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コロナで休場の力士は本場所をどう過ごすのか? 親方衆が異口同音に語ったこと

飯塚さきスポーツライター
写真:日刊スポーツ/アフロ

新型コロナウイルスの影響により、初日から65人の力士が休場する事態となった大相撲初場所。幕内の取組は18番(通常21番)、十両は9番(通常14番)と少なく、なんとも寂しさが拭えない。

では、休場している力士たちは、本場所中どのように過ごすのだろうか。現在コロナ関連で休んでいる力士に直接話を聞くことはできないが、親方衆に電話で聞いた話を交え、コロナ禍で休場中の力士たちの過ごし方や心境を、ここに紹介したい。

休場の流れと場所中の過ごし方

通常、ケガをした力士は、病院で診断書をもらい、それを師匠またはマネジャーに託して、休場届と共に日本相撲協会に持っていってもらう。長期にわたる症状でない限り、休場中は基本的に安静にするか、治療やリハビリに専念し、ケガを治すことに専念するため、稽古場に下りることはあまりない。そう話すのは、元関脇・嘉風の中村親方だ。

「ケガでその場所を休んだということは、もうそこから来場所へのスタートを切ったということ。まずはケガを治すほうに気持ちを持っていくので、治療に専念します」

それなりに歩けたり、痛み止めやテーピングで相撲が取れたりする状態であれば、普通は休まない。逆に、大ケガを負って休場が長期にわたる場合は、治療を経た後、復帰の一途として、リハビリを含め稽古場に下りることもあるという。

ただし、インフルエンザといった感染症の場合は、自身の治癒に加えて、他人に移さないことも非常に重要になってくる。病気休場の場合は、感染拡大を防ぐためにも、稽古場に下りることなくとにかく安静にし、治癒に専念する。

大切なのは気持ちの切り替え

休場の記憶をたどって「とにかく悔しい気持ちでいっぱいでした」と振り返るのは、元関脇・豪風の押尾川親方。いつも戦っていた相手が相撲を取っている姿を見ると、悔しくてたまらないため、テレビ中継も見られないほどだったと回顧する。

「どうしても相撲が気になってしまうので、夕方6時まではテレビの近くにいないようにしたり、わざと夕方の時間にリハビリや治療の予約を入れたり、工夫していました。とにかく悔しい気持ちは人一倍でしたね」

しかし、ことコロナといった病気の場合は、切り替えが大事だと押尾川親方は話す。

「自分みたいにうじうじ考えていても仕方ないので、とにかく保健所や医療機関の指示に従って、焦らないこと。プロスポーツ選手として、気持ちを切り替えられる力士が、次にまた這い上がって来られるんだと思います」

今回のコロナ対応に関しては、二次クラスターを防ぐため、無症状であっても濃厚接触者が稽古場に下りることを禁じている部屋もある。稽古もできず外出もできず、歯がゆい思いをしながら過ごしている力士も多いことだろう。部屋のなかでの隔離など、感染予防対策を徹底する一方で、体力を落とさないための食事やトレーニングに励んでいる力士もいるに違いない。

「番付据え置き」の捉え方

昨年の11月場所で、クラスターが発生した玉ノ井部屋の力士たちは全員休場したが、番付は据え置きになった。この前例があるため、今回の休場者の番付も据え置きになるのではないかと見られている。しかし、ここで据え置きをどう捉えるかが重要であると、両親方は異口同音に話す。

「番付据え置きで休場できてラッキーと思うか、自分は強くなるために力士になったんだから、番付を上げるために相撲が取れなくて悔しいと思うか。結局は2つに1つなので、その気持ち次第で、その力士の相撲人生が決まると思います」(押尾川親方)

「コロナという目に見えないものに屈したからといって、誰も悪くありません。感染者を責めるような人が少なからずいますが、いまは誰もがいつかかってもおかしくない状況です。だからこそ、休んでいる力士は気持ちだけでも前を向いて、来場所に向けて頑張って調整してほしい。私からもエールを送ります」(中村親方)

同じ事象でも、捉え方によって、今後の行動が変わってくる。現在休んでいる力士たちも、両親方の言葉通り、この状況を逆手にとって這い上がってこられるか。ファンも信じて待っている。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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