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コンビニのドーナツ参戦、その後、勝敗は?エッジのきいた商品、ミスタードーナツの挑戦

池田恵里フードジャーナリスト
ストロベリーカスタード220円、ハンドカットされたドーナッツで売れ行き好調だとか

ドーナツ市場 約1400億円、コンビニ、外食とのパイの奪い合いとなるのか?

「自宅近所でセブン-イレブンがドーナツを実験販売しているのですよ」

「脅威です、レジ横にドーナツを並べているんですよ」

導入される1年ほど前から外食業界でささやかれ始めた。

ドーナツ市場は1400億円とされ、そのうちミスタードーナツが1000億円強である。

そこにセブン-イレブンが真っ向から昨年10月28日参戦したことは、ご承知の通り。

結果、セブン-イレブンは1店舗一日200個以上になっており、今の店舗数(1万7000店舗)を考えると、ざっと計算しても売り上げは全店導入すれば約1240億となる。今年度でまずは導入可能な店舗は完了となり、今年度の目標は400億円、来年度は600億という目標を掲げている。

さて先述したように、全店導入すれば、ミスタードーナツの売り上げは約1000億円強から単純計算しても、根こそぎ客を取られることとなる。

これまでもセブン-イレブンの商品投入後のスピードは瞬く間と言った印象があり、しかも進化が止まらない。外食産業の危機とも言われ、既に他のコンビニもスーパーまでも右に倣えと参入している。まさに玉石混交と言える。

勿論、ミスタードーナツもただ眺めているのではなく、自社ブランドの見直しがなされ、昨年、コンビニより一足早く7月にオープンしたミスタードーナツの新業態の一つである大阪にある小野原店を手掛けている。

外食の出来立て、店舗内調理とは

これまで高度成長に伴い、外食産業も成長した。それもあって店舗数を増やすことが良しとされ、それを達成するには、より効率化を目指すこと、つまり店舗内のスクラッチ(店舗内調理)を極力排除することが必須となった。

一例

・フライパンの調理をなくす。

・一つの商品が出来上がるまでの工程を限りなく少なくする。

など

当然、店数は増え97年に売り上げがピークとなった。バブル後でも順調に売り上げを上げたことに、皆、不思議がるかもしれない。しかし店数を増やすとおのずと売り上げが上がっただけのことで、厳しく言うと、それは単なる膨張であった。

そして美味しさからどんどん離れた商品提案となり、ホスピタリテイも失われていった。

多くの意見では、外食の売り上げ低下の要因は、中食の台頭からと言われている。それも一理ある。しかしそれより何より、持ち駒を自ら捨てた店舗内オペレーションのそぎ落とした結果ではないだろうか。

その後、2009年からコンビニは一気にインフラ化、11年の震災により加速された形となり、すっかり弱体化した外食から顧客を奪うのは容易かった。

多くの業界人は、外食の今後について、極めて悲観的な見解であり、非常に厳しい状況であることは確か。

とはいえ、今こそ、本来の外食に戻すことをコンビニが示唆してくれたのではないか。

ということで、小野原店(大阪箕面市)

ミスタードーナッツ小野原店
ミスタードーナッツ小野原店

171号線沿いにあり、62坪。

この店舗でミスタードーナツはエッジの効いた商品提案がなされている。

さておいしさについて

・コンビニでは出来ないイースト菌を使い、手で型抜きする製法を導入。

・1回の製造を少なくし、4時間以内に売り切る。今のところ2配送となっているコンビニより鮮度感の訴求。

つまり、本来の外食の厨房の調理の原点に戻った商品投入である。

↑の条件で作られたドーナツがこれ

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店舗内調理のイーストドーナツのなかにはハンドカットもある。今回、試食したのは、そのハンドカットのもの。食べる場所によって生地の中にカスタードクリームがそこかしこに織り込んである。これだけでも手作り感を感じさせる。イーストドーナツだからこそ味わえる、小麦の味も引きだし、食感はもちっとしているが、高齢者にも食べやすい。咀嚼能力の低下が叫ばれている若者にも好まれる噛みごたえ。

パスタで昼食需要

パスタも提供している。

今回は、濃厚ナポリタンセット(ドリンクバー、ドーナツまたはサラダ)880円を購入。ちなみに一日100食以上売れるとか

待っている間も動画で作る様子がわかる。

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とはいえ、あまり待たされた感はない。

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出来上がりでございます。

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料理写真ふうにとったナポリタン
料理写真ふうにとったナポリタン

関西のパスタは、昔ながらの喫茶店で頂くものは甘め。しかし小野原店のパスタは甘さ控えめ、しかも量も多すぎず、少なすぎず。

これだと食が細くなっている現代人にはちょうどよい。

そういえば、ミスタードーナツは、昔から、飲茶などドーナツ以外のものも商品力は定評があり、サブ商品もしっかりとしていた印象があった。屋台商品であるドーナツに決して邪魔しない、むしろドーナツだけでなくパスタを食べにといった目的顧客もあるだろう。

共存共栄 ドーナツ市場の拡大

外食産業は、コンビニに押され気味である。しかし、ミスタードーナツのように原点に戻り、エッジの効いた商品提案への追求をし続けるならば、違ったフィールドでの君臨も可能であろう。顧客は賢く食べ、同じカテゴリーといえど、使い分けしており、コンビニのドーナツ、そしてミスタードーナツをも使い分けが成立するのではないか。ただしコンビニの進化は目を見張るものがあり、これらを手綱を緩ませず考え続けることが大切なのである。文章に書くのは簡単であるが、これが非常に大変であることもよくよく承知している。

くつろぐ、なごむ空間

このように本来の調理を戻すこと、素材の見直しは勿論のことで忘れてはならない。そして何より大切なことは温かい空間、そして落ち着ける場所の提供。それは坪数が決められているコンビニではなかなか出来ないことでもあり、「あの場所が私のくつろげるところ」と顧客の脳裏に刻み込まれたならば、その店、つまり外食に戻ってくる人も増えるのではないか。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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