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「金正恩政権、K-POPのビデオを視聴した7人を公開処刑」米メディアが報じる“北朝鮮の処刑地図”

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(提供:KRT/ロイター/アフロ)

 国連安全保障理事会は15日、北朝鮮の人権状況について討議後出した共同声明で、北朝鮮でコロナ禍、人権侵害が悪化していることを非難した。

 この理事会開催に合わせたかのように、韓国の人権団体「転換期正義ワーキンググループ(Transitional Justice Working Group)」が、金正恩政権下での公開処刑の状況について調査した報告書「金正恩政権下の処刑地図:国際的圧力に対する北朝鮮の反応」を発表、その主な内容について、米有力紙ニューヨーク・タイムズなどアメリカのメディアが報じている。

K-POP視聴で少なくとも7人を公開処刑

 12月15日付ニューヨーク・タイムズ電子版は「K-POPを視聴したことで北朝鮮が人々を処刑、と人権グループ」というタイトルと、北朝鮮のリーダーが“悪性の癌”と呼ぶものを取り締まる中、この10年で、少なくとも7人が、K-POPのビデオを視聴または配布したために処刑された”というリードで、金正恩政権下、韓国のエンターテインメントが排斥されている状況を紹介している。

 ちなみに、金正恩氏は、昨年末「反動思想文化排撃法」を制定、韓国のビデオなどを流布させた者に対する最高刑を死刑とし、視聴した者に対しては最大の懲役を5年から15年へと強化した。また、金氏は今年6月にはK-POPを「悪性の癌」と規定し、非難している。

 報告書を発表した「転換期正義ワーキンググループ」は、2015年以降に脱北した人々683人に聞き取り調査を行い、国が公開処刑を行ったり、公開処刑後遺体を埋めたりした場所のマッピングを行った。

公開処刑の情報が漏れないような措置も

 アメリカのメディアは主に、報告書内にある以下の点を報じている。

・公開処刑が金正恩政権下で23回行われた。

・韓国のエンターテインメントを視聴または配布したしたことで有罪となった7人が公開処刑され、うち6人は、韓国のエンターテインメントなど海外情報流入のハブとなっている、中国との国境にある恵山市で、2012年〜2014年に公開処刑された。

・公開処刑は3人の警官が9発銃撃して行われ、処刑される者の家族も強制的に銃殺風景を見せられた。

・北朝鮮は人々への警告として、公開処刑を人々に見させており「人々は、脳から体液が流れ出ている処刑された者の顔を直視させられた」という目撃者談もある。

・北朝鮮の人権侵害に対する国際調査の声が高まる中、北朝鮮は公開処刑の情報が世界に漏れ出ないよう、公開処刑の場を中国国境や市の中心部から遠ざけたり、処刑を見る人々が携帯を持ち込むなどして処刑風景を撮影したりしないようモニタリングしている。

・金正恩氏は、聴衆が多い公判では、死刑宣告された人々に恩赦を与えることで、善意ある指導者というイメージを作り上げようとしている。

バイデン政権も北朝鮮に初めて制裁を加える

 北朝鮮で人権侵害が悪化している背景には、トランプ政権時代に非核化交渉が決裂し制裁が緩和されていない状況やコロナ禍で経済が悪化している問題があることが指摘されている。

 非核化交渉については、5月、ブリンケン米国務長官が「北朝鮮が外交に従事し、朝鮮半島の非核化という目的に向けて前進する道筋を検討する機会をもってくれたらと思う」と北朝鮮に交渉を呼びかけたり、15日に訪問したインドネシアでは「アメリカは北朝鮮との真剣で継続的な外交を求めている。アメリカの最終目標は朝鮮半島の非核化だ」と同盟国と非核化に向けて実践的に取り組む姿勢を訴えたりしている。

 人権問題への取り組みを重視しているバイデン政権は、北朝鮮に対して初めて制裁を加えるという動きにも出た。米財務省外国資産管理局(OFAC)が「世界人権デー」に、人権侵害に関与した15名の個人や10の団体を制裁対象に指定、その15名の中に、北朝鮮の収容施設を運営する社会安全省のトップ李永吉国防相も含めたのだ。

 圧力をかけるバイデン政権に対し、金正恩政権はどんなボールを投げ返すのか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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