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WHOは中国の言いなり「中国の隠蔽を調査するのは我々の仕事ではなかった」米調査員 新型コロナ起源調査

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
WHOが行った新型コロナの起源調査について記者会見する中国人エキスパートたち。(写真:ロイター/アフロ)

 WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイルスの発生源を調査するために武漢を訪問したWHO調査団の報告から、新型コロナは動物から中間宿主を介して人に感染した可能性が最も高く、武漢ウイルス研究所から流出した可能性は最も低いとの報告書を発表した。それに対し、日米を含む14カ国は共同声明を出して懸念を表明、中国が専門家に完全なデータを提供するよう要請した。中国側は初期感染者情報を含め、全てのデータを共有しなかったからだ。

 米メディアもWHOの報告に疑問を投げかけている。

National Review誌は「WHOの新型コロナの起源調査は国際スキャンダルだ。WHOは中国政府との共同報告書を発表したが、外部のオブザーバーたちが調査団の公平性に強い疑念を抱いたことが確認されただけだった」と指摘している。

中国政府と利害関係がある科学者

 そもそも、この調査は最初から問題視されていた。まず、調査団に入れられた科学者たちに問題があった。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、WHOは、中国側に、調査団に入れるメンバーを拒否する権利を与えていたという。そのため、アメリカ政府が推薦した3名のアメリカ人科学者は誰一人として受け入れられず、ただ一人受け入れられたアメリカ人科学者は武漢ウイルス研究所と深い繋がりがあるピーター・ダスザック氏だけだったというのだ。

 ダスザック氏はニューヨークにある非営利研究機関「エコヘルス・アライアンス」の社長で、長年にわたり、コウモリのコロナウイルスの研究を行っていた。「コウモリ女」と呼ばれている武漢ウイルス研究所研究員の石正麗氏とも一緒に研究を行い、2014年〜2020年にかけて、米国立衛生研究所から得ている助成金を武漢ウイルス研究所での研究に当てていた。そのため、同氏が調査団の一員になることについては、「コンフリクト・オブ・インタレスト(利害の対立)」を懸念する声があがっていたのである。しかも、調査団の17名の科学者中6名がダスザック氏のもとで研究していたという。

 また、ダスザック氏は、20以上の研究論文を中国政府の研究者と共同執筆したり、中国人民解放軍を含む中国共産党機関の資金で研究したりしていた。

 武漢ウイルス研究所や中国政府と利害関係のあるダスザック氏に公正な調査ができたのか?

 3月4日に、24名を超える科学者がWHOの調査を批判する声明を発表したが、その中で、彼らが、“彼(ダスザック氏)の発言は科学的客観性に関して重大な疑念をなげかけた”と問題視しているように、公正な調査が行われたとは考えられていない。

隠蔽調査は我々の仕事ではない

 そもそも、調査団は、世界が注目していた、新型コロナの起源に関する“中国側の隠蔽”について踏み込んだ調査をしなかったようだ。

 ダスザック氏は、WHOの報告書が発表される直前に行われた3月 日放送の米CBSテレビ「60 Minutes」でこう話している。

「中国が新型コロナの起源を隠蔽しているかどうかを見つけるのは、我々の仕事ではなかった」

 WHO調査団の目的は新型コロナの起源を探ることだったので、中国が隠蔽しているかどうかについては調査をしなかったということか?

鵜呑みにする以外何ができるのか?

 では、WHO調査団と武漢ウイルス研究所のスタッフとの間では、具体的にどんなやりとりがなされたのか? 前述の「60 Minutes」で、ダスザック氏はこう話している。

ダスザック氏:彼らに会い、“ラボを調査しているか?”ときくと、“彼らは毎年しています”と答えました。“新型コロナ発生後に調査したか?”ときくと“はい”と答えたので“何か見つけたか?”ときくと“いいえ”と答えました。“スタッフの検査をしたか?”ときくと“はい”と答えました

インタビュアー:しかし、あなたは彼らの言葉を鵜呑みにしているだけですよね。

ダスザック氏:まあ、他に何ができるでしょう? できることには限りがあり、できる限りのことはしました。厳しい質問もしました。彼らの答えは信じるにたるものでした。正しく、説得力があった。

インタビュアー:しかし、中国は隠蔽をしませんでしたか? 彼らは証拠を隠滅し、起源に関する証拠を出そうとした科学者らを罰しました。

ダスザック氏:中国が、起源について隠蔽しているかどうかを見つけるのは私たちの仕事ではなかったのです。

インタビュアー:いえ、わかっています。ただ、おかしいと思わなかったのでしょうか?

ダスザック氏:中国で行った調査で、我々は間違った報告や隠蔽の証拠を見ませんでした。

インタビュアー:質問をする時、部屋には中国政府の方がいましたか?

