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世界的投資家ジム・ロジャーズの“国家論”(2) なぜ「中国は悪」とみなされるのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
中国が悪と見なされていることをどうみているのか? 写真:TAKAO HARA

 世界的投資家ジム・ロジャーズ氏。

 ジョージ・ソロス氏、ウォーレン・バフェット氏と並んで「世界三大投資家」の1人として知られる「投資の神様」だ。ソロス氏とはクォンタム・ファンドを共同設立、10年で4200%という驚異的なリターンを叩き出したレジェンドでもある。

 世界的投資家ジム・ロジャーズ氏とは何者なのか? シンガポールで見た素顔世界的投資家ジム・ロジャーズの“国家論” なぜ日本はリッチな国ではなくなったのか?に続き、取材翻訳させていただいた『ジム・ロジャーズ 世界的投資家の思考法』(講談社より発売中)では紹介しきれなかったことや筆者が話を伺う中で感じたことを紹介したい。

 前回の投稿では、時とともに起きてきた国家の栄枯盛衰と国家が衰退する理由について、ロジャーズ氏の見解を紹介した。実は、その時、ロジャーズ氏が、国家間で生じる「嫉妬」という感情に言及したことを、筆者は興味深く感じていた。

中国の成功が嬉しくない

 ロジャーズ氏曰く、

「今、成功している国々が中国に嫉妬し始めています。成功している国々は中国の経済的な成功が嬉しくないのです。アメリカは“中国が雇用を奪っている、中国は悪だ”と主張しています」

 確かに、今回の新型コロナウイルス対応においても、世界から「中国は悪」と見られている。

 トランプ氏も、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで「中国が競争相手国の経済を不安定化させるため、世界にウイルス拡散を促した可能性がある」と、あらためて、陰謀論的な見方を示した。

 バイデン民主党大統領候補も中国に対して強硬な姿勢を見せている。

 トランプ氏か、バイデン氏か、どちらが中国に対してより強硬な姿勢になれるかが、大統領選の勝敗を決める一つの要因だという声もある。

 アメリカでは、国民の政治的求心力を高めるために、中国を悪者にして批判することが政治家の常套句になっていると言える。

 実際、3月に行われたピューリサーチセンターの世論調査によると、中国に対して「好意的ではない」と答えた人の割合が66%にも上った。政治家は中国に対してネガティブな見方をしている国民感情に訴えたいのだ。

 

 そんなアメリカの中国批判について、ロジャーズ氏は、歴史の中では起きて然るべき現象だと捉えている。

「歴史を振り返ると、かつては、アメリカや日本も、悪とみられていました。30〜40年前は、当時成功していた日本が悪者扱いされていました。

 100年前は、アメリカがイギリスから悪者扱いされていました。イギリスはアメリカの興隆に嫉妬し、怒りを感じていました。アメリカはイギリスから不誠実で、詐欺をしていると批判されていたのです。そして今は、同じことが中国に対して起きています。

 しかし、歴史が証明してきたように、好むと好まざるとにかかわらず、世界はそんなふうにできているのかもしれません」

人は一緒に喜べない

 成功している国々の嫉妬に言及したロジャーズ氏。

 中国を悪とみる背後には、中国が抱えている人権問題や環境汚染問題などの様々な問題はもちろん、国家の嫉妬があるのか?

 しかし、なぜ、国家は、別の国家の経済的隆盛を喜べず、嫉妬してしまうのだろう? 

 そんな疑問を抱いた時、数年前にインタビューした、ケリー・マクゴニガル氏の話を思い出した。同氏は『スタンフォードの自分を変える教室』という著書が世界的ベストセラーとなった、スタンフォード大学の心理学者である。マクゴニガル氏は、sympathetic joy、つまり、一緒に喜ぶということについてこう話した。

「ある研究によると、sympathetic joy、一緒に喜ぶという感情は、様々な感情の中でも、人が最も抱かない感情なのです。人はむしろ他人の不幸を喜ぶ傾向があるからです。例えば、ある人が批判されるのを目にした時、“ああ、彼はみんなの前で批判された。当然だ。僕はあんなふうに恥をかかなくてよかった”と感じて、喜ぶのです。しかし、その反対に、“あなたがハッピーだから、私もハッピーだ”という感情や“あなたの成功を祝福する”といった感情は、人が最も抱かない感情なのです」

 「人の不幸は蜜の味」とはよくいったものだ。年賀状に印刷されている幸福な家族写真やSNSのリア充写真を見てうざいと感じるという声を耳にすることがあるが、そんな気持ちも、人の幸福を喜べないという感情に由来するのかもしれない。

生存していくための嫉妬

 人の幸福を喜べない背後には嫉妬という感情があるからか。

 しかし、嫉妬という感情は、生物の生存競争の過程で必要だった本能的な感情だという。

「進化の過程で、生物は生存競争のために互いに食物や異性を奪い合ってきました。結果的に見れば、他者の不幸は自分の幸福につながり、自らが子孫を残す可能性が高まるため、他者を妬み、他者の不幸を喜ぶことが必要でした」(「他人の不幸は蜜の味」は科学的証明済みより)

 嫉妬の裏には、生存するための競争心という感情が根源にはあるということになる。人間が本能的に持つそんな感情ゆえに、他国が経済的に成功し、国力が増強してくると、それを喜ぶことなく脅威に感じ、自国より上には行ってほしくない、負けたくないという競争心が働くのか。アメリカの場合、常に世界の覇権国として君臨したいという気持ちがあるのか?

 そんな気持ちがある以上、国家は、経済や軍事など様々な点で争いを続けることになるのだろうか? 国家が繋がりを構築し、共に繁栄の道を歩むことは難しいのか?

人の成功を喜ぶ

 マクゴニガル氏は、人が繋がりを作るには「人の成功を喜ぶ」という感情を養うことが重要だと指摘した。

「成功している人々は、自分の成功が他の人のプレゼンスを小さくしている経験をしているし、純粋に自分の成功を喜んでくれない人がいることもわかっています。そんな中で、純粋に、彼らの成功や幸運を祝福すれば、彼らは心から喜び、感謝するでしょう。普通なら、人の成功を羨ましく思ったり、人の成功に怒りや悲しさを感じたりするところで、喜んでくれるというのは珍しい才能だからです。私たちは、成功を一緒に喜び、祝福することで、成功している人々と素晴らしい人間関係が構築できると思うのです。彼らは自分の味方やメンター、友人になってくれるかもしれません」

 人間関係を国家間関係にそのまま当てはめるのは無理があるだろう。しかし、他国の成功に嫉妬し、他国を“悪”とみることなく、経済成長や国力の高まりを祝福し、共に喜ぶ関係が構築できたら、世界は少しでも変わるのではないか。それは机上の空論に過ぎないのだろうか?

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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