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無観客場所を沸かす「おにぎり君」 優勝戦線に踏みとどまる平幕・隆の勝はどんな力士?

飯塚さきスポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、史上初の無観客開催となった大相撲春場所。初日こそ大きな違和感があったものの、力士たちも高い適応力を見せ、連日熱戦が繰り広げられている。

今場所、横綱に続いていち早く勝ち越しを決めたのが、千賀ノ浦部屋所属の隆の勝関だ。自己最高位の東前頭9枚目にいながら、9日目での勝ち越しは自己最速記録。2桁勝利も見据えて、残る取組に臨む。

ファンからは“おにぎり君”とも称されており、癒し系の風貌で愛される隆の勝関。以前伺ったご両親の言葉を交えながら、隆の勝という力士について紹介しよう。

関取昇進までに7年かかった苦労人

1994年。隆の勝こと石井伸明少年は、6人兄弟の4番目に生まれた。整体院で働く母・雅代さんによると、生まれたときは3700gと大きく、小さい頃から食欲旺盛で、兄弟では唯一のぽっちゃりさんだった。白いご飯が大好きで、保育園でも飛びぬけて体が大きかったそう。

そんな伸明少年は、小学1年生で相撲と出合い、3年生のときに地元・千葉県の柏相撲少年団で本格的に相撲を始めた。厳格な父・俊哉さんの指導もあり、最初は嫌がっていた稽古も、積極的に取り組むようになった。

中学生になると、全国中学校相撲選手権で千葉県代表団体戦メンバーの1人として出場。いつしかプロ入りは現実的な目標となっていた。

千賀ノ浦親方が正式にスカウトに来たことを機に、中学卒業とともに入門を決意。しかし、関取までの道のりはそう甘くはなかった。

2010年3月に初土俵を踏み、12年5月場所には幕下に昇進。しかし、その後2度三段目への陥落を経験する。母・雅代さんは、それでも「腐らずに頑張れ」と、励まし続けた。

そして17年9月場所。東幕下3枚目で6勝1敗とし、念願の関取昇進をものにした。実に7年を超える努力が実った、歓喜の瞬間だった。

母の支えで白星を重ねる

柏市からの関取誕生は、麒麟児以来44年ぶり。これを機に、四股名を「隆の勝」に改名した。一度関取に上がると、体格も見違えるように大きくなり、客観的に見ていても堂々とした相撲を見せるようになった。以来、一度も幕下には陥落せず、白星を重ねてきた。

得意の押し相撲を武器に、スタミナをつけてきた隆の勝関は、大きなケガがあまりないことも特徴として挙げられる。その秘密は、整体師の母・雅代さんの目と治療にある。

「私が整体師なので、場所中でも痛そうだと思ったら治しに行っています。取組を見れば、痛めたり弱かったりする箇所がわかるのです。伸明は、子どもの頃から私の師匠の岩本先生という方に治していただいていたおかげで、ケガのしにくい体になっているんだと思います。これからもケガなく、健康第一で頑張ってもらいたいですね」(雅代さん)

そんな隆の勝関は、昨日も小柄で業師の石浦関に快勝。落ち着いた取り口で押し出し、また一つ、白星を重ねた。2敗を守り、二桁勝利は見えてきた。優勝争いに絡むのは、彼のほか、1敗でリードする横綱・白鵬、碧山に加え、同じく2敗の横綱・鶴竜、朝乃山、御嶽海。12日目となる今日は、同じく2敗で大関を目指す朝乃山戦となる。今勢いのある力士だけに、一段と気合を入れて臨むことだろう。

鋭い押し相撲で魅せた後、ほっと安堵したような“おにぎり君”スマイルで、ファンを癒してくれることを願う。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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