、たれと具材を別パックで店舗納入とし、店舗内で混ぜてパックに詰めていた。こんな事さえも人手不足から難しくなっているのだ。最近の多くのバイヤーからの要望として、具材とたれを一緒に混ぜたものを店舗納入して欲しいと言われる。

ということで、混ぜることさえも店舗内では大変であること、今後、自社の工場製造、もしくはOEM(製造委託)に頼る傾向がますます強くなるということになる。

当然、粗利は、OEM、セントラルキッチンに委ねると店舗内で調理した場合の約半分となってしまう。とはいえ、このやり方によって、顧客に支持されるのである。

それが最近、調査したヨークマート中町店。今年の7月にリニューアルオープンした店で300坪で好調である。

ヨークマート中町店(筆者撮影)
ヨークマート中町店(筆者撮影)

7月24日オープン改装後、変更

東京都世田谷区中町5の30の1

競合店

・サミット深沢坂上店

・成城石井等々力店

・二子玉川ライズ東急ストア

パート、アルバイト時給1000円から1100円

構成比(筆者が調査)

弁当298円~598円(本体価格)

最も多い価格設定 本体価格398円

入店すると、まず真っ先に目に飛び込んでくるのは、店舗内で綺麗にトッピングされたスイーツである。これまではスーパーでスイーツを自社で製造しているところがあった。しかしスイーツは原価が高いうえにロスが大量に出ると売り上げはマイナスとなりやすい。そのため、最近、スーパーの売り場にはPBブランド(自社製造の商品)のスイーツがなくなった。売れない要因の一つに陳列棚に並べているだけで陳列の方法まで考えが及んでいないことが挙げられるだろう。つまり遠くから見ると、どこにでも販売している通常のどこにでもあるスイーツ商品に見えてしまうのだ。ここではそれを考慮して視認性の高い売り場となっている。

本体価格198円、258円、298円と綺麗にまとめて陳列している(筆者撮影)。これは198円、たっぷりとイチゴが入っており鮮度感訴求。
本体価格198円、258円、298円と綺麗にまとめて陳列している(筆者撮影)。これは198円、たっぷりとイチゴが入っており鮮度感訴求。

顧客にとって、フレッシュなフルーツがたっぷり盛られたケーキが店の顔となり、鮮度感の良い店という印象が脳裏に刻まれる。

これは他の商品、つまり惣菜、生鮮にも波及する。

総菜の商品の裏面を見ると、冷蔵ではOEM(受託製造)の構成比率が高い。しかし全くそれを感じさせない売り場作りとなっているのだ。

東京では10月1日に最低賃金が改定され、全国1位の985円となった。前年度も全国1位の956円であり、29円アップである。

今後、ますます小商圏での戦いとなり、それはコンビニとの戦いとも言える。人件費の高騰をクリアしつつ、店舗内での作業も残し、顧客そのものが減少していくなか、商品を随時、変えていかないといけない。これらすべてをバランスよく業務を遂行することは非常に難しい。しかし、これらをクリアしてようやく来店してもらえるのだ。当然、商品力を高くしていくことも肝要になってくる。

さて全く別の切り口で人口減に対応しているお店がある。それがスーパーセンター「TRIAL」。

地方では徹底した人件費削除

地方はさらなる人口減少がひどく、人手不足に喘いでいる。今年はスーパーセンター「TRIAL」の「レジまちのないお店」で話題となった。

「TRIAL」は九州に本社があり、全国に246店舗ある。

TRIAL会社概要

トライアルクイック大野城店(筆者撮影)
トライアルクイック大野城店(筆者撮影)

リテールAIを駆使した店舗で、タブレット付きの買い物レジカート、AIカメラ、そしてデジタルサイネージ、電子棚札、スマートフォン用アプリなど最新式のものを導入している。

NEWS RELEASE 株式会社トライアルカンパニー2018年12月11日

そして2店舗目の300坪フォーマットにも行ったが、スムーズに買い物ができた。

1店舗に付き、AIカメラ350台が設置されており、天井を見るとカメラがそこかしこにあり、採算が合うのかと思えるほどだった。とはいえ、既に2019年では既に16店舗導入。今後、このようなAIを駆使した店舗を随時、既存店舗から変更していくということから採算は見合っているようだ。

事実、レジカートを導入することで当然のことながら人件費が大幅削減でき、しかもレジカートで商品を購入した顧客は3割以上とのこと。またAIカメラで顧客の消費行動も把握し、無駄のない商品陳列が可能となっている。これまでとは違った方法で売り場作りを展開していくことで人口減、人手不足の解決をしているのだ。

まずはドミナント方式で九州、佐賀を攻め、57店舗はこの機能を随時、変更していく予定とのこと。これにより次なるステップを踏むとされる。

セミセルフレジが一般化された今、次なる方法としてAIを導入したスーパーセンター「TRIAL」は見逃せない。

さて最後に軽減税率による中食混乱。

イートインで軽減税率が適用されない件について、以前、アンケートを実施したがおおよそ年代に限らず半分以上の人から中食でのイートイン購入は控えるといった回答があり、30代では79%という結果となった。軽減税率が施行された後、やはり減少しているようだ。

調査会社のエヌピーディー・ジャパン(東京都港区、以下NPDジャパン)によると、消費増税後の10月は小売業と外食業のイートイン(店内飲食)の売上高が落ち込んだ。テイクアウトや出前の場合は8%の軽減税率が適用される一方、イートインの場合は10%となる影響が出た。

 コンビニエンスストアやスーパーなど小売業のイートインは、10月の売上高が前年同月比16.7%減と大幅なマイナスとなった。客数が21.9%減少したことが大きい。テイクアウトも台風の影響などで客数が減少、売上高は0.2%のマイナスだった。

 増税前の小売業のイートインの売上高は、8月が10.3%増、9月が11.4%増となるなど4ヵ月連続で2ケタの増加が続いていた。コンビニやスーパーでは、イートインの設置店舗を増やしているが、増税によって市場拡大にブレーキを掛けられた格好となった。

 一方、外食業の10月のイートインの売上高は、5.4%減だった。店内で飲食する客が7.6%減少した。逆にテイクアウト・出前の利用客は6.1%増え、売上高は12.5%増と2ケタの増加となった。ただ、外食業ではイートインの売上高が全体の84%を占めるため、店内飲食客の減少は痛手となっている。

 NPDジャパンでは、「消費増税により、特に専業主婦の節約志向が強まり、10月は外食・中食を減らす傾向が強くなった」としている。

出典:ダイヤモンドチェーンストアオンライン

しばらくは苦戦を強いられるであろう。

とはいえ、本来、中食はロスが発生しやすく、スーパーではロス率が約10%近いことが多い。そのため、注文を受けて出すということでオペレーションさえうまく回る仕組みが出来たならば、イートインでのツーオーダー(注文を受けて調理する商品)はロス率を吸収する。

10月以降の軽減税率導入後、イートインを軽減税率導入後、イートインに関するアンケート調査を行い、その際、イートインに関するもっとも回答で多かったのが「くつろげる場所」であったのだ。顧客第一主義と考えるならば、イートインはこれからも必要ではないだろうか。

最後に人手不足、顧客減少、これらはOEM、セントラルキッチンで大量に作ることでカバーし、AIを使って、無駄をなくす。

これらを組み合わせることでスーパーは今年、大きな一歩を踏めると考える1年だった。

良いお正月をお過ごしください。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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