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吉野家常務の「生娘をシャブ漬け戦略」 日本では“不適切発言”、海外では“性差別発言”と報じられる

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
常務による性差別発言は海外でも多店舗展開している吉野家のイメージダウンに繋がる。(写真:ロイター/アフロ)

 また、日本から“性差別発言”が飛び出した。

 その発言をしたのが、アメリカや中国、インドネシアなど海外で973店舗(2022年3月時点)も展開している吉野家の常務取締役とあって、欧米やアジアなどの海外メディアも報じている。

 SNSの投稿によると、その常務取締役は若い女性をターゲットにしたマーケティング戦略を「生娘をシャブ漬け戦略」と表現し、「田舎から出てきた右も左も分からない女の子を無垢・生娘のうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢ってもらえるようになれば、(牛丼は)絶対食べない」と言及したという。

 日本の主要メディアはこの発言について肩を並べたように“不適切発言”という言葉を入れたタイトルで報じているところが多いが、そこに筆者は違和感を覚えている。確かに不適切極まりない発言だが、海外メディアを見ると、彼らはそのタイトルにはっきりと“性差別発言”(sexist remark)という言葉を使い、より明確化しているのだ。例えば、AFP通信は「日本のファストフードチェーンが性差別発言をした役員を解任」、英紙インディペンデントは「日本のフードチェーン、ヴァージン(処女)を牛丼中毒にするという性差別発言をしたディレクターを解任」といった具合だ。

 なぜ日本のメディアはそのタイトルで“性差別”に触れないのだろうか? どこからどう見ても、これは甚だしい性差別だ。女性に対する差別はもちろんのこと、この発言は、ヴァージンの女性や田舎から出てきた女性に対する差別や蔑視も多分に含んでいる。

 米紙フォーチュンは「吉野家の取締役会の女性は一人である」と同社では女性エグゼクティブがあまり登用されていない状況も示唆している。msn.comは「日本は国際ジェンダー平等ランキングでしばしば下位となっている。2021年の世界経済フォーラムの世界ジェンダーギャップ指数で、日本は156カ国中120位だった。日本の女性は高等教育を受け、職場にいるにもかかわらず、ビジネスや政治においてほとんど高い役職に就いていない」と日本社会における女性の地位の低さも指摘している。

 昨年、当時東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会会長だった森喜朗氏が五輪開催を前に「女性が入ると会議に時間がかかる」という性差別発言をして世界のメディアからバッシングを受け、辞任したことは記憶に新しい。

 これまでも、日本社会の女性蔑視の姿勢や日本の女性の社会的地位の低さについては、たびたび世界のメディアが指摘してきた。近年では、女性従業員がメガネを着用することを禁じられたりハイヒールを履くことを強制されたりすることがあるという、職場での女性差別問題も取り上げられている。

 今回の吉野家常務による性差別発言は、過去のバッシングから得たであろう教訓が日本の女性に対する差別的蔑視的姿勢の改善に繋がっていないことを証明している。日本はいつまで「変わらない日本」であり続けるのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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