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左肩負傷から復帰の伯桜鵬 大相撲に入って初めて「緊張した」 次の大阪場所ではちょんまげ姿を初披露予定

飯塚さきスポーツライター
次の大相撲3月場所で十両の土俵に復帰する伯桜鵬(写真:筆者撮影)

デビューからたった1場所で関取に昇進し、大相撲の「令和の怪物」とも称される宮城野部屋の伯桜鵬。幕内まで一気に駆け上がったが、左肩を痛めて幕下へ陥落を余儀なくされた。しかし、先の初場所で復帰し、見事再十両へ。ケガの克服、手術への葛藤、さらにようやく髷が結える次の大阪場所への意気込みを聞いた。

本場所で初めての緊張に「精神的にいい経験になった」

――3場所ぶりに土俵に立った初場所でした。振り返っていかがですか。

「場所前は満足な稽古ができなかったので、出場するかどうか、ギリギリまで師匠と相談していました。師匠はもう1場所様子を見てもいいと言っていましたが、幕下上位なら1場所で関取に戻れるチャンスだったので、どうしても出たい気持ちが強く、半ば無理やり師匠にお願いして出してもらった形です。感覚も全然ダメで、7番すべての相撲が0点なんですけど、たまたま6勝できたので出てよかったとは思います。だからこそ、これからの稽古が大事で、感覚を戻しながら強くなって、再十両でまた頑張りたいです」

――特に、初日は長い相撲でしたね。久々の本土俵はいかがでしたか。

「お客さんの声援がすごく大きくて、ありがたいし感動しました。下に落ちても応援してくれる人のために頑張りたいという思いがこみ上げましたね。ただ、本当に考えられないくらい緊張して、場所に行きたくない、怖い気持ちになってしまったんです。こんなことは初めてでした。でも、土俵に上がったら一人でやるしかない。いい取組ではなかったんですが、運よくまわし待ったで少し回復して体勢を戻せたのが勝った要因かなと思います」

――緊張したんですね。ご自身ではなかなかない、新たな体験だったのではないでしょうか。

「はい。相撲内容はよくありませんでしたが、精神的にいい経験をして、少し強くなったかなと思います。最後にすごく緊張してダメだった記憶は、中学生の大会のとき。それ以来あまり緊張しなくなったんですが、久しぶりすぎて本当に怖くて。稽古ができていないし肩も心配だし、不安だったのかなと。でも、いまはまた稽古ができてきたので、次はいい場所にしたいなと思います」

――印象に残る一番は。

「負けた阿武剋さんとの相撲です。初場所は、立ち合いからすべての流れがダメで、師匠からも立ち合いがよくないとずっと言われていました。ただ、7番のなかで一番いい立ち合いをしたんです。それなのに負けました。自分のなかで、土俵に上がるときには『負けたくない』っていう思いが一番必要ないと思っているんですが、そういう気持ちになってしまった。だから負けたということではないんですが、それを忘れられなくて、印象に残っています。負ければ自分が弱い、勝っても謙虚にというのは高校の恩師の教えで、永遠のテーマです」

長期のリハビリで「強くなったと思う」

――左肩を痛め、丸々2場所休場しました。その間の心境は。

「気にしないようにと思っていましたが、テレビで豪ノ山関や熱海富士関、新入幕の湘南乃海関ら同世代が土俵で活躍しているのを見たら悔しくて、自分も早くその場所に戻って相撲を取りたいという思いでした。同時に、誰よりも稽古やリハビリ、トレーニングを頑張って、いまより強くなって復帰したいという思いや、場所に出られない焦りと歯がゆさもあり、いろんな気持ちがありましたね。でも、周りのトレーナーや治療の先生がメンタルのケアをしてくれたので、なんとかやってこられました。今後の相撲人生にケガはつきものだと思うんですが、いかにケガをしにくい体を作っていくかも大事です。またケガをしたときにも、長期のリハビリを経験したことで強くなったと思います」

――実は、今回再十両の皆さん全員にインタビューしてきているんです。

北磻磨さんの記事を読みました。本当に尊敬します。自分の師匠が現役のときから活躍している方で、だけど幕下に落ちても諦めずに何度も関取に戻っている。支度部屋でのアップを見ても、すごくきちんとされていて、相撲に対して謙虚だなというのを素直に感じたので、見習いたいと思いました」

――そんな北磻磨さんが、伯桜鵬関と戦うイメージをしていたとおっしゃっていました。今回は完敗だったけど、だからこそ次は負けないと。

「怖いです(笑)。でも、自分が大相撲に入ってうれしかったのは、あこがれの師匠が現役のときに対戦していた方々と自分が対戦できたこと。しかも勝ったときは本当にうれしかった。自分が師匠と肌を合わせたことはないので、少し師匠と戦ったような気持ちになって、うれしかったですね」

――次の大阪場所はどんな場所にしたいですか。久しぶりの15日間の相撲ですね。

「いまは、部屋の天照鵬関や幕下力士たちと、いい稽古ができていると思います。このまましっかり稽古して、15日間取り切りたいというのがひとつ。優勝を目指して取り組みます」

――次の場所ではついにちょんまげが結えるとのこと。髷への思いは。

「ようやくお相撲さんらしくなれるのかなと。自分はだいぶ天パで、床山さんに申し訳なくて『ストパー当てますか』って聞いたら、逆に油がつかなくなっちゃうからこのままでいいって言われたんです。でも、櫛を通すと痛くて。トリートメントをしても、濡らしても無理。耐えるしかないです(笑)」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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