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ブッシュ元大統領の国葬 トランプ夫妻登場で冷ややかムードに 批判を集めたトランプ氏の態度とは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ大統領夫妻が現れると、歴代大統領が並ぶ最前列には冷たい空気が流れた。(写真:ロイター/アフロ)

 ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の国葬が、ワシントン大聖堂で執り行われた。

 最前列に着席したのは、歴代の大統領たち。正面、向かって左から、オバマ元大統領夫妻、クリントン元大統領夫妻、カーター元大統領夫妻が並んでいた。葬儀を前に、和やかに挨拶を交わし、ハグし、おしゃべりをしていた元大統領夫妻たち。

 そんな最前列に最後に現れたのがトランプ氏とメラニア夫人だった。トランプ夫妻は、元大統領夫妻たちに挨拶をして握手を交わすのかと思いきや、トランプ氏が握手をしたのは横に座っているオバマ夫妻だけだった。それを一瞥しただけのクリントン氏。ヒラリー氏の方は一瞥も与えず、厳しい表情でまっすぐに前を向き、トランプ夫妻を無視したままだった。そこにはちょっと異様な雰囲気が漂っていた。

トランプ夫妻は朗読もせず

 そんな光景について、FOXニュースの名キャスター、クリス・ウォーレス氏がこうコメントした。

「トランプ大統領とメラニア夫人が最前列に来た時、冷ややかな空気が降りて来たことに驚いたと言わざるを得ません。それまで、クリントン夫妻やオバマ夫妻、カーター夫妻たちはおしゃべりをしていましたよね。しかし、トランプ氏が着席すると、オバマ夫妻は、これまで同様、冷ややかな挨拶をしました。最前列に座っていた人々の中には、嫌悪感を感じている人もいるのです。それに、最前列の大統領クラブは、トランプ大統領に手を差し出さなかったようです」

 FOXニュースというとトランプ氏が唯一認めて、毎朝視聴しているメディアである。トランプ氏の”大本営発表”を流すそんなメディアの名キャスターでさえ、こんな皮肉を言うほど、トランプ氏は歴代大統領たちとの間に冷ややかなムードを生み出していたのだ。

 トランプ氏が参列していた元大統領の中では最年長(94歳)のカーター元大統領に挨拶をしなかったことも、リスペクトに欠くと批判されている。最前列でも、カーター元大統領はトランプ氏から一番離れたところに着席していた。トランプ氏はカーター元大統領のところまでわざわざ行かずとも、遠くから手を振ることだけでもできたはずだというのだ。カーター元大統領もいやな気持ちになったのかもしれない。トランプ氏を無感情に横目で見ているショットがツイッターで話題になった。

 葬儀中のトランプ夫妻の態度も批判された。葬儀半ば、参列者たちは起立して使徒信条(カトリック教会、聖公会、プロテスタントにおける基本信条の一つ)を朗読したが、歴代大統領たちが朗読していたにもかかわらず、トランプ夫妻だけは口を動かすこともなく、使徒信条が書かれた紙を開くことさえせず、終始、俯いたままだったからだ。そのため、トランプ夫妻はブッシュ元大統領に対して敬意を払っていないという声が上がった。

 トランプ氏はキリスト教系の信者たちを大きな支持基盤にしている。彼らは、夫妻の態度を見てどう思っただろうか?

使徒信条を朗読しなかったトランプ夫妻。
使徒信条を朗読しなかったトランプ夫妻。

大統領の任務は憎しみを超える

 葬儀では歓迎されず、浮いていた感のあるトランプ夫妻。

 しかし、そんな夫妻であっても、H・W・ブッシュ元大統領は、空から受け入れていることだろう。H・W・ブッシュ元大統領はトランプ氏を自分の葬儀には招くと明確化していたからだ。

 H・W・ブッシュ元大統領は政治的にはトランプ氏を批判し、大統領選でも彼に投票しなかった。トランプ氏はバーバラ夫人の葬儀にも招かれなかった。ブッシュ家とトランプ氏の間には確執があった。しかし、H・W・ブッシュ元大統領は、大統領は個人的な憎しみを超えて与えられた任務を果たすべきだと考えていたという。トランプ氏を自分の葬儀に招くことは、元大統領としての自分の任務だと感じていたのかもしれない。

 そんなH・W・ブッシュ元大統領をロールモデルに、トランプ氏が、個人的感情を封じて大統領職を遂行することができるリーダーに変わることを願うばかりだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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