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トランプ氏が“金ピカの像”となって神格化された日 「共和党の大統領を復活させる」退任後初演説

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
CPACで結びの演説を行い、共和党の団結と打倒民主党を呼び掛けるトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 「我々は勝つぞ! 下院、上院を奪還する。共和党の大統領をホワイトハウスに復活させるぞ!」

 トランプ氏が気炎をあげると、会場からは「Who(共和党の大統領は誰)?」という問いかけがあがる。それに対してトランプ氏は「誰かって? 誰かな」と言ってはぐらかしてみせた。

 2月28日、フロリダ州オーランドで開催された保守政治行動会議(CPAC)の終盤での一幕だ。この日、トランプ氏は会議を結ぶ演説を行い、久しぶりにトランプ節を全開させた。退任後初めて行われた注目の演説でもあった。支援者たちが一番知りたかったのは、トランプ氏が2024年の大統領選出馬を表明するかどうかである。

 そんな支援者らに対し、トランプ氏はこう話した。

「民主党は4年後に負ける。私は彼らを3度打ち負かす決断をするかもしれない」

 4年後の大統領選出馬の可能性を示唆したのだ。

 そんなトランプ氏を崇め奉るように、“USA、USA”と連呼し、喝采を送る支援者たち。その多くが、例によって、マスクを身につけていない。

 トランプ氏は彼らにとって、もはや、神なのか? 

 実際、トランプ氏は彼らの“神”になったのかもしれない。

金ピカのトランプ像が登場

 2月26日のこと、“トランプ神”が保守政治行動会議(CPAC)の会場にお目見えしていたからだ。それは、トランプ氏の形をした金ピカの像だ。もっとも、“神”と呼ぶには、その格好はコミカルだ。ジャケットに赤いネクタイ、スター&ストライプ(アメリカの国旗の模様)のボクシングパンツにビーチサンダルという姿だからだ。

CPACの会場に登場した金ピカのトランプ像。写真:www.pressherald.com
CPACの会場に登場した金ピカのトランプ像。写真:www.pressherald.com

 ゴールドはトランプ氏の好きなカラーだが、いったいこの金ピカのトランプ像は何を意味するのか? ツイッターはこの像の話題で盛り上がった。

 この像の写真とともにハッシュタグをつけられたのが#mosesや#goldencalfという言葉。mosesは「モーゼの十戒」のモーゼである。ゴールデン・カーフとは旧約聖書の「出エジプト記」に登場する「金の子牛」のことだ。

 「出エジプト記」はモーゼが虐げられていたイスラエルの民衆を率いてエジプトから脱出する物語だが、途中、モーゼは、彼らを麓に残し、神から十戒の石版を授与されるべくシナイ山に登った。しかし授与されるのには時間がかかった。

 イスラエルの民衆はモーゼがなかなか帰還しないために不安になる。そして、目に見えない神の代わりに、目に見える神をつくろうと、民衆から集めたジュエリーなどの貴金属を溶かして「金の子牛」像を作り、神として崇拝したのだ。

 しかし、それを知った神とモーゼは憤慨。モーゼは「金の子牛」像を崇拝している彼らの姿を見て怒り、像を粉々にして水に混ぜ、罰としてイスラエルの民衆に飲ませた。

 つまり、イスラエルの民衆は、目に見えない神のかわりに、「金の子牛」像という目の前で輝いている偶像を崇拝し、モーゼの怒りを買ってしまったわけである。

共和党は再び偶像を崇拝するのか?

 ニュースサイトVOX.comは、共和党をイスラエルの民衆に、「金の子牛」像をトランプ氏になぞらえて、こう説明している。

「共和党はそれまで共和党が重視してきた自由貿易などの方針を捨て、トランプ氏という輝く偶像を崇拝してしまった。また、(共和党の岩盤支持層である)白人福音派も神の教えに反して、ポルノ女優と性関係を持ち、それを隠すために「口止め料」を払ったトランプ氏という偶像を信奉した」

 偶像を崇拝することは保守派の考え方に反するものの、共和党はトランプ氏という偶像の前にひれ伏してしまったというわけだ。

 しかし、その結果どうなったか? VOX.comは、こう皮肉っている。

「モーゼは「金の子牛」という偶像を壊し、その粉を水にいれて、罰としてイスラエルの民衆に飲ませた。

 2020年の大統領選挙では有権者が共和党のモーゼとなった。大統領選と上院選の敗北が共和党にとって苦い粉入りの水になった」

 つまり、有権者というモーゼはトランプ氏という偶像を敗北させることで壊し、共和党は敗北という水を飲まされたわけである。

 しかし、敗北の水を飲まされた共和党の偶像崇拝はまだ終わっていないようだ。その証拠に、トランプ氏の金ピカ像まで登場してしまったのだから。

 問題は、2024年の大統領選にトランプ氏が出馬した場合、有権者というモーゼが再びトランプ氏という偶像を壊すのかどうか、である。

 結局のところそれは、バイデン氏の施政方針と政権運営能力にかかっている。4年後、有権者というモーゼは果たしてどんな判断を下すのだろうか?

(参考記事)

This golden statue of Trump at CPAC is a perfect metaphor for the state of the GOP

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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