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中食は10兆円産業と化した。今後いったい、どこまで伸びるのであろうか?

池田恵里フードジャーナリスト
スーパーで売り場の半分を惣菜売り場となっている店舗もあり、なくてはならない存在。(写真:Shutterstock/アフロ)

10兆円産業となった中食産業

この30年で5倍もの成長を遂げ、10兆円産業となった中食。

筆者がまだこの業界に入っていなかった頃は5兆円にも満たない産業であった。

バックルームは3kと呼ばれるきつい状態で女性が活躍する業態ではなかった。

とはいえ、ここで仕事をするためには、現場を知らないとバイヤーさんは相手にして下さらない。

そこで当初は中食の価格設定を知るべく、とあるスーパーのバックルームに朝7時から唐揚げを揚げ続け、それぞれの価格をチェックし、惣菜の品揃え、時間帯を負いながら何パック陳列されているのか、調査したものだった。日々、油負けでひどい頭痛に悩まされた。しかし私はバックルームに入るうちに惣菜は極めて庶民的で日常的でそして現実的な商品が好きだった。

何度かやめようか?と思ったこともあった。しかしやっぱり好きだった。

一般に惣菜は簡単に作れると思われている。私もそう思っていた。あらゆるところで「惣菜のお仕事をしたい」と言い続けると引っ張ってくれる会社も出てきたのだ。ずぶの素人をひっぱってくれた会社は3社あった。なんだかわからないがとりあえず開発をするようになり、部長からきついお言葉を受けつつ、改めて惣菜というのは、参入障壁の高い業態と言うことがじわじわわかり始めた。

・まず購入する顧客と食べる顧客が一緒ではない。

外食だと、注文する顧客と食べる顧客が一緒であることが多い。売り手にとって、どのような顧客が食べるのかがわかる。

惣菜だとそうはいかない。

おじいちゃんが買って帰った惣菜は、誰が食べるかわからないのだ。妻、息子、娘、孫・・・想像しなくてはならない。

とある店舗で異常にg量り売り惣菜を大量に購入する顧客がおられ、不思議に思っていた。のちにスナックを経営されていて、あてに大量購入されていることがわかった。

ということで、何度も申し上げるが購入する人と食べる人が違うのである。

・経時劣化

時間が経っても美味しくないと売れない。開発会議では通常、製造から2時間以上経ったものを試食する。すっかり冷めた状態で食べて味がどうなのかがポイントとなってくる。

「出来立て」が美味しい外食との大きな違い。それは冷たくても美味しいことが鉄則なのだ。

勿論、開発もそれを考慮して作成しないといけない。

この他にもロスの問題もあり、いろいろ考えると一つの商品が出来上がるまでの道のりは決して平たんではない。

このように外食より値ごろで参入障壁の高い中食はついに10兆円越えを果たしたのだ。

詳細を言うと、日本惣菜協会刊「2019年版惣菜白書」によれば、18年の同市場規模は前年比2.0%増の10兆2518億円と9年連続で過去最高を更新。

内訳として

「コンビニエンスストア(CVS)」が前年比2.4%増の3兆3074億1600万円、

「専門店、他」が同1.2%増の2兆9542億4600万円、

「食料品スーパー」が同2.4%増の2兆6824億1400万円

この3業態合計で87.3%を占める。

惣菜の歴史

そこでこれまでの惣菜の歴史をたどってみると、時代の流れも大きく中食産業を成長させた要因となっている。

1980年代後半

1980年は飽食時代を象徴するような食生活だった。

85年に男女雇用機会均等法が成立し、労働市場への女性参加が前進。

これにより、和惣菜では煮物や焼き物など家庭で料理することが少なくなってきた商品が人気となり、洋惣菜ではピザなどのスナック系商品が多くなっている。

バブル景気を背景に、惣菜メーカーの業績は好調の一途をたどった。

90年代

女性の社会進出や核家族化といった社会環境の変化により、惣菜業界にとって追い風となった。

大手資本や異業種から中食産業に新規参入する企業も徐々に増していくとともに、コンビニエンスストア(CVS)による攻勢もあり、競争は激化した。

そして人手不足問題もすでに問題視され、インストアで手作りの惣菜をいかに継続して提供し続けるのかといった課題が浮上してきた時代でもある。

2000年以降

人口動態の変化が与える影響は大きい。

少子高齢化、単身世帯や共働き世帯の増加といった具合に社会構造の変化が大きく、これにより、中食が増加し続けた。

時短や即食型、簡便性などのニーズ

1989(平成元)年から2018年までの30年間の惣菜関連支出変動を、総務省家計調査(2人以上の非農林漁家世帯)から見ると、

18年の消費支出は1989年比4.0%減の344万7782円と縮小傾向。

財布のひもが堅い中で、食料費支出は92年の108万1188円をピークに減少していったが、近年は増加傾向にあり、2018年は95万2170円と1989年に比べると3.5%の微減となっている。