ダスザック氏:部屋には外務省のスタッフがいました。中国側が万事スムーズに対応するのを確認するためにいたのです。

インタビュアー:あるいは、彼らが事実を言わないことを確認するためにいたのでは。

ダスザック氏:我々は何が科学的発言で何が政治的発言かわかっており、両者を区別することは問題なくできました。

 このやりとりを見る限り、結局、調査団は踏み込んだ調査をせず、研究所側の言うことを額面通りに受けとって終わったに過ぎなかったように思われる。

WHOは中国側の出した調査結果をシェアしただけ

 武漢ウイルス研究所から新型コロナが流出した可能性があると訴えてきたWHO顧問のジェイミー・メツル氏は、同じ「60 Minutes 」のインタビューに対し、調査はあくまで中国政府主導だったと訴えた。

メツル氏:世界のみながこれは完全な調査のようなものだと思っている。そうではない。調査団は中国政府が見てほしいと思うものを見ただけだった。我々は質問する必要がある。なぜ武漢で発生したのか? 武漢にあるのは、コウモリのコロナウイルスを含む世界最大のコロナウイルスのコレクションがある中国のレベル4の感染症研究所だ。

研究所にいる間、調査団は、記録や検体、重要なスタッフらへのアクセスを要求しなかった。それは中国がWHOと取り決めた基本ルールだからだ。WHOは(中国に対して)要求をしたり国際的プロトコールを強いたりする権限を持っていないのだ。調査団にいれる人物について(中国が)拒否権を持つことも最初に合意されていた。

インタビュアー:WHOがそれに合意したのですね。

メツル氏:WHOが合意していた。加えて、WHOは多くのケースで中国が一次調査を行うことにも合意していた。WHOは中国側が発見したことをただシェアしただけだ。国際的なエキスパートたちは彼ら自身で一次調査を行うことが許されなかった。

インタビュアー:えっ、中国が調査を行い、その結果を調査団に見せただけということ?

メツル氏:大体そんなところです。

 結局、WHO調査団は中国側が提示した調査結果の真偽を自ら調査することなく、そのまま報告したということか? 

動物を介して感染した証拠はない

 ところで、WHOは報告書で、新型コロナの起源について4つの可能性をあげ、その中で、中間宿主を介して動物から人に感染した可能性が最も高いと述べているが、実際のところ、それは可能性であり、その証拠はないとダスザック氏は前述の「60 Minutes」のインタビューで明言している。

 メツル氏は、中間宿主を介して人に感染したという理論について懐疑的だ。

「武漢ウイルス研究所は新型コロナと遺伝子的類似性があるウイルスを含め、コウモリの住む洞窟から採取した9つのウイルスの実験を行っていた。さらに重要なことに、WHOの理論ではミッシング・リンクが説明されていない。WHOの理論(中間宿主を介して動物から感染)が正しいとするなら、ウイルスは武漢に入る前に、野生動物農場がある南中国でアウトブレイクが起きていただろう。武漢に入る途中で、アウトブレイクの証拠になるようなことが起きていた可能性がある。しかし、それは起きていなかった」

ラボから事故で流出?

 注目されているのは、CDC(米疾病対策センター)の前ディレクターで、ウイルス学者でもあるロバート・レッドフィールド氏も、3月27日、CNNのインタビューに対して研究所流出の可能性があるとの見解を述べたことだ。

「新型コロナがコウモリから何らかの方法で人に感染し、その時点で、そのウイルスがヒトヒト間で最も感染力があるウイルスの1つになったとは思えません。病原体がヒトヒト間で効率的に感染するようになるには通常時間がかかるのです。人は研究所流出説を信じないでしょうが、最終的に科学がそれを見つけ出すでしょう。私の推測ですが、ウイルスは2019年の9月、10月頃から武漢で感染を始めていたと思います」

 レッドフィールド氏は、ラボ内で効率的に感染するよう研究されていたコロナウイルスにラボ従業員が2019年の9月か10月に感染したことによりウイルスが流出し、その数ヶ月後に、新型コロナとして人々に認識されるようになったと考えている。

 一方、米新型コロナ対策のトップ、アンソニー・ファウチ博士は、3月28日に放送さされた米CBSテレビの「フェイス・ザ・ネイション」で、新型コロナはコウモリから中間宿主となる動物を介して人に感染したと見ている。

「感染症の多くは症状がありません。そのため、2019年12月に感染が確認されるまで、何ヶ月もの間ではないにしても、何週間もの間、感染がかなり広がっており、(ウイルスが)人に適応する時間が十分にあったと考えられます」

 WHOのテドロス事務局長は「研究所流出説」を排除するにはさらなる調査が必要としているが、中国側の調査結果をそのまま垂れ流し、中国の言いなりになっているようなWHOが、果たして、独立性や透明性、公平性が担保された調査を行うことができるのだろうか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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