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「大坂や八村は東京五輪のプロパガンダに利用されている」 米紙が問題視する日本の人種差別というリアル

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
大坂なおみが聖火台に火を灯したことは多様性の現れだが、現実は?(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 「東京五輪2020」は1964年の東京五輪とは異なる様相を呈している。日本代表のハーフ(biracial=バイレイシャル)の選手が多数参加しており、中には、大坂なおみ選手や八村塁選手のように世界的に注目されている選手もいるからだ。 

 東京五輪に参加している日本代表のハーフの選手たち。彼らは、東京五輪のビジョンである多様性を体現しているように見えるが、果たして、日本社会は実際、多様性を重視しているのだろうか?

多様性がない日本のリアル

 米紙ワシントン・ポストは「日本はオリンピックで多様性を気取った。現実は違うと言うハーフもいる」というタイトルで、日本社会ではハーフの人々が多様性からかけ離れた、差別という現実に直面していることに斬り込んでいる。

 大坂が東京五輪・テニス女子シングルスの3回戦で敗退した後、大坂に対する批判コメントがオンライン上で多々あがったが、同紙は、大坂が批判されているのは、大坂が劣っているからではなく、ハーフだからだと指摘し、こう述べる。

「聖火台に点火するのに大坂を選んだことやバスケットボール選手の八村を開会式の2人の旗手の1人に選んだことは、日本が世界に披露したいコスモポリタンな社会と従来の日本人とは異なる見かけや行動をする人に対する日本人の態度という現実との間にある差をはっきりと浮き彫りにした」

 つまり、東京五輪は大坂や八村など世界的に活躍するハーフの選手に重要な役割を与えて多様性のある国際的社会であることを世界に示して見せたが、現実的には、純粋に日本人ではない人々は、日本社会では差別に直面しているというのだ。

大坂や八村はプロパガンダに利用されている

 また、「マイクロアグレッション(社会的に非主流とされる人々を無意識のうちに差別しておとしめる言動)を受け入れて、差別的なポリシーのある学校に通ったハーフの若者にとっては、ハーフの選手が日本代表として五輪に出ていることは意味がある」とし、外出すると人にじろじろ見られたり、「ブラック・モンキー」と呼ばれたりして差別にあってきたウガンダと日本のハーフの女性が、大坂が聖火台に火を灯したのを見て涙したことにも触れつつ、その一方で、ハーフの人々が抱えている複雑な思いも、以下のように伝えている。

「ハーフの人々が日本を代表しているのを見る喜びと共存しているのは、大坂と八村が、日本政府や東京五輪組織委員会によって、ある種のプロパガンダとして利用されているという感覚である。大坂と八村はともに高い地位を得たが、多くの人々は彼らの出世は日本の歴史のコア部分になっている蔓延った人種差別を覆い隠していると感じている」

 確かに、ハーフである大坂や八村が東京五輪で重要な役割を果たしたことは、日本は人種差別をしない多様性を重んじている国という印象を世界に与えているかもしれない。しかし、現実は違うと言い、同紙は、「海外からの訪問者を歓迎することは“おもてなし”という日本文化では大事なコンセプトだが、日常生活で、地下鉄では日本人ではない人が隣に座ると人が席を移動することは珍しくなく、外国人がアパートを借りたり家を購入したりするのは難しい。日本人はとても慇懃に侮辱するが、それを撤回して“大変申し訳ございません”と言う」というハーフのジャーナリストのコメントを紹介している。

 また、大坂が3回戦で負けた後、差別的コメントが多々あがった背景には、日本では他国同様、メンタルヘルスに対するスティグマ(嫌悪)があることや、メンタルヘルスやブラック・ライブス・マターなどの問題をめぐり、大坂に対してネガティブな感情が持たれてきたことがあると指摘している。

 ハーフの人々は、東京五輪で同じハーフの大坂や八村が重要な役割を果たしたことを喜びつつも、自分たちを差別してきた多様性のない日本社会が、東京五輪で多様性を謳うことに日本の偽善を見ているのかもしれない。

スポーツのプライドが人種差別に打ち勝つ

 一方、USA Today紙は「大坂なおみのようなハーフのスターたちの存在で、オリンピックでは、人種差別は敗北している」というタイトルで、日本では人種差別はあるものの、ハーフの選手の活躍により、スポーツに対するプライドが人種差別に打ち勝っているという見方をしている。

 同紙は「日本は単一民族国家で、純粋な日本人ではない人々は、いじめや差別に直面してきた」として、2015年にミス・ユニバース世界大会の日本代表に選出された、アフリカ系アメリカ人と日本人のハーフの宮本エリアナさんも、子供の頃、ゴミを投げられたり、同じプールで泳ぐことができなかったり、ミス日本に選ばれた時は純粋な日本人ではないことが疑問視されたりしたという人種差別の例をあげつつ、ハーフの選手たちが参加している東京五輪は、日本が人種差別問題と取り組むにあたって重要であるとして、「大坂はメダルをとれなかったが、東京五輪は社会的進歩という針を大きく動かした」とハーフの選手たちのプレゼンスが日本の人種差別問題に貢献していることを評価している。

 日本政府は東京五輪を通じて日本が多様化していることを国際社会に誇示しようとしているように見えるが、現実的には、日本社会が真の多様化を遂げるまでの道のりはまだまだ遠い。しかし、大坂や八村をはじめとするハーフの選手たちが今後も国際舞台で活躍を続けることで、その道のりはきっと短くなることだろう。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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