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「自民が勝ち、日本は変わらない」「岸田氏はカリスマ性ゼロ」欧米メディアは菅氏退陣と総裁選をどうみるか

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 突然のように起きた菅義偉首相の退陣劇、そして来たる自民党総裁選と衆院選。欧米メディアはこの動きをどうみているのか?

 総じて、欧米メディアは、菅氏の退陣劇について新型コロナウイルスの感染拡大をうまく抑制できなかったこと、それにもかかわらず東京五輪を決行したこと、国民とコミュニケーションできていなかった問題、そして、日本が安倍政権前の不安定な政況に回帰する可能性などを指摘している。

菅氏は危機対応下手な日本政府を体現

 アメリカ政府が運営する国営放送ヴォイス・オブ・アメリカは、

「菅氏は概して不人気だった首相を実質的に1年で終える」と菅氏の人気の無さを指摘、「新型コロナをなかなか抑制できず、政治家としての命運は急落した」「パンデミックに対するアプローチについて、国民や自民党の間で広がった批判を克服できなかった。国民の反対にもかかわらず、東京五輪を推進したことが批判の中心にある」と述べている。

 また、菅氏が国民の批判や疑問に上手く対応できなかったことも指摘。菅氏の大きな問題はコミュニケーション・スキルが欠如していることで「そのために、菅氏は政府が十分に新型コロナを抑制できているのか、その時々に起きている問題に対応しているだけではないかといった、人々が抱えている問題や批判、疑念に打ち勝つことが難しかった」という神奈川大学助教授コオリ・ウォレス氏の見方を紹介している。

 英紙フィナンシャル・タイムズは、

「菅氏の辞任は、かつて日本の政治の特徴だった短命政権に回帰するリスクがある」としつつ、「市場がフォーカスする次の問題は、自民党が衆院選で何議席を失うかだろう。しかし、短期的には、投資家は菅氏辞任と、岸田氏のような人物が首相になり、たくさんの経済刺激策を行うことを歓迎するだろう」という専門家の見解を紹介、さらには「岸田氏は総裁選に当選したら、数十兆円規模の経済刺激策を始めると発言した。しかし、長期的には、投資家は、岸田氏の経済政策が大胆な金融緩和とフレクシブルな財政政策が特徴だったアベノミクスから方針転換すると予想している」としている。

 また、円の動向については「辞任報道で円は1ドル110円を超えたが、最近の取引範囲以内だ。しかし、投資家は、日本の次期首相が選ばれるまで、円安が続くと予想している」と指摘。

 米紙NYタイムズは、日本政府の危機対応の弱さについて言及した。

「菅氏は、大きく、大変な挑戦に直面している日本の政府を体現していた。危機の時は、融通がきき、ルール破りで、実行力がある対応が必要だが、そうすることは日本には少し難しい

 という米国外交問題評議会上級研究員シーラ・スミス氏の発言を紹介している。

 また、米紙ワシントンポストは、日韓の変化がアメリカに与える影響に注目し、韓国では来春、大統領選が行われるが、「アメリカの重要な2つの同盟国の国内ダイナミクスの変化は、北朝鮮の核の脅威と中国との戦略的競争といった問題に関するアメリカの政策に影響を与えるかもしれない」と述べている。

 雑誌を見てみると、TIME誌は、

 「パンデミック封じ込めに関する菅氏の不誠実で曖昧な言動は日々、日本の国民をとてもイライラさせてきた。国民は最近、基本的に、政府を全然信頼していない」と菅氏が国民の信頼を失っていたという専門家のコメントを紹介し、「自民党議員は菅氏を党のリーダーに据えれば、衆院選で議席を落とすことになると懸念し始めた」と菅氏辞任の背景にも言及している。

岸田氏はカリスマ性ゼロ

 また、同誌は、出馬表明した岸田文雄前政調会長や出馬の意向を固めた河野太郎行政改革担当大臣について「岸田氏は経済刺激策のような大きな公約をいくつか掲げているが、カリスマ性ゼロだ。彼はパッとしない」、「河野氏は、多くの日本人がワクチン接種の開始が非常に遅延したと受け止めているため、チャンスが損なわれるかもしれない」という、テンプル大学アジア研究ディレクターのジェフ・キングストン氏の見方を紹介している。

 米誌U.S. News & World Reportは河野氏について「河野氏は230万人のツイッターフォロワーを通じて支持を構築し若い有権者に人気があるが、それは高齢男性が支配している日本の政界では稀なことだ」と言及。

 また、出馬の意向を固めた高市早苗前総務相と出馬意欲を示している野田聖子幹事長代行については、ブルームバーグ通信は「高齢男性が優勢な党内で支持を集めるのに苦労するだろう」という見方をしているが、安倍前首相に支援された高市氏は総裁選出馬に必要な推薦人20人を確保する目処がたったと報じられている。

結局、“変わらない日本”なのか

 前述のNYタイムズは、自民党が衆院選に勝って、日本の政策は変わらないという予想もしている。

「同じ政党が権力の座に居座り続けることはほぼ保証されており、経済、貿易、国際関係などに関する日本の政策は変わりそうもない」

 また、「自民党は衆院選の何週間か前に、新首相を据えて戦略的優位に立とうとするだろう」とし、「野党は、ハネムーン期間を享受し、新しく、新鮮で、明るい展望が感じられるチェンジを約束してくれる人物との選挙戦では苦戦するだろう」というアメリカンプログレスセンター上級研究員トバイアス・ハリス氏の発言を紹介して、自民党の新首相下では野党が衆院選で勝つ難しさにも言及している。

 結局、“変わらない日本”になることが予測されている日本の総裁選や衆院選に世界はどれだけ注目するのだろうか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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