Yahoo!ニュース

米朝首脳会談 制裁解除や経済支援だけでは、北朝鮮は「完全非核化」に踏み切らない

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
言葉を信じていないトランプ氏は、金氏の提示する行動にフォーカスした。(写真:ロイター/アフロ)

 物別れに終わった第2回米朝首脳会談。

 決裂の原因は、トランプ氏が、あくまで、“完全非核化”を求める姿勢を崩さなかったことにある。しかも、ボルトン氏によると、トランプ氏は金氏に、核兵器に加え、化学・生物兵器や弾道ミサイルの放棄まで求めたという。

 完全非核化。その姿勢は、“楽観ムードが漂っていた”とメディアがみていた米朝会談1日目2月27日のトランプ発言にも現れていた。記者から「北朝鮮に対する非核化の要求を後退させたか?」という質問が飛んで来ると、トランプ氏は「ノー」と強く明言した。

 会談後の記者会見の際も、記者からの「あなたと金氏は言葉上は今朝までポジティブだったのに、どの時点で、交渉が成立しないとわかったのか?」という質問に対し、トランプ氏は「言葉上はずっとポジティブだったよ。しかし、私は言葉を信用していない」と答えている。言葉を信じていない理由として「私たちは、最初は、外交史の中でも、厳しい言葉のやりとりをしていたが、とてもフレンドリーになったから」と話している。今回の会談にあてはめるなら、会談前にポジティブな言葉を並び立てていたからといって、言葉を信用していないので、それが交渉成立に結びつくとは限らないということだ。

 トランプ氏はその場のムードや言葉に惑わさることなく、金氏の行動にフォーカスしたのだ。そして、金氏が提示した行動とは、トランプ氏が求める「完全非核化」ではなく「部分的な非核化」だった。

 

 しかし、金氏は「完全非核化」には踏み切れないだろう。政権の安全保証が具体的にトランプ氏側から明示されていないからだ。いかに政権の、我が身の安全が保証されるのか。金氏が「完全非核化」に踏み切ることができるかどうかは、結局、そこに帰結するのではないかと思う。

「北朝鮮は十分な安全保証を求めているのです。しかし、今のところ、アメリカが非核化と引き換えに北朝鮮に与えようとしている保証は経済制裁の解除や経済支援や外交政策による保証だけ。しかし、北朝鮮にとっては、これらは十分な安全保証とは言えないのです」

 ジョージ・W・H・ブッシュ政権時代、米国国務省政治軍事局で外交政策アナリストを務めていたベネット・ランバーグ博士は、筆者のインタビューでそう指摘した。

 つまり、制裁解除や経済支援だけでは、北朝鮮は「完全非核化」には踏み切らないということだ。

 また、今回の米朝会談では、出席が予定されていなかったジョン・ボルトン氏も姿を現した。攻撃オプションも頭にある超タカ派で、過去には「原爆投下は道徳的に正しかった」(詳しくは、ボルトン新大統領補佐官は、原爆投下は「道徳的に正しかった」と明言した“モンスター”をお読み下さい)とまで発言していたボルトン氏は、昨年、制裁解除と引き換えに核放棄に合意させるというリビア方式で北朝鮮を非核化させると言及し、金政権を震撼させた。結局、合意後、カダフィー政権は崩壊し、カダフィー大佐はNATOが支援する反体制派に殺害されるという運命を辿ったからだ。

 トランプ氏は「リビア方式は検討していない」と明言していたものの、今回の会談、蓋を開けてみるとリビア方式を押しつけたのと変わりない。核と化学・生物兵器、弾道ミサイルの放棄は、会談前にビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表が提案していた同時並行的な段階的非核化ではなく、北朝鮮を一気に非核化へと導かせるようなリビア方式を彷彿させる。そんなディールに、金氏は体制の危機を感じたことだろう。

 トランプ氏は昨年「非核化に応じれば体制を保証する」とも主張していたが、いったい、どんな手順でどのように体制を保証するのかを具体的には提示していない。結局のところ、それを提示しない限り、制裁解除や経済支援をしたところで、北朝鮮を「完全非核化」へと導くことはできないのではないか。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事