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「誠実なAbeを打ち負かしたぞ」勝ち誇ったトランプ氏が唯一勝てなかった中曽根元首相の盟友

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
感謝祭の日、アフガニスタンをサプライズ訪問したトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 「誠実なAbeを打ち負かしたぞ」

 アメリカの政治情報サイトHill.comによると、トランプ氏はそんな発言をしたという。

 “誠実なAbe”ってどういうことなのか? 安倍首相が誠実だということ? それとも、公文書廃棄問題で米紙ワシントン・ポストにまで批判されている安倍首相の不誠実さを皮肉って、冗談でそう言ったのだろうか?

 様々な憶測が頭を駆け巡ったので調べてみると、“誠実なAbe”=Honest Abeというのは、エイブラハム・リンカーン元大統領のことだということがわかった。誠実な政治家であることを信条としたリンカーン元大統領は、“誠実なAbe”というニックネームを持っていたのだ。Abeはエイブラハムの略である。同じAbeでも、そこには雲泥の差があったということか。

リンカーン元大統領に勝ったのか?

 トランプ氏が「打ち負かした」と言ったのは、つまり、「リンカーン元大統領を打ち負かした」ということだったのだ。それは、The Economist/YouGov Poll(エコノミスト誌とイギリスの調査会社YouGovが、アメリカの世論を調査するために作ったベンチャー)が1500人のアメリカ人を対象に、11月24日〜26日の間に行った世論調査を受けての発言だった。

 この世論調査の中では、トランプ氏をこれまでの共和党の各大統領たちと比較した場合、どちらが好ましいかという質問が行われた。「トランプ氏とリンカーン元大統領では、どちらの共和党大統領が好ましいか」と聞いたところ、410人の共和党支持者中、トランプ氏の方が好ましいと答えた人が53%と、リンカーン元大統領の47%を6%凌ぐ結果となったのだ。

 この数字を見る限り、確かに、共和党支持者においては、トランプ氏はリンカーン元大統領を打ち負かしたとはいえるかもしれない。

 しかし、調査した1500人全体を見ると、リンカーン元大統領の方が好ましいと答えた人が75%と、トランプ氏の25%をはるかに上回った。

共和党支持者の53%がトランプ氏の方がリンカーン元大統領より好ましいと回答。しかし、調査した1500人全体では、リンカーン元大統領の方が好ましいと回答した人が75%と圧倒的に多かった。出典: The Economist/YouGov Poll
共和党支持者の53%がトランプ氏の方がリンカーン元大統領より好ましいと回答。しかし、調査した1500人全体では、リンカーン元大統領の方が好ましいと回答した人が75%と圧倒的に多かった。出典: The Economist/YouGov Poll

 また、トランプ氏をブッシュ元大統領やパパ・ブッシュ元大統領とそれぞれ比較した場合でも、共和党支持者の71%が、トランプ氏の方がいずれの元大統領よりも好ましいと回答。フォード元大統領、ニクソン元大統領、アイゼンハワー元大統領と比較しても、トランプ氏の方が好ましいと回答した人がはるかに多かった。

唯一勝てなかったレーガン元大統領

 この世論調査によると、歴代の共和党大統領たちと比べた場合、トランプ氏の方が共和党支持者からは圧倒的な支持を得ていることがわかる。しかし、トランプ氏が打ち負かせなかった共和党の元大統領がただ1人だけいた。トランプ氏がリスペクトしているレーガン元大統領である。

 トランプ氏をレーガン元大統領と比較した場合では、共和党支持者の59%がレーガン元大統領の方が好ましいと回答したのだ。

共和党支持者の59%がレーガン元大統領の方がトランプ氏より好ましいと回答。トランプ氏はレーガン元大統領には勝てなかった。出典: The Economist/YouGov Poll
共和党支持者の59%がレーガン元大統領の方がトランプ氏より好ましいと回答。トランプ氏はレーガン元大統領には勝てなかった。出典: The Economist/YouGov Poll

 トランプ氏がレーガン元大統領に勝てなかったのは無理もない。

 レーガン元大統領はトランプ氏とは異なり、同盟国との繋がりを非常に重視していたからだ。逝去した中曽根元首相ともロン・ヤスの関係で深く繋がり、1980年代、日米は強固な安全保障関係と経済関係を構築することができた。

 トランプ氏と安倍首相の関係は“ブロマンス(男性同士の深い友情)”とも呼ばれ、一見、強く結びついているようには見えるものの、それは日米首脳会談用の見せかけだけのフェイクな関係としか思えない。結局のところ、自国第一主義のトランプ氏はアメリカの国益しか頭にないからだ。その証拠に、日米貿易交渉においても在日米軍駐留経費問題においても、アメリカが有利になるように進めて、一方的に勝者になろうとしている。ロン・ヤスによって地固めされた日米関係を壊そうとしているようにしか見えない。

 

 「誠実なAbeを打ち負かしたぞ」

と勝ち誇ったトランプ氏。筆者がこの言葉に反応し、Abeに安倍首相を重ね合わせてしまったのは、今の日米関係がアメリカの一人勝ち状態だからだろう。

 中曽根元首相は草葉の陰で、この状況をどう思うのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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