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「WHOは(中国に)屈した。自然発生はありえない」前CDC所長 武漢研究所流出説で深まる米中対立

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
起源調査に際して中国に屈したWHOを批判した前CDC所長のレッドフィールド氏。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 バイデン氏が新型コロナウイルスの起源の追加調査指示を出し「武漢研究所流出説」が再燃する中、米中対立は深まるばかりだ。

 先日の、米国主導のG7の共同声明にも、新型コロナの起源に関する徹底的な調査の必要性が盛り込まれたが、中国側は起源調査を政治問題化すべきではないと言って反撃している。

WHOは中国の影響を受けて屈した

 そんな中、前CDC(米疾病対策センター)所長でウイルス学者でもあるロバート・レッドフィールド氏が、米フォックスニュースのインタビュー(6月15日放送)で、WHO(世界保健機関)は中国の影響を受けて大きく屈したために、真に透明性がある新型コロナの起源調査ができなかったと批判、改めて、新型コロナの武漢研究所流出の可能性を訴えた。

 「WHOは(中国の影響を受けて)大きく屈したと思う。WHOは、世界の健康に関する条約で合意したことを中国に厳守させることができなかった。なぜなら、彼らは厳守するよう強いなかったからだ。WHOが、中国で起源調査をすることができる科学者たちを中国に決めさせたことも明らかだ。WHOはその役割を果たしていない」

 感染拡大時のWHOの初期対応の遅さは、かねて批判されてきた。WHOはヒトヒト間感染の警告をしたり、緊急事態宣言やパンデミック宣言を出したりすることに遅延した。遅延の背後には中国の存在があるようだ。WHOが緊急事態宣言を出すのを中国が妨げようとしたと、CIAが結論づけたとも伝えられている。

 また、2月に行われたWHO調査団による起源調査については、WHOは、中国が調査団に入れるメンバーを決めることを許可していた。その結果、調査団のメンバーとして武漢入りが許可された唯一のアメリカ人は、武漢ウイルス研究所と深い利害関係がある非営利研究機関「エコアライアンス」代表のピーター・ダスザック氏だったことが問題視されている。

実験室で進化した?

 レッドフィールド氏はまた、先日のCNNのインタビューに続き、今回のインタビューでも新型コロナの研究所流出の可能性について言及した。

「新型コロナがコウモリから未確認の動物に感染し、そして人に感染して、最も感染力があるウイルスになったというのは生物学的にありえないと私は思った。他のコロナウイルスはそんなふうには人に感染しないからだ。このことは別の仮説の存在を示唆している。それは、新型コロナがコウモリのウイルス由来で、実験室に入り、そこで、ヒトヒト間で効率的に感染するように研究され、進化したという仮説だ」

 さらに、レッドフィールド氏はこう続けている。

「私はウイルス学者として最善の意見を述べているだけだが、このウイルスがコウモリから動物に感染し(その動物はまだ特定されていない)、そして、ヒトに感染し、すぐに、世界史上でも非常に大きなパンデミックを引き起こすほどヒトヒト間で感染するようになったというのはありえないと思う」

 レッドフィールド氏は、SARSやMERSのような致死的なコロナウイルスがヒトの間でははるかにゆっくりとしたペースで広がったのに対し、同じコロナウイルスである新型コロナが効率的にヒトの間に広がった点に着目している。

“コウモリ女”は濡れ衣と主張

 一方、武漢ウイルス研究所でコロナウイルスの研究を行っている、“コウモリ女”というニックネームを持つ石正麗博士は、米ニューヨークタイムズ (6月14日付)のインタビューで「武漢研究所流出説」を全否定している。

「証拠がないというのに、一体全体、どうやって証拠を出せというの? なぜ、世界が、潔白な一科学者に濡れ衣を着せることになったのかわからない。私の実験は機能獲得実験ではない。私の実験はウイルスをより危険にする実験ではなく、ウイルスが種の間でどう感染するかを理解するための実験だから。研究所はウイルスの毒性を高める機能獲得実験は行っていないし、そんな実験に協力もしていない。パンデミックが起きる前、研究所は新しいコロナウイルスの元になるものも何も持っていなかった」

 武漢ウイルス研究所の3人の研究者が、新型コロナの感染拡大が始まる前の2019年秋に新型コロナと類似した症状で入院したケースについても、こう反撃している。

「研究所ではそんなケースは起きていない。確認するから、可能なら、その3人の名前を教えてくれる?」

 さらには、石氏は、状況が中国に対する不信という政治問題化していることにも疑問を投げかけている。

「もはや状況は科学が問題となっていない。“全くの不信”に根ざした憶測の問題になっている。私は確かに間違ったことを何もしていない。だから何も恐れていない」

英仏は研究所流出説を信じず

 確かに、新型コロナの起源という科学的問題は非常に解明が難しい状況にあるため、世界に「中国包囲網」を構築しようとしているアメリカにとっては、政治的に中国を批判する格好の材料と言える。

 しかし、「中国包囲網」の構築に重要なG7の国々の中には研究所流出説を信じていないリーダーもいる。イギリスのジョンソン首相もその一人だ。

 英紙テレグラフによると、ジョンソン首相は、6月13日、「新型コロナの起源については、分別ある人はみなオープンな姿勢で対処しているが、イギリスは現在のところ、いわゆる研究所流出説というものを信じていない」と言及。

 フランスのマクロン大統領も、研究所流出説は疾病と闘う妨げになるという理由で、研究所流出説を否定、「(中国とは)人権をめぐる考えの相違はあるものの、G7は中国に敵対的になるクラブではない」と述べた。

 G7の国々が足並みを揃えて中国に対峙しようとしているわけではない中、新型コロナの起源をめぐる米中対立は、果たしてどんな結末を見るのか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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