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「インターネットの父」が余生を賭けて取り組む新ブロックチェーン「モービー」プロジェクトとは何か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
「インターネットの父」レオナルド・クラインロック博士。現在85歳。筆者撮影。

 10月28日(米国時間)、ロサンゼルスはリトル東京近くの「アート・ディストリクト」の一角に、「インターネットの父」と謳われて称賛されているレオナルド・クラインロック博士が開発に参画している新ブロックチェーン「モービー(Mobby)」のオフィスがオープンした。

ロサンゼルスはリトル東京近くのアート・ディストリクトにオープンした新ブロックチェーン「モービー」のオフィス。筆者撮影
ロサンゼルスはリトル東京近くのアート・ディストリクトにオープンした新ブロックチェーン「モービー」のオフィス。筆者撮影

インターネット生誕50年

 今年は「インターネット生誕50年」に当たるが、インターネットの生みの親と言われているのがクラインロック博士である。

 インターネットによるメッセージの送受信は、今から50年遡ること1969年の10月29日、クラインロック博士の研究室であるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のボエルターホール3420号室から、スタンフォード大学の研究室に「LO」という2つの文字が送られたことで、世界で初めて実現した。

 「LO」とは「LOGIN(ログイン)」の「LO」である。「LOGIN」という5文字を1文字ずつ送ろうとしたが、Gのところでクラッシュしてしまったため、「LO」までしか送ることができなかったという。「UCLA ボエルターホール3420」はインターネットが生まれた歴史的場所なのだ。

人の評判を確認できる「レピュテーション・システム」を開発

 10月30日夜には、クラインロック博士も交えて、ビバリーヒルズ近くの高級ホテルで、「モービー」プロジェクトのキックオフパーティーが行われた。ここに集まった「モービー」の関係者たちには、待望の「ホワイト・ペーパー」が渡され、「モービー」のロゴも初披露された。

初公開された「モービー」のロゴ。筆者撮影。
初公開された「モービー」のロゴ。筆者撮影。

 そもそも、新ブロックチェーン「モービー」とは何なのか? 

 一言で言えば、インターネットが生み出した問題点を解決するための「レピュテーション・システム」を導入したブロックチェーンと言えるだろう。

 インターネットはSNSなどを通じて人々の繋がりを生み出したが、同時に、サイバー攻撃やスパム、フィッシング、個人情報の流出、ネット詐欺、フェイク・ニュース、ネットいじめなど多くの「ダーク・サイド」も生み出した。インターネット上にいる誰を信じていいのかわからない、ネット利用者にとってはそんな不安な状況が生まれている。

 クラインロック博士は、インターネットの開発に乗り出した1960年代初め、ネットで人とコンピューターが繋がったり、コンピューター同士が繋がったりすることで民主的なオープン・ネットワークが生まれることを希求していた。SNSなどにより人と人が繋がって、今のような「ダーク・サイド」が出現するとは想定していなかったようだ。そのため、博士は、10月29日にUCLAで行われた「インターネット生誕50年」を祝うイベントでこう訴えた。

「ネットが悪用され、ダーク・サイドや闇社会が生まれてしまった。犯罪組織による悪用やマネー・ロンダリング、サイバー攻撃なども起きている。狂気を持つ者同士が繋がっている。ネットの悪用を防ぐ必要がある」

 現在85歳の「インターネットの父」はネットの「ダーク・サイド」を解決することに余生を捧げようと、「モービー」の開発プロジェクトに情熱を注いでいる。

 今回、関係者に渡された「ホワイト・ペーパー」には「レピュテーション・システム」の詳細が記されているが、非常に専門的な内容だ。「モービー」のシステムについてアメリカでいち早く報じたZDNetの記事Exclusive: Internet pioneer Kleinrock returns to fix what ails the internetによると、インターネットの安全性と信頼性を確保すべく、「モービー」には、人々が、分散型で、インターネット上の自分の評判を確立できる「レピュテーション・システム」が導入されている。このシステムでは、ebayでの売買など人がネット上で行う様々な行動が評価され、その人の行動次第で、その人の総合的な評判が上がったり下がったりする。良い行動をした人にはリワードが与えられて評判が上がるが、悪い行動をした人は評判が落ちるわけだ。その意味で、このシステムはネットで生まれている「ダーク・サイド」を駆逐することに貢献するかもしれない。クラインロック博士はこのシステムについて「多面的なレピュテーション・システムである」と話している。

社会貢献のために参加

 クラインロック博士が、インターネットがポジティブな目的のために利用されることを求めているからだろう、関係者の中には「子供たちの健康や体作りに役立つ活動を始めたい」、「社会的弱者でも最先端医療が受けられるようなビジネスにモービーを活用できる可能性がある」など社会貢献をする目的で「モービー」プロジェクトに参加した人々もいた。

 クラインロック博士が肩入れしている「モービー」はインターネットの「ダーク・サイド」を解決することができるのか? 

 2020年1月〜3月の間には、「モービー」の取引が開始されることが予定されているという。今後の動きに注目したいところだ。

(お詫び:プライバシーを考慮し、一部、内容を訂正、削除させていただきました。ご了承頂けましたら幸いです)

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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