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トランプ打倒のためなら金に糸目をつけない 米大統領選出馬のブルームバーグ氏は「第2のトランプ」か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
民主党大統領候補の指名争いに参戦したマイケル・ブルームバーグ氏、勝算はあるのか?(写真:ロイター/アフロ)

 「トランプ氏が再選されるリスクが前より大きくなっている。“再選させることはできない”と思った」

 米大統領選に出馬を表明した前ニューヨーク市長でビリオネアのマイケル・ブルームバーグ氏が、25日(米国時間)、バージニア州で選挙活動を開始、出馬の理由を語った。

第2のトランプ?

 トランプ氏の再選を危険視して出馬したというブルームバーグ氏。しかし、有権者からは、ブルームバーグ氏もトランプ氏と同じ穴の貉だという皮肉な声もあがっている。

 ツイッターではブルームバーグ氏について、「民主党の仮面を被ったトランプだ」、「第2のトランプだ」、「トランプと似たり寄ったり」、「ビリオネアの候補はもういらない(トランプで十分という意味)」など、ブルームバーグ氏をトランプ氏と重ね合わせた批判が展開されている。

 

 実際、両者は類似点が多い。

 まず2人とも、ニューヨークはマンハッタンをベースにして成功し、ビリオネアになっている。フォーブス誌の世界長者番付によると、トランプ氏の資産は、昨年、約3.1ビリオンドルで世界259位。ブルームバーグ氏はトランプ氏をはるかに超える資産約52.4ビリオンドルで世界9位だ。

 自己資産を選挙に投じようとしているところもトランプ氏に似ている。トランプ氏は前回の大統領選の際、多額の自己資産を投入したが、ブルームバーグ氏の場合、自己資産だけで選挙に臨もうとしている。

 また、トランプ氏は“大統領になったら報酬は1ドル”を謳い文句にしていたが、ブルームバーグ氏も同じ謳い文句を売りにしている。

 支持政党を変えたところも2人は似ている。トランプ氏はかつて民主党を支持していたが、大統領選には共和党から出馬した。ブルームバーグ氏は元々民主党支持者だったが、2001年のニューヨーク市長選には共和党から出馬、その後、2007年に無所属に転換、昨年10月にまた民主党に再登録した。支持政党に一貫性が無いため、民主党支持者の中には懐疑的な視線を向けている者も少なくない。

 選挙活動ではネット戦略に力を入れようとしているところも、2016年の大統領選時のトランプ氏と同じだ。ブルームバーグ氏は少なくとも150ミリオンドルを選挙運動にかけると意気込んでいるが、うち、100ミリオンドル以上をネット上でのトランプ攻撃にかけようとしている。

  アフリカ系アメリカ人やヒスパニック系アメリカ人などへの差別的な対応で非難されているところもトランプ氏と似ている。ブルームバーグ氏は、ニューヨーク市長時代、「ストップ&フリスク」という、警察官が路上で不審者を制止させて行う所持品検査を支持し、何もしていないのに検査を受けて拘留されたアフリカ系アメリカ人やヒスパニック系アメリカ人などのマイノリティーから非難されていたからだ。マイノリティーに人気のないことから、ブルームバーグ氏は今回、マイノリティー票の獲得に躍起になっており、15〜20ミリオンドルをマイノリティーの有権者をターゲットにした選挙活動にあてる計画をしている。最近行われたアメリカ系アメリカ人の集会では、「ストップ&フリスク」により、マイノリティーの人々が拘留されたことを認めて謝罪した。しかし、そんな謝罪は奏功したとは言い難く、逆に、「謝罪したのは選挙のためだろう」と冷ややかな目で見られている。

ブルームバーグ氏の生い立ち

 トランプ氏と類似点の多いブルームバーグ氏だが、大きく異なるところがある。それは、親の資産を元手に不動産王になったトランプ氏とは違い、ブルームバーグ氏は一代で財を築いた叩き上げという点だ。

 そんなブルームバーグ氏とはどんな人物なのか? 

 マサチューセッツ州の中流階級の家に生まれた同氏は、ロシア系ユダヤ人の移民を祖父母に持つ。育ったのは、ボストン郊外のメッドフォードである。

 1964年、ジョンズ・ホプキンス大学で学士号(電気工学を専攻)を取得。大学時代からリーダーシップを発揮していた。学生リーダーとして、フラターニティー(米国の大学にある、社交を目的とした男子学生のクラブ)の会長や生徒会長も務めた。大学時代に学内選挙に出たことで、初めて、選挙の味を覚えたという。様々な学内イベントも企画し、みなからコンセンサスを得るというスキルも学んだ。学生時代の体験が現在のブルームバーグ氏に大きな影響を与えているといえる。

 1966年にハーバード大学でMBAを取得後は、証券会社ソロモン・ブラザースに就職、社内で昇進を続け、最終的には、情報システム部門の長となった。1981年、リストラのため、解雇されたものの、退職金を利用して、ブルームバーグニュースを提供する金融情報メディア、ブルームバーグLPを設立した。

 2001年、トランプ氏の個人弁護士であるルディ・ジュリアーニ氏の支援を受け、108番目のニューヨーク市長に当選、以後、2期続けて当選を果たし、12年間にわたって市長を務めた。

国民皆保険制度やグリーン・ニュー・ディールには反対

 少なくとも37ミリオンドルを投じた初のテレビ広告では、市長時代の実績として、9.11後、ニューヨークを立て直し、職を創出し、希望を取り戻したこと、たくさんの安価な住まいを生み出したこと、教師の給料と子供たちの卒業率を上げたことなどを紹介している。

 また、LGBTの権利支持、銃暴力反対、低所得〜中所得者層の子供たちに対する大学授業料のファンド、医療研究の支持、富裕層に対する増税、中間所得者層の強化などを訴えている。

 しかし、医療対策と世界温暖化対策では、急進左派のバーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン氏とは一線を画している。ブルームバーグ氏はすべてのアメリカ人に対する健康保険の必要性を主張してはいるが、国民皆保険制度には反対。また、世界温暖化問題の解決を訴えてはいるものの、気候変動を食い止めるための“グリーン・ニュー・ディール”は支持していない。つまり、政策では、急進左派とは違って、現実的で実践的なアプローチを重視しているのだ。実際、世界温暖化防止対策では実績もあげてきた。アメリカの282の石炭工場の閉鎖を支援し、2025年までに二酸化炭素の放出量を75ミリオン・メトリック・トン削減するための連合もつくった。

 現実的で実践的という意味で、立ち位置は、バイデン氏と同じ中道派といえる。そのため、現在、民主党候補の中では支持率が最も高いバイデン氏の票が奪われることになると指摘されている。

 決選州の有権者がどう動くかも注目されるところだ。決選州の無所属層やトランプ支持者がブルームバーグ氏へと流れる可能性もある。

 ブルームバーグ氏の現在の支持率は一桁台。選挙の寄付金を受け付けていないため、民主党候補の討論会には出席できないという弱点もある。(討論会に出るには、寄付を得なければならないというルールがある)

 しかし、同氏のアドバイザーは「トランプを打倒するためなら、いくらでもお金をかける」と鼻息が荒く、ブルームバーグ陣営は金に糸目をつけない選挙活動を展開していきそうな勢いだ。

 ブルームバーグ氏の出馬で選挙模様が変わることが予想される米大統領選から目が離せない。

(参考)Michael Bloomberg officially announces that he is running for presidentMichael Bloomberg makes it official: ‘I’m running for president’Bloomberg Says He’s Running Due to ‘Greater Risk’ of Trump Win

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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