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トランプ支持者が「裏切り者」を“集団イジメ”する動画が拡散 議会占拠の予兆 米大統領選

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
バイデン氏の当選認定に抗議して、議事堂を占拠する暴徒化したトランプ支持者。(写真:ロイター/アフロ)

 恐れていたことが起きた。

 1月6日、ジョー・バイデン氏が次期大統領として正式に認定されようとしていた米議会に、全米からワシントンDCにかけつけたトランプ支持者たちが暴徒化し、バリケードを破って乱入、議会を占拠したのだ。認定手続きは中断を余儀なくされた。

議員はガスマスクも装着

 トランプ支持者たちはこう叫んでいたという。

「トランプが勝ったのだ」

「トランプがここに招待してくれたんだ。ここから去らないぞ」

 トランプ支持者たちが議事堂内の会議場まで迫ってきたため、会議場はロックダウンされ、議員たちは中に閉じ込められた。

 その時、会議場にいた議員がリアルな状況をこうツイートしている。

「私は会議場にいる。床に伏せて、ガスマスクをつけるように指示された。デモ隊が会議場の扉を叩いているので、警備員や警官が銃を構えている。これはデモなんかではない。アメリカに対する攻撃だ」

 女性1人が銃で撃たれ、死亡した。

 トランプ氏は支持者らに帰宅するよう促した。約4時間に及んだ「反乱」の後、平静を取り戻した議事堂だが、ワシントンDCは夜間外出禁止令を発令し、厳戒態勢に入っている。

 そもそも、議会占拠を焚きつけたのは他でもなくトランプ氏だ。トランプ氏は、事前にツイッターで、バイデン氏の大統領選当選認定に抗議する集会「SAVE AMERICA MARCH」に参加するようトランプ支持者たちに呼びかけていた。

 そして、当日、ホワイトハウス前で開いた大規模集会で訴えた。

「選挙は盗まれた。敗北は認めない。議会に向かって歩こう」

 トランプ支持者はその声に従うかのように、議事堂へと向かい、「反乱」を起こしたのである。そのため、トランプ氏を弾劾しようという声もあがっている。

 ワシントンDCに全米からかけつけた狂信的なトランプ支持者たち。彼らの怒りは、ワシントンDCに到着する前からすでに表れていた。

「裏切り者」呼ばわりされた共和党の重鎮

「裏切り者、裏切り者、裏切り者」

 トランプ支持者による議会占拠が起きる前日、ある機内で、乗客たちが声を揃えて連呼しているツイッター動画が拡散されていた。その様子はまるで、ある特定の人物をターゲットにして“集団イジメ”をしているようにも見える。

 実際、その機内には、特定の人物がいた。その人物とは、2012年、共和党大統領候補に出馬したユタ州の上院議員(共和党)のミット・ロムニー氏だ。ロムニー氏は、1月5日、ジョー・バイデン氏が正式に次期大統領に認定される1月6日の上下両院合同本会議に出席するためだろうか、地盤にしているユタ州ソルトレイクシティーからワシントンDCに向かっていたのだ。

 ロムニー氏にとって不運だったことは、乗客の多くがトランプ支持者だったことだ。彼らは、トランプ氏がツイッターで呼びかけた、バイデン氏勝利という選挙結果に抗議する集会「SAVE AMERICA MARCH」に参加すべく、偶然にもロムニー氏と同じ便に搭乗していたと思われる。

バイデン氏当選認定をめぐり共和党が分裂

 ロムニー氏がトランプ支持者から「裏切り者」呼ばわりされたのは、同氏が1月3日、トランプ氏が訴えている選挙の不正は間違っていると批判し、さらに、一部の共和党議員が自分たちの政治的野心のためにバイデン氏勝利に異議を申し立てようとしていることは民主的な共和国を危険なほど脅かすとツイートしていたからだ。

 実際、バイデン氏の勝利認定をめぐって、共和党は分裂していた。テッド・クルーズ上院議員やハガティ前駐日アメリカ大使らは徹底的に選挙の不正を調査すべきだと訴え、6日、バイデン次期大統領の当選に異議を申し立てようとしていた。

 その一方、ミット・ロムニー上院議員や上院共和党トップのミッチ・マコーネル上院院内総務など共和党の重鎮たちは、バイデン氏の勝利を認めて前に進むべき時だと訴えていた。そのため、彼らはトランプ支持者らから非難されていたのである。

 そのロムニー氏、空港では2重にマスクをし、めがねをかけていたが、搭乗ゲートでトランプ支持者に見つかってしまった。以下がその時の様子。

 トランプ支持者の女性がロムニー氏に声をかけると、その女性はマスクをつけていなかったのだろう、ロムニー氏は女性に「法律で決まっているから、空港ではマスクをつけて」と注意している。

 すると、女性は「命令しないでよ。6フィート離れているじゃない。わかってるわよね、あなたと話したいのよ」と言い、「なぜ、トランプを支援しないの? 彼を支援していないわよね」とロムニー氏に詰め寄る。それに対してロムニー氏は「私はトランプを支援しているよ。多くのことに同意して支援している」と弁明。

 女性がトランプ氏の不正選挙の訴えを支援するかときくと、ロムニー氏は「いいや、支援していない」ときっぱり否定し、「話せば長くなるが、憲法上のプロセスがあるからだ。私は憲法に従う。今週、議会でそのことをすべて説明するつもりだ」と言って、そそくさとラップトップパソコンを閉じ、逃げの体勢に入る。

 しかし、女性は攻め続ける。「あなたは、保守的な選挙区を代表する保守議員として選出されたのよね。あなたは、私たちを代表するために選出されたのよ。私たちのために働いてよ。私、間違ってる?」ロムニー氏は「私はユタ州の人々のために働いている」と答えて立ち去ろうとするが、女性はそれでもロムニー氏をなじり続けた。「そうよね。私はユタ生まれよ。あなたに投票しなかった人もたくさんいるわ。合法的に選出されなかったんじゃないの? あなたはお笑い者よ。全くのお笑い者。むかつくわ」

「辞めろ、ミット」

 そして、飛行機に搭乗したロムニー氏は、冒頭の動画のように、マスクをおろしたトランプ支持者たちから「裏切り者」という怒号を一斉に浴びせられたのである。それはある女性が「私たちがどう思っているか彼に教えてやりましょう」と呼びかけた後のことだった。

 女性が叫ぶ。

「辞めろ、ミット。ブリスマやジョー・バイデンとの繋がりを知りたいわ、ミット・ロムニー。あなたの選挙区民は知りたがっているのよ。選挙区民の声を聞いてよ」

 ロムニー氏を弁護する乗客もいた。

「私はあなたの選挙区民だけど、あなたは素晴らしい仕事をしていると思うわ」

 ロムニー氏はおそらく、機内前方のファーストクラス席に座っていたと推測されるが、トランプ支持者らの怒号には応えなかった。

 共和党の重鎮としてリスペクトされてきたロムニー氏だが、狂信的なトランプ支持者たちの大きな怒りには太刀打ちできなかったようだ。

 トランプ氏を“裏切った”共和党議員と政治的野心からかトランプ氏を支援し続ける共和党議員。分裂した共和党は、今後、一丸となって、2024年の大統領選に向けてトランプ氏を支援し続けるのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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