Yahoo!ニュース

マスク越しでも香り漂う「あの匂い」 両国国技館のたまり席から聞こえる音は? 匂いは?

飯塚さきスポーツライター
今場所から復活した協会公式グッズの売店(筆者撮影)

徐々に活気が戻る両国国技館

今場所から、観客数の上限が2500人から5000人に引き上げられた両国国技館の館内。協会関係者も、コロナ前の1月ほどではないが、活気が戻ってきたと顔をほころばせる。

「来ていただくお客さんが、とても楽しそうにお帰りになるんですよ。皆さんの顔を見ていると、少しずつですけれど通常の本場所に戻ってきているのかなと思います」

実際、館内には協会公式グッズなどの売店の数が増えた。YouTube「親方ちゃんねる」でお馴染みの親方たちが売店のなかに立ち、グッズを買いに来るファン一人一人に丁寧に声をかけてくれる。

また、先場所から人気のレトルトカレー「国技館カレー」の巨大なパネルが、正面玄関入ってすぐのところに設置されており、横に立って写真を撮るファンの姿が多く見受けられた。取組だけでなく、それに付随する来場の思い出を盛り上げようと、協会の粋な工夫が垣間見られる。

筆者の席はというと、向こう正面西の花道脇のたまり席。西方力士が真横を通る特等席だ。今年は初場所で一度たまり席に座ったが、そのときよりも圧倒的に周囲の人数が少ないため、広々としていてゆっくり観戦することができた。

たまり席での観戦に五感が喜ぶ

花道を挟んだ向こう側には、アナウンス担当行司が座っている。取組が終わるごとに「突き落としですね」などと決まり手を確認し合う声まで聞こえてくる。また、時間いっぱいになったときに、土俵下の呼出しが力士にタオルを差し出しながら「時間です」と言う声もはっきり聞こえた。先場所に比べればお客さんの数は多いが、それでもまだ通常に比べれば静かであることと、たまり席がそれだけ土俵に近いため、いろいろな音が聞こえてくるのだ。

たまり席の土俵からの近さは、「匂い」からも説明できる。十両土俵入りの際は、多くの力士が一度に土俵に上がるのと、周囲にまだお客さんが多くないためか、彼らのびんつけ油の香りが席にまで届いてきた。マスク越しではあるが、思わず鼻から深呼吸して、その香りを胸いっぱいに充満させて喜びに浸った。

そのほかにも、土俵上で足を痛めて起き上がることのできなかった、幕下の一木の重々しいうめき声や、負けて花道に下がっていくときの天空海の「あぁーくそ!」と悔しさをにじませる声、物言いがついたときの親方衆の声など、ほかの席からは聞くことのできないさまざまな音が耳に入ってくる。観客が間引きされたたまり席での相撲観戦は、まさに「五感で楽しむ」貴重な体験であった。

楽しい感染予防対策「お楽しみ抽選会」

帰り際には、混雑を防ぐために、こんな粋な計らいも行われた。

すべてのお客さんに向けた、力士のサインやグッズなどが当たる「お楽しみ抽選会」だ。今場所からの試みで、正面・西・東・向こう正面の4方向に分かれて、順番に抽選が行われる。抽選が終わった方向の席のお客さんから順番に帰すことで、密を避けながら帰路についてもらえるというわけだ。

抽選会の司会は、呼出しの克之さんと重夫さんの仲良しコンビ。席番号が書かれたくじを引くのは4人の親方衆で、この日は安治川親方(元安美錦)らが担当。最後までお客さんを楽しく盛り上げてくれた。

本場所ながら、まるで巡業のようなファンサービスで締めくくられた国技館から、多くのファンが、確かに笑顔で帰っていく。かく言う筆者も、この日ばかりはその一人だった。生の取組を、しかもどの席よりも迫力満点で味わえるたまり席での相撲観戦。なかなか手に入れることが困難なチケットではあるが、相撲ファンであれば生涯に一度は味わっていただきたい贅沢である。

マス席、イス席であれば、日によってまだ空席がある。皆さんも、先場所よりも活気が戻ってきた国技館に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

飯塚さきの最近の記事