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米国 1人1丁以上の銃を所有 “大量殺人”装置「バンプストック」を禁止するだけでは意味がない

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
ラスベガス銃乱射事件で使用されたバンプストックの禁止は銃犯罪減少に繋がるのか?(写真:ロイター/アフロ)

 58人の死者と500人を超える負傷者を出したラスベガス銃乱射事件から、間もなく15ヶ月。銃撃犯スティーブン・パドックが銃撃に使用した「バンプストック(半自動小銃の連射性能を自動小銃並みに上げるための装置)」が、やっと、来年から、連邦レベルで禁止される運びとなった。バンプストックを所持することはアメリカでは違法となるため、所持者は、来年初頭から3月末までの90日の間に、それを提出するか破壊しなければならなくなったのだ。

バンプストックの回収は困難

 バンプストックのような大量殺人を可能にする装置が連邦レベルで禁止されたことについて、銃規制団体は評価する一方、アメリカのメディアからは「バンプストックを禁止するだけでは意味がない」という声も上がっている。

 というのは、バンプストックは、もともと珍奇な装置で、銃所持者が一般的に所有しているようなものではないからだ。実際、バンプストックはラスベガスの銃乱射事件が起きて初めて一般の人々に知られるようになった。また、バンプストックという装置自体も信頼できるものでも、それほど利用されているものでもないという。確かに、銃規制を強化すれば、銃による暴力も減少するが、あまり人気のない銃器用アクセサリーを禁止したところで、どれほど銃犯罪の減少に貢献するだろうか?

 また、バンプストック所持者は90日以内にそれを提出するか破壊しなければならないと取り決めても、すでに出回っている推定52万個のバンプストックが本当にそうされたか、一軒一軒、家を回って確認することは不可能であるし、政府もそんな確認作業は行わないという。つまり、今後、バンプストックを購入することは不可能とはなっても、すでに出回っているバンプストックを回収することは困難なわけだ。 

 しかも、トランプ政権はバンプストックを買い取るわけではなく、所持者は無償で提出しなければならない。バンプストックは1つ180〜425ドル。高いお金を出して購入したバンプストックをどれだけの所持者が進んで提出するだろうか?

 回収が困難なことは、連邦に先立って、バンプストックをすでに禁止した州が証明している。ニュージャージー州では今年1月にバンプストックが禁止されたが、法律施行後5ヶ月以内に提出されたバンプストックは1つもなかった。マサチューセッツ州は昨年11月にバンプストックを禁止したが、今年2月までに提出されたバンプストックはわずか3つだった。この現状を考えると、連邦レベルで禁止したところで、バンプストックの回収や破壊にどれだけ繋がるかは甚だ疑問だ。

トランプ氏のポーズ

 それにもかかわらず、なぜ、トランプ氏はバンプストックを禁止にしたのか。これについては、銃規制を進めていることを国民に見せかけるための、トランプ氏のポーズに過ぎないという見方がある。トランプ氏や銃規制反対派は、バンプストックのような銃器用アクセサリーを悪者にして禁止することで、肝心の、銃一般を規制することから国民の目をそらそうとしているというのだ。

 確かに、NRA(全米ライフル協会)の絶大な支持を受けているトランプ氏としては、銃規制はしたくないところだろう。しかし、大統領としては、頻発する銃乱射事件に対して何らかの銃規制対策を進めて、国民に良い顔も見せなければならない。そんなジレンマの中、トランプ氏は、2月にフロリダ州でパークランド高校銃乱射事件が起きた後、バンプストックの禁止や銃購入希望者の身元調査システムの改善、アサルトライフル(半自動式ライフル銃など殺傷力の高いもの)が購入できる年齢を18歳から21歳に引きあげるなど銃規制強化を提案してきた。

1人1丁以上の銃を所有

 しかし、トランプ氏が提案している銃規制強化案が実施されたところで、どれほど、アメリカの銃犯罪が減少するかは疑問だ。それだけ、アメリカで出回っている銃の数と銃による暴力は、他国と比べた場合、並外れて深刻だからだ。

 以下のグラフを見てほしい。

 スイスの研究機関Small Arms Surveyが2017年に行なった調査結果をグラフ化したもので、100人の住民あたりの銃の推定流通数を表示している。この調査によると、アメリカでは、住民100人につき120.5丁の銃が流通していると推定されている。つまり、1人1丁以上の銃を所有している計算になる。この数は他国を大きく引き離して世界で断トツであるどころか、内戦が続いている2位のイエメンの倍以上の数だ。

住民100人あたりの銃の流通数はアメリカが断トツだ。出典:Small Arms Survey
住民100人あたりの銃の流通数はアメリカが断トツだ。出典:Small Arms Survey

 また、以下のグラフが示すように、100人あたりの銃の流通数が多い国ほど、10万人あたりの銃による死者数も比例して多くなっている。

100人あたりの銃の流通数が多いほど、銃で亡くなっている人々の数も多い。出典:Tewksbury Lab
100人あたりの銃の流通数が多いほど、銃で亡くなっている人々の数も多い。出典:Tewksbury Lab

 この状況を激変させるには、アメリカには、手ぬるい銃規制対策ではなく、もっとドラスティックな対策が必要だ。

 例えば、オーストラリア政府は、1996年に起きた銃乱射事件を契機に、出回っている銃を買い取るというプログラムを開始した。その結果、プログラム開始前7年間は、銃による自殺数は年平均10万人中2.6人だったのが、開始後7年間は1.1人に、銃による殺人数は開始前7年間は年平均10万人中0.43人だったのが、開始後7年間は0.25人に減少した。また、2017年7月には、未登録の銃を所持していても、期限内に提出すれば処罰しないという取り組みを開始し、2ヶ月間で26,000丁の銃の回収に成功している。

 同じ方法がアメリカでどれだけ有効かは未知数ではあるが、“見せかけの銃規制”で国民を“欺く”のではなく、根本的な”刀狩り”を行わない限りは銃による暴力を激減させることが困難なほど、アメリカの銃問題は根深いところまで来ている。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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