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5月場所で11勝の王鵬 “大鵬の孫”のプレッシャーもなく「王道を行く力士になりたい」

飯塚さきスポーツライター
インタビューに応えていただいた王鵬(写真:筆者撮影)

大相撲5月場所、平幕で11勝4敗の好成績を残した大嶽部屋の王鵬に突撃。結果を残した先場所を振り返っていただくと同時に、大横綱・大鵬の孫として感じていることや、強豪の埼玉栄高校時代の先輩・貴景勝から学んだこと、さらには温厚な人柄がのぞく普段の様子まで、幅広く話を伺った。

満足な成績も「もっと押しで勝負していきたい」

――5月場所は11勝4敗の好成績でした。序盤戦は2勝3敗でしたがそこから立て直すことができた理由はなんでしょうか。

「負けようと思って相撲を取っているわけではもちろんないですけど、苦手な水戸龍関と、稽古場でめちゃくちゃ強かった朝乃山関には、どこかしらで負けていたかなと。だから、負けてもなんとも思ってはいなかったですね。相撲内容は悪かったんですけど、体の調子自体は悪くありませんでした」

――9日目以降の後半戦は連勝街道でした。

「中日の琴恵光関戦も、負けはしたんですけど、体はとても動いていて、いい相撲が取れたので気分よくできていたかなと思います」

――12日目で勝ち越しました。心境はいかがでしたか。

「その日の相手だった阿武咲関には、稽古場で全然勝てないんです。場所だと分がいいんですけど、稽古場になると30番やって1番も勝てない。だからこそ、ここで負けたらダメだと思って臨みました」

――5月場所で特に印象的だったのは、14日目の北青鵬関戦。ご自身より大きな相手に華麗な外掛けが決まりました。

「全然イメージしていなかったんですけど、前の日寝る前にずっと霧馬山関と北青鵬関の相撲を見ていたんですよ。それが頭に残っていたのかなと。本当にとっさだったので、狙っていたわけじゃないです。本当は、出だしで突いてそのまま押し切るつもりでいました。途中、切り返しなんかしましたけど、膝が届かなかったんです。足の裏をつけて返すんですが、背伸びをした状態で足を返したので、めちゃくちゃきつかったですね。北青鵬関は、脚の長さが規格外ですし、力を感じました」

――千秋楽は、小兵の翠富士関相手に1分超の長い相撲になりました。最後の引き落としのタイミングはどう見計らっていたのですか。

「相手が出てくるのを待っていました。上から相手の足が見えるので、相手が肩透かしで来たら前に出て、逆に前に出てきたら落とすという二択に絞っていたんです。よく我慢できたんじゃないかなと思います」

――総括してどんな場所でしたか。

「本当はもっと上の番付で取りたいけど、下位ながらいい相撲が取れたかなと思います。でも、押し切れる相撲が少なかったので、もっと押しで勝負できるようにしていかないといけないですね」

自分の稽古をしながら若い衆にもアドバイスを送る王鵬(写真:筆者撮影)
自分の稽古をしながら若い衆にもアドバイスを送る王鵬(写真:筆者撮影)

高校の先輩である大関・貴景勝がお手本に

――関取が目指しているのはどんな相撲ですか。

「体の大きさを生かした、破壊力ある突き相撲です。このサイズでも頭で当たって、どんどん前に出ていくこと。自分が一番気持ちいい相撲を取れるようにと思っています」

――現在の課題はなんですか。

「自分がなっちゃいけない形になって、何もできずに終わってしまうこと。抱え込んだり引いたりして、そのまま持っていかれるとか。今場所は横によく動けていたのでよかったんですが、前に出られたら引くことはなくなると思っています」

――おじいさまが偉大な横綱でいらっしゃいます。「大鵬の孫」として注目されることはどうお感じでしたか。

「僕は三男で、小さい頃から言われていますし、そんなに気になったことはないですかね。むしろ、それが理由で応援してくれていることが多いので、逆にありがたいです。次男(三段目・納谷)はプレッシャーに感じるタイプだけど、自分はそんなにありません」

――幼少期から相撲を始め、強豪・埼玉栄高校へ進学。高校の先輩である大関・貴景勝関から学んだことは何かありますか。

「貴景勝関は、付け人にもつけさせていただいていて、15日間の取り組み方を知っている唯一の関取だったので、基本は貴景勝関を真似しています。貴景勝関って、ほかの関取衆と比べてアップの時間が短いと思うんですけど、始め出したら声をかけられないくらいの集中力でやるんです。ダラダラやるより短い時間でしっかり取り組むことが大切なんだなと教わりました。花道に行くまでの流れは、ルーティン化されていないのに基本の筋があります。例えば、今日はここの調子が悪いなと思えばいつもとアップの仕方が変わっているとか、基本はしっかりあって、でも臨機応変でもあり、男らしいしカッコいいなと思います」

インタビュー当日は山響部屋に出稽古に行って汗を流した(写真:筆者撮影)
インタビュー当日は山響部屋に出稽古に行って汗を流した(写真:筆者撮影)

温和でマイペースながらも、相撲では「上位で戦いたい」

――コロナの影響が少なくなり、だいぶ日常生活が戻ってきました。普段はどんなことをしているのが好きですか。

「基本、ぼーっとしているのが好きです。やりたいことをやっているのが一番いい。この間、追手風部屋近くのスーパー銭湯に行ったら、そこの電気風呂がめちゃくちゃ強くて気持ちよかったです。お風呂が結構好きなんですけど、コロナ禍ではお風呂にも行けなかったので、ようやくリラックスできています」

――実益も兼ねたいい趣味ですね。お相撲さん同士で仲のいい人はいますか。

「あんまりいないんですけど、結構先輩たちによくしてもらっています。巡業中は豪ノ山関とごはんに行ったり。本当に、あんないい人いないですね。先場所もすごかったですよね(14勝1敗で十両優勝)。次は幕内で当たるかもしれないので、楽しみです」

――いろいろなお話を聞かせていただきありがとうございました。今後、どんな力士になっていきたいですか。

「しっかり上位に食い込んでいけるように、次もしっかり勝ち越して、毎場所上位と対戦が組まれるようにしたいです。去年の11月は、何番か上位戦を組んでもらって勉強になることが多かったですし、上の人たちと対戦するのは楽しかったです。これからまた自分の武器を磨いて、王道を行きたいですね」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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