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優勝はやはり照ノ富士しかいなかった――夏場所に光をもたらした力士たちの奮闘

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

18時が過ぎた後、この上なく大きな充足感と脱力感に身をゆだねる。見るほうも力の入った千秋楽だった。

本割では貴景勝に軍配

2敗トップの照ノ富士と、3敗で追う貴景勝による結びの一番。照ノ富士が勝てば優勝、貴景勝が勝てば優勝決定戦にもつれ込むという展開だった。

固唾をのんで見守るも、勝負は一瞬だった。立ち合いで両者がぶつかると、貴景勝が素早く引いて突き落とし、照ノ富士をねじ伏せたのだ。あっけない一番であったが、貴景勝の前への圧力が強かったからこそ効いた鋭い突き落とし。本割でスタミナを使うと、決定戦で不利になると考えたのだろう。頭脳派の貴景勝らしい作戦勝ちだったと予想する。真の勝負の行方は、二人の優勝決定戦へと持ち越された。

決定戦に挑んだ両者 来場所は綱取りへ

決定戦では、なんといっても照ノ富士の両ひざが心配だった。どの力士にとっても、日に2番取るのは並大抵のことではない。相当な体力を消耗するのだ。本来なら本割で勝負を決めたかったところだろう。照ノ富士は、立ち合いから組み止めて一気に土俵外へもっていきたい。貴景勝は、今度こそ自分の突き押し相撲で突いて押し出したい。決定戦も、すべては立ち合いで決まると思われた。

注目の立ち合い。頭からぶつかる貴景勝に対し、かち上げながら立った照ノ富士。その刹那、両者は一瞬止まって見合った。照ノ富士は、右を差して組み止めようとしながら寄っていく。再度両者の体が離れ、貴景勝が頭をつけて押そうとしたところ、照ノ富士が素早く体を開いてはたき込み。貴景勝は、これに足がついていかず、ばったり前に倒れてしまった。予想と異なる相撲内容だったが、照ノ富士が2場所連続、自身4度目の優勝を決めた瞬間だった。

大関復帰場所での優勝は、昭和以降史上初の快挙。序盤から独走態勢で場所を牽引し、反則負けや行司差し違えでの黒星にも屈することなく、最後は場所を締めてくれた。15日間を通して、本当に非の打ち所がない素晴らしい取組の数々を見せてくれた大関。優勝は、やはりこの人しかいなかっただろう。

対して、本割で意地を見せ、最後まで真っ向勝負で戦った貴景勝。その気力には大いに魅せられた。優勝した照ノ富士はもちろん、同じく12勝の貴景勝も、次の名古屋場所は綱取りをかけて臨むといっていいのではないかと、個人的には思っている。現状では、進退をかけた横綱・白鵬も出てくる予定だ。来場所も、二人が切磋琢磨しながら、自らの手で最後の番付をつかみ取ることができるか。貴景勝が綱取りならば、照ノ富士と二人の横綱同時昇進の可能性も秘めており、いまから非常に楽しみである。

角界に光をもたらす力士たちの奮闘

結びの一番前、大関・正代に挑戦した遠藤は、惜しくも敗れて優勝争いから脱落してしまった。しかし、2日連続で貴景勝・照ノ富士を堂々の相撲で破り、ここまで場所を見ごたえあるものにしてくれた、その功績は大きい。最後まで戦い抜いた貴景勝と共に、遠藤にも心からの敬意を示したい。

終盤戦の3人の奮闘によって、大盛況のうちに幕を閉じた大相撲夏場所。場所中には、大関・朝乃山の不祥事で暗い影を落とす一幕もあったが、そこに光を差し込んだのは、やはり土俵の充実に専念し、死闘を繰り広げた力士たちだった。「何が起こるかわからない」相撲の面白さを見せつけてくれた彼らのおかげで、なんだか晴れやかな気分で場所を終えた自分がいる。毎度ながら、素晴らしい戦いを演じたすべての力士たちに、心からの敬意と感謝の気持ちを送りたいと思う。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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