惣菜10兆円産業と叫ばれているが・・・

さて長々と書いたがここからが本題。

社会変化も影響し、おのずと中食は注目され、大きく成長した。

とはいえ、よくよく考えると、今後、どこまで中食が伸長するのであろうか?とふと疑問に思った。

人口減が著しい日本、そして高齢化し、貧困という社会問題も大きくのしかかり、数字がはじき出せない。

そこで元惣菜協会の会長に聞いてみることに。

元惣菜協会の会長「15兆円にはなるでしょう。もしかすると20兆円になるかもしれないよ」

元惣菜協会の会長にその理由を聞くと、外食25兆円から奪取するからと言われる。

確かに今後、外食が嘗てのように1997年の29兆円のピーク時まで戻すことは到底、考えられない。

これは以前にも述べたように29兆円というのは新業態を開発し店舗数を増やし、売り上げをアップした結果に過ぎない。

事実、その後、多くの店舗は撤退の憂き目にあっている。

そこで今のフードサービス協会による外食の構成比率を調べてみると

フードサービス協会から作成
フードサービス協会から作成

外食産業のトータルは25兆円(狭義)である。給食、機内食、そして病院を除いた場合、図のように14兆3434憶円となる。

この図でいずれの業態もマイナスとなることから↓を記した。

例えば、この中に蕎麦・うどんが含まれているが既に1兆円は飽和点に達しており、個人店はおろかチェーンも伸び悩んでいる。

そして高齢化により夜の集客が難しいとされる居酒屋は売り上げが減少しており、ファミリーレストランも一部を除いてほぼ苦戦している。ファミリーレストランの売上の2割を占めるハンバーグなどは今後、高齢化に進むに従って食べなくなる食とされ、やはりなんだかんだと言っても国民食ではない。

さて外食から少なく見積もって、3割奪取しても(もう少し多いと思うが‥‥)4兆円は中食に流れることになる。

元惣菜協会の会長が言われるように15兆円は行くであろう。

つまり

・軽減税率→外食からますます中食へ

・高齢化→夜、出歩かなくなり、家で済ます。2040年には65歳以上が35.5%となるという。

・単身者急増→加工食品に移行している。そして生涯未婚率が女性より高い男性未婚者は調理がなかなか出来ないため、より加工食品を利用する。

次に日本での人口減少も考慮し、これらの中食に流れるであろうと言われる要因を合わせて考えると一体、いくらくらい見積もったら良いのだろうか。

内食からの奪取

そこで内食について考えてみよう。

今後、2015年度から2040年を見ると、食費全体で2%減少(全国農業新聞)すると言う。

人口減とはいえ、その一方で多くの人々は加工食品、調理食品にシフトしていく。

なかでも調理食品、つまり中食に該当される食品に焦点をあててみる。

2015年の食費を家計調査では

総世帯 食費 月61888円

これを2%減で計算すると、

2040年 食費、月60596円

さてこれを人口を2040年では1億1092万人(統計局参照)と仮定して計算する。

調理食品、つまり中食について

全世帯における品目別支出割合は調理食品の伸びが最も大きく、40年は15年比4・2ポイント増の17・4%となる見通しだ。魚介類(生鮮魚介、塩干魚介、魚肉調製品、他の魚介加工品)の支出割合は縮小。7・8%だった15年に比べ、40年には4・2%に減少する。肉類は8・8%と、15年からほぼ変わらず横ばいの見通し。

出典:農林水産省 推計を引用

ということで・・・

60596円×0.17だと10301.32円

10301.32を1億1092万人でかけるとおおよそ114262241440円。

約11兆円となる。

15年度の惣菜売り上げは9兆5814万であるから、11兆円を足すと約20兆円となる。

これに外食から奪取すると計算すると、軽く20兆円は超えると言うこととなる。

ちなみに余談ではあるが、加工食品は食費の全体の半分、つまり50%以上となると家計調査で発表されている。

家計調査より
家計調査より

中食産業は、今後、外食から、内食からみても、20兆円はゆうに超えると考える。

業界内は10月から始まった軽減税率から中食産業にも新参者が出てくるのは必至であり、これまでのようにコンビニエンスストアがけん引する産業かどうかは未知である。

そして加工食品、調理食品が増加し、ますます調理離れは進むとされ、以前にも申し上げたが冷蔵庫がなくなる時代も来るかもしれない。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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