Yahoo!ニュース

【新型コロナ】米経済再開の前に立ちはだかる不都合な2つの予測 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
外出制限や制限緩和の下で始まっている人々の移動が感染者数、死者数の増加に繋がる。(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカではジョージア州を皮切りに、半数近くの州で外出制限措置が緩和され、一部の小売店の営業再開が始まっている。

 アメリカで最初に外出禁止令を出したカリフォルニア州も、米国時間5月4日、ニューサム知事が、早ければ5月8日から、一部の小売店の営業再開を許可する第2フェーズに入ると発表した。

緩和は自治体が最終判断

 カリフォルニア州は4フェーズでの外出制限措置解除を計画している。

第1フェーズ:Stay-at-Home(外出制限措置)の継続

第2フェーズ:感染が低リスクの仕事の段階的再開(小売店、玩具や衣料、家具の製造工場、テレワークが不可能な仕事、学校や保育所)

第3フェーズ:感染が高リスクの仕事の再開(美容室、ジム、映画館、観衆なしのスポーツイベント、教会、結婚式場)

第4フェーズ:Stay-at-Home(外出制限措置)の全面解除(観衆ありのスポーツイベント、コンベンションセンター、コンサート)

 5月8日からは、衣料品店、書店、ミュージックストア、玩具店、スポーツ用品店、花屋など一部の小売店の営業が再開可能となるが、消費者が事前に注文した商品のピックアップができるような限定的な営業再開となる。ショッピングモールの営業や飲食店内での食事、オフィス業務は、引き続き禁止される。

 カリフォルニア州は多くの郡で構成されているが、緩和するか否かや緩和の程度は、地域により感染状況が異なるため、各郡の判断にゆだねられている。感染状況から、郡が緩和は早すぎると判断した場合は制限を続けることができる。逆に、さらに緩和したい場合は、接触者追跡や検査の拡充、社会的距離の確保など感染軽減措置の下での緩和は可能としている。

CDCの内部文書の衝撃予測

 外出制限措置の緩和については、感染症の専門家らから時期尚早という声があがっていた。

 米連邦政府は、14日間にわたって感染者数の減少曲線ができることを制限緩和のガイドラインとしており、新型コロナタスクフォースのキーパーソンであるアンソニー・ファウチ博士もメディアで何度もこのことを主張してきたが、8日から制限の緩和に入るカリフォルニア州を含め、どの州もまだこの減少曲線を達成していないからだ。

 そんな中、ニューヨーク・タイムズが入手した米疾病対策センター(CDC)の内部文書に、経済活動再開にとっては不都合な予測が出ていることがわかった。

 その文書によると、6月1日までに、新たに感染する人々の数は1日20万人に、新たに亡くなる人の数は1日3000人にまで増加するというのだ。アメリカでは、現状で、毎日約2万5000人が感染し、約1750人が亡くなっていることを考えると急増することになる。もっとも、ホワイトハウス側はこのデータとの関わりを否定している。

政府の内部文書は6月1日までに1日20万人が感染すると予測。出典:Centers for Disease Control and Prevention Situation Update
政府の内部文書は6月1日までに1日20万人が感染すると予測。出典:Centers for Disease Control and Prevention Situation Update
政府の内部文書では、6月1日までに1日3000人が死亡することが予測されている。出典:Centers for Disease Control and Prevention Situation Update
政府の内部文書では、6月1日までに1日3000人が死亡することが予測されている。出典:Centers for Disease Control and Prevention Situation Update

上方修正されたワケ

 経済再開に不都合な数字は、新型コロナタスクフォースが信頼をおく米ワシントン大の保健指標評価研究所(IHME)からも出された。同研究所はこれまで、アメリカで、8月までに新型コロナで亡くなると予測される死者数を約7万2400人と推定していたが、米国時間5月4日、13万4475人と倍近い数に上方修正したのだ。

 これに先立ち、トランプ氏自身も、FOXテレビで「10万人の命が失われるかもしれない」と言及していた。

米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は、アメリカの8月までの推定死者数をこれまでのほぼ2倍の13万人超に上方修正した。出典:The Institute for Health Metrics and Evaluation (IHME)
米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)は、アメリカの8月までの推定死者数をこれまでのほぼ2倍の13万人超に上方修正した。出典:The Institute for Health Metrics and Evaluation (IHME)

 なぜ、推定感染者数や推定死者数が上方修正されたのか?

 その大きな理由として、IHMEディレクターのクリストファー・マレー博士はCNNのインタビューで「移動の増加」が起きていると指摘している。

「今、アメリカでは“移動の増加”が起きており、残念ながらそれが、結果的に死者数増加に繋がることになるのです」

 制限が緩和されていないにも関わらず人々が移動し始めて社会的距離が確保されなくなったこと、時期尚早の制限緩和が行われていることにより、人々が移動が高まっているというのだ。

時期尚早の制限緩和

 確かに、制限が緩和されていないのに人々の移動が増加している状況は、先日、カリフォルニア州オレンジ郡のビーチでも見られた。ビーチには多くの人々が集まり、州の命令に違反してオープンしたレストランでは、客がマスクをせず、社会的距離も無視して交流していた。2ヶ月近く続いている外出制限措置の反動とも言える光景が展開されていた。

外出制限措置に違反してオープンしたカリフォルニア州オレンジ郡サンクレメンテのレストランには多くの人々が押しかけ、社会的距離も確保されなかった。写真:ktla.com
外出制限措置に違反してオープンしたカリフォルニア州オレンジ郡サンクレメンテのレストランには多くの人々が押しかけ、社会的距離も確保されなかった。写真:ktla.com

 時期尚早の外出制限措置緩和も、推定感染者数や推定死者数の上方修正に影響を与えている。

 米国時間4月24日、いち早く制限の緩和に踏み切ったジョージア州だが、5月1日には24時間で1000人もの感染者が出た。

 検査が十分に行われていないまま経済を再開したテキサス州でも、先週末は連続3日、1日1000人以上もの感染者が出ている。

 また、感染症の専門家が重要だと訴えてきた「検査規模の拡大や接触者追跡、感染者の隔離」が十分に行われない問題も指摘されている。無症状感染者も多数いると推測されている。そんな問題がある中、始まっている人々の移動。

 新型コロナタスクフォースのデボラ・バークス氏は、当初、社会的距離戦略を徹底的に行ったとしても死者数は10万人〜24万人になると推定したが、今後、多くの州が制限緩和に踏み切って社会的距離が確保されなくなることを考えると、当初予測の最大値24万という数字に近づいていくのではないか。

 米国時間5月5日、アメリカの新型コロナによる死者は7万人を突破し、感染者は120万人を超えた。米国の経済再開の前には、感染者数と死者数の増大という壁が立ちはだかっている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事