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大相撲史に残る場所は「三つ巴」の可能性も 優勝決定戦の場合の組み合わせとは?

飯塚さきスポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

あまりの熱戦の数々に、興奮冷めやらぬ心が、冷静でいたい頭に追い付いてこない。この時点ですでに、今場所を「令和一の場所」だと感じてしまう。単に優勝争いという側面だけ見ても、これだけ最後までもつれ込む展開はそうそうあるものではない。それに加えて、力士たちの人間模様やいままでのドラマの数々を重ね合わせてしまうと――。こんなにもたくさんの感情が数時間で一気に押し寄せ、それらをうまくコントロールする術を、いまの私は持ち合わせていない。

照ノ富士に土…正代気迫の勝利

新大関・朝乃山との直接対決を制し、単独トップに躍り出た照ノ富士は、すでに二桁勝利を決めていた関脇の正代と対戦。これまでの対戦成績(照ノ富士の4勝3敗)を見ると、正代が勝つ可能性は大いにあるとは書いたものの、それが現実になったときには、大きく目を見張ってしまった。

捕まえたら照ノ富士が有利な展開になるが、立ち合いで先手を取ったのは正代だった。照ノ富士が左の前みつを取るも、当たった圧力が勝って出ていったのは正代。その後、肩透かしで取られた前みつが切れ、相手の体勢が崩れたところをすかさず攻めて寄り切った。決まった直後、落ちた下がりを拾い上げながら、腕を大きく振って正面を向く。強い闘志が乗った素晴らしい相撲だった。

作戦勝ちの照強が援護射撃

照ノ富士にここで土がついたことで、優勝の決定は千秋楽に持ち越しとなった。結びの一番は、勝ってトップに並びたい朝乃山と、勝って同部屋の照ノ富士に援護射撃をしたい照強。初顔合わせだ。照強にとっては初めての結びであり、自身の勝ち越しもかかっていた。

大きな期待のかかった一番は、立ち合いの一瞬で勝負が決まることとなる。照強が、立つと同時に低く潜り、朝乃山の左足を取りに行ったのだ。右四つになりたい朝乃山は、立ち合いで必ず左足を踏み込む。そこを狙った足取りが、見事大成功となったのだ。目の前の敵を見失った朝乃山は、次の瞬間土俵上に転がっていた。

巧妙な“作戦勝ち”で、力強く手刀を切った照強。足取りについては前日の夜から考えていたと言い、自身の付き人であり、この日新十両への昇進を確実なものにした錦富士からも「いけるんじゃないか」と背中を押されたのだと明かした。

また、優勝を争っている照ノ富士について「単独首位になってよかった。優勝してもらいたい。“伊勢ヶ濱部屋軍団”として、援護できるところはして。緊張感はなかった」と話す。そして、「自分の相撲が取れてよかった。あと一番勝って、上位に行けるように頑張ります」と、千秋楽への意気込みで締めくくった。

歴史に残る七月場所

照強による大きな大きな援護射撃で、またしても2敗トップに立った照ノ富士。しかし、3敗には新大関の朝乃山に加え、正代・御嶽海の両関脇が控えている。千秋楽では、照ノ富士が御嶽海と、朝乃山が正代と対戦する予定だ。

部屋を上げての援護に、照ノ富士は応えられるか。それとも、新大関のプレッシャーに打ち克ち、朝乃山が意地を見せるか。はたまたここで、二人の関脇が名乗りを上げるか。

どんな展開になろうとも、令和二年七月場所が、大相撲史に残る至極の場所になることは間違いないだろう。未曾有の事態に世界が沈むなか、大相撲が明るい光をもたらしていることに、心からの敬意と感謝を込めて、千秋楽を迎えたい。

<参考>優勝の可能性がある4人

▽12勝2敗 照ノ富士

▽11勝3敗 朝乃山、正代、御嶽海

千秋楽で

・照ノ富士が御嶽海に〇 → 照ノ富士の優勝決定

・照ノ富士が御嶽海に● 朝乃山が正代に〇 → 朝乃山、御嶽海、照ノ富士による優勝決定戦

・照ノ富士が御嶽海に● 朝乃山が正代に● → 正代、御嶽海、照ノ富士による優勝決定戦

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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