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ロシア疑惑 モラー氏議会証言「トランプ氏の潔白は証明されていない」共和党と民主党、どちらが勝ったのか

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
24日、連邦議会下院で証言を行ったモラー元特別検察官。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ロシア疑惑を捜査したロバート・モラー元特別検察官が、24日(米国時間)、連邦議会下院で証言を行った。

 全米が注目した、モラー氏の議会証言。彼のパフォーマンスに対する評価は、当然のことではあるが、共和党と民主党で大きく分かれている。

“実にひどい”証言ぶり

 様々な質問に対して「イエス」や「ノー」で答えたり、「報告書を参照してほしい」、「そのことには答えない」などと言って対応したモラー氏。

 そんなモラー氏の証言ぶりについて、共和党は「報告書に書かれている以上の新事実が出て来なかった、民主党は大統領を弾劾しようとしても無理だ」と“勝利発言”をした。

 トランプ氏も「私たち共和党にはとても良い日になった」と“勝利宣言”し、モラー氏の証言ぶりについて「実にひどい」とこき下ろした。トランプ氏がモラー氏のパフォーマンスを批判したのは、モラー氏が証言に際して、混乱した様子を見せていたからだ。

 例えば、モラー氏は、質問を聞き返したり、質問がよく聞こえないと言ったり、早く話しすぎると言ったりした。また、調査の詳細の中には、彼自身、よくわかっていないと思われるものもあった。「コンスピラシー(共謀)」というロシア疑惑問題に当たって重要になった用語を思い出せないシーンもあった。そのため、モラー氏は「以前のように冴えてはいなかった」という見方もされた。(参考記事:Mueller, in occasionally halting testimony, points to foreign interference and offers some sharp criticism of Trump

モラー証言の実質

 一方、民主党側は、共和党側が揶揄したモラー氏のパフォーマンスよりも、実質に注目した。

 注目すべきは、モラー氏が、「トランプ氏を訴追しなかったのは、現職大統領を訴追できないという司法省のポリシーがあるからですか?」という質問に対して「そうです」と明言したことだ。

 というのは、この明言、つまり、「司法省のポリシーのため大統領を訴追しなかった」ということは、448ページにも及ぶモラー報告書の中にも、モラー氏が司法長官のウィリアム・バー氏と共同で書いた要約の書簡にも、明確には記されていないからである。

 また、バー氏が「我々の決断は、現職大統領の起訴や刑事訴追を取り巻く憲法上の斟酌に関わらず下されたし、憲法上の斟酌にも基づいていない」と発言していたこととも矛盾しているという。(参考記事:Alan M. Dershowitz: Mueller testimony was confusing and contradictory

 モラー氏はなぜ、報告書やバー氏の発言と矛盾する発言をしたのだろう? 混乱していたからだろうか? それとも、本当のこと、つまり、現職大統領を訴追しないという司法省のポリシーがトランプ氏を訴追しないという判断に大きな影響を与えた事実を思わず吐露してしまったのか?

 その答えはモラー氏が、「大統領は退任後、司法妨害で訴追される可能性があるか?」という質問に対しては「ある」と答えていることにあるのではないか? 

 また、何より重要なのは、モラー氏が「実際、大統領の完全な潔白を証明したのですか?」という質問に対して「ノー」と強調したことだ。

 つまり、端的に言うなら、モラー氏は“大統領が完全に潔白であることは証明されておらず、現職大統領は司法省のポリシーのため訴追されず、大統領は退任したなら訴追される可能性がある”と考えているわけなのだ。

どっちが勝ったのか?

 トランプ氏や共和党は“新事実が出て来なかったこと”を理由に勝利宣言したわけだが、モラー氏が「大統領の潔白は確定していない」と議会で証言して米国民に知らしめたことで民主党側が勝利したという見方もされている。

 民主党側は、これらのモラー氏の議会証言が共和党側にダメージを与えるとみており、さらなる調査の必要性を訴えている。

 共和党と民主党、ロシア疑惑問題ではどちらが勝利したのか? 少なくとも言えるのは、共和党の勝利宣言は時期尚早ということだろう。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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