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最後の20ドルで人助けをしたホームレスの話は寄付金集めのための“嘘”だった ホームレスらを逮捕

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
寄付金詐欺の疑いで逮捕されたホームレスのジョニーさんたち。写真:scpr.org

 昨年、人々の心を温めてくれたホームレスのジョニー・ボビットさんの話を覚えていますか? 悲しいことですが、あれは、真っ赤な嘘だったのかもしれません。

 一年ほど前、ホームレスのジョニーさんは、持っていた最後の20ドルで、ガス欠して困っていたケイトさんを助けるためにガソリンを買いました。ジョニーさんの優しさに心打たれたケイトさんは、ボーイフレンドのマークさんとジョニーさんを支援するために寄付金集めのサイトを立ち上げ、瞬く間に40万ドル以上が集まりました。親切の輪が広がっていることの素晴らしさを伝えられたらと、筆者もこの出来事を記事“最後の20ドル”で女性を助けたホームレス男性 彼の自立支援のために集まった寄付金は30万ドル目前!にしました。

 しかし、3人の周辺を調べたニュージャージー州の検察は15日(米国時間)、「ジョニーさんの人助け話は、3人が、寄付金集めのために、共謀してでっち上げた作り話だった」と発表したのです。

 3人は、第2級の詐欺による窃盗罪と詐欺による窃盗共謀罪の容疑で逮捕、起訴されました。有罪判決を受ければ、3人は、禁錮5〜10年の刑に処される可能性があります。

 3人の共謀が疑われるきっかけとなったのは、8月、集まった寄付金をめぐって、ジョニーさんがケイトさんとマークさんを相手取ってした提訴でした。ジョニーさんによると、寄付金を管理していた2人はジョニーさんに十分なお金を与えず、自分たちの旅行や買物、ギャンブルに散財してしまったといいます。実際、2人は寄付金をすべて使い果たしてしまっていました。ジョニーさんはホームレスに舞い戻らざるを得なくなってしまいました。詳しくは、“最後の20ドル”で人助けをしたホームレス 彼を支援するために集まった40万ドルの寄付金は何処へ?をお読み下さい。

 このジョニーさんの提訴をきっかけに、検察が3人の周辺を調査したところ、あるテキストメッセージが見つかったのです。テキストメッセージは、ケイトさんが寄付金集めのサイトを立ち上げた直後、友人に送ったもので、そこには「ガソリンのところは完全な作り話よ。でも、ジョニーさんという存在がいることは作り話ではないの。かわいそうだと人々に思わせるために、話を作り上げなくてはならなかったの」と書かれていました。

 検察によると、ケイトさんとマークさんがジョニーさんと出会ったのは、寄付金集めのサイトを立ち上げる少なくとも1ヶ月前。2人がよくプレイするカジノに行く途中のことでした。それから、3人はつるむようになり、共謀を計画したと検察側は主張しています。

 ケイトさんらはギャンブルに使うお金が欲しかったのでしょうか? 実際、2人は、寄付金を得た後、2万ドルをカジノで使っていたことがわかりました。また、約89000ドルがカジノの街として知られるラスベガスやアトランティック・シティーにある銀行から引き出されていました。そして、ドラッグ中毒だったジョニーさんはドラッグを買うお金が欲しかったのでしょうか? 

 心温まる話に心を動かされて寄付をした14000人の善意は、3人の欲の犠牲になってしまったのでしょうか?

 寄付金を集めるのに使われたクラウド・ファンