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北朝鮮による相次ぐミサイル発射、最悪のシナリオとは? 米国の専門家の見方

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 今年に入ってからすでに4発が発射され、近隣国に大きな脅威を与えている北朝鮮のミサイル。アメリカの専門家はこの状況をどうみているのか? 

北朝鮮問題は優先順位が低い

 まず、北朝鮮問題は、バイデン政権にとって、外交政策上、優先順位が低いという見方がある。

 新アメリカ安全保障センターのインド・パシフィック安全保障プログラムの研究員ヤコブ・ストークス氏は、アメリカの政治ニュースサイトtheHill.comの中で、「バイデン政権はすでにたくさんの問題を抱えているので、北朝鮮と新たに外交交渉を始めたいとはあまり考えていないのではないか」とみている。

 確かに、バイデン政権は多くの外交問題を抱えている。ウクライナ国境ではロシアが軍備を増強している。ホワイトハウスのサキ報道官は「はっきり言おう。今、極めて危険な状況になっている。ロシア軍がいつウクライナ侵攻を始めてもおかしくない」と言及し、バイデン氏も、19日、ロシアが侵攻すれば大規模な経済制裁も行うと警告した。

 また、イラン核合意の再建協議も難航し、米軍撤退後のアフガニスタンも混迷状態が続いている。

 そんな中、バイデン政権は北朝鮮に対してどんな戦略を取ろうとしているのか? ストークス氏は「バイデン政権は、オバマ政権とトランプ政権の戦略の両立を模索している」とみている。

 オバマ政権の北朝鮮戦略は「戦略的忍耐」と呼ばれるものだった。それは、北朝鮮が非核化に向けた具体的な取り組みを行うまで、高官レベルでの交渉には応じないという姿勢である。一方、トランプ政権は、結局失敗に終わったものの、2度の対面交渉を行うという積極的アプローチを取った。

 確かに、バイデン政権は北朝鮮に対し「前提条件なしにいつでも会う用意がある」と対話を呼びかけてはいる。しかし、北朝鮮は制裁や在韓米軍の存在、米韓合同軍事演習に対して異議を唱えており、呼びかけに応じる気配はない。結局、非核化交渉は何の進展もしていない。

制裁も効果なしで、核開発が進められる

 今回ミサイルの発射を続けている北朝鮮に対して、米財務省は6名の北朝鮮高官に対する制裁措置を発表したものの、バイデン氏は北朝鮮に関心がないという批判の声もある。

 カーネギー国際平和財団の核政策プログラム上級研究員のアンキット・パンダ氏は「バイデン政権が、駐韓米国大使の任命が遅れていることは大きな手落ちだ。昨年11月、韓国では、それについて、バイデン政権が朝鮮問題に関心がない印だという指摘が多く聞かれた」と話している。

 また、バイデン政権下では、駐インドネシア米国大使のソン・キム氏が北朝鮮担当特別代表の役割も担っているが、パンダ氏はその状況について「二足のわらじは、パートタイム仕事として北朝鮮に対処することと同じだ」と問題視している。

 また、パンダ氏は北朝鮮は、アメリカの制裁による経済的苦痛以上にパンデミックのためにより多くの経済的苦痛を受け、それに耐え忍んでいるので、制裁もきかず、結局、核開発を進めるとみている。

「北朝鮮はパンデミック対応においても非常に孤立しており、もはや、外からの圧力では北朝鮮の態度を変えることはできないだろう」「彼らは、大きな経済的苦痛に進んで耐えようとしている。彼らは、サバイバルのために絶対不可欠と考えている核ミサイルの能力強化を推し進める方法を見つけるだろう」

 実際、19日に開催された朝鮮労働党中央委員会政治局会議では、凍結していた核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発の再開検討も示唆された。

最悪のシナリオでは日本も核攻撃のターゲットに

 スタンフォード大・安全保障および国際協力センター(CISAC)研究員キャメロン・トレーシー氏も、米誌US News & World Reportで、北朝鮮は今後攻撃能力を高めると予測している。

「攻撃防衛競争は、世界的に、何十年にもわたり起きて来たが、分かっているのは攻撃側にアドバンテージがあるということだ。北朝鮮はより多くのミサイルを配置し、韓国を攻撃に対して脆弱化させるような、より早く、よりマヌーバー(巧妙に進むこと)できるミサイルを開発し続けるでしょう」

 同じくCISACのメリッサ・ハンハム氏は、最悪のシナリオについてこう言及している。

「最悪のシナリオでは、北朝鮮は、見かけ上は海への実験のように見せかけながら、レーダーシステムの下か周辺をマヌーバーし、回り込んで、韓国や日本のターゲットを核兵器で攻撃するようなバリステック・カーブ(弾道曲線)を描くミサイルを発射するかもしれません」

 マサチューセッツ工科大学(MIT)の核安全研究員のデビッド・ライト氏は「ミサイルがより低く、短時間で飛ぶ軌道を描き、防衛が困難になるかもしれない」と指摘。ライト氏の研究によると、北朝鮮の最新ミサイルは、低下飛翔経路を飛ぶことで、日本のような遠隔地にある米軍の防衛システムを回避する可能性があるという。

 「北朝鮮の超音速兵器システムがより良くなっていることは疑いようがない。みなにとって悪いニュースだ」と韓国の元陸軍大将チュン・インバム氏も懸念している。

韓国の先制攻撃も難しい

 来たる韓国の大統領選の結果が、北朝鮮にどのような影響を与えるかも注目されている。

 前述のパンダ氏は、北朝鮮に対してタカ派のスタンスを示している韓国の保守派大統領候補のユン・ソクヨル氏が大統領選で勝てば、朝鮮半島の緊張が高まると予測。ユン氏は、韓国が核弾頭を搭載した北朝鮮のミサイルの脅威にさらされていることがわかったら、北朝鮮に先制攻撃をする可能性があるという姿勢を示唆しているからだ。そのため、ユン氏が勝った場合、北朝鮮は韓国に対して直接的な挑発行為に出ようと考えるかもしれないという。

 しかし、先制攻撃について、前述のライト氏は「北朝鮮はミサイルを隠していることから、先制攻撃が脅威を排除できるという証拠はない」と韓国が先制攻撃する難しさも指摘し、結局、攻撃されるリスクを低減させるためは北朝鮮と交渉することが重要だという見方を示している。

 果たして、バイデン氏が金氏と交渉のテーブルにつく日は来るのだろうか?

(参考記事)

Biden strategy on North Korea under pressure over missile launches

Analysis-N.Korea’s 'Hypersonic Missile' Tests Raise Military Stakes in Asia

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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