Yahoo!ニュース

突然やってきた衝撃の番狂わせ――照ノ富士に気迫と闘志で向かっていった大栄翔

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

一番上の番付の人が、連日勝って優勝する。それが最も自然な流れだ。今場所は、きっとそんな場所になる――悠長に構えていた筆者を、いい意味で裏切ってくれたのは、なんと平幕の力士だった。

大栄翔が堂々の相撲で新横綱を下す

8日目まで連勝し、単独で中日勝ち越しを決めた新横綱の照ノ富士。中日は、ベテランの玉鷲を相手に、のど輪で押し込まれる危ない場面があったものの、形勢逆転し、冷静に寄り切った。今場所初めてヒヤリとした一番だったが、不利な体勢から白星をもぎ取る姿に、もう誰も彼に勝てないのではないかと思わされた。

しかし、そこに切り込んでいったのが、自身も優勝経験のある大栄翔だった。初場所の平幕優勝から、人気・実力ともに上がっていったが、直近2場所は負け越しており、調子が案じられていた。それでも、この日は新横綱に対し、気迫と闘志で向かっていったのだ。

立ち合い。頭で当たると、照ノ富士が左手で大栄翔の下がりをつかむ。捕まえたい照ノ富士、離れて取りたい大栄翔。すると、大栄翔が右をおっつけながら左ののど輪で突き放して前に出た。懸命に照ノ富士の大きな体を押し続け、両腕を差し込んで寄ると同時に、横綱が力なく土俵を割った。向かうところ敵なしと思われた新横綱から、大きな金星をもぎ取った瞬間だった。

過去の対戦成績は、大栄翔の2勝5敗。勝った2回は、どちらも得意の突き押しを繰り出し、押し出しで勝っていた。今回は、最後に両腕が相手の腕からのぞく形で「寄り切り」となったが、完全に大栄翔の相撲だったといえる。

照ノ富士初の全勝優勝が見られるのかなと、心の隅でぼんやり考えていた筆者は、まるで大栄翔自身に頬を張られたような衝撃を受けた。この俺がいるじゃないかと、彼は全身で世間に知らしめたのだ。普段は温厚で、まっすぐで、誰にでも優しい大栄翔だが、このギャップがたまらない。

新横綱に挑戦する業師・宇良

本日は、終盤戦に入る10日目。割り返しがなされ、すでに負け越してしまった千代翔馬に代わり、好調の業師・宇良が、新横綱に挑戦する。宇良にとっては、結びの一番で取ることも初めてだ。

ひざの大ケガを乗り越えて、再び番付を上げてきた二人。前日の負けを引きずらない、強い精神力をもつ照ノ富士に死角はないが、トリッキーな宇良が、これをどう崩しにいくか。今日の結びは、今場所最も見逃せない一番と言っても過言ではないだろう。果たして、その結果はいかに――。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

飯塚さきの最近の記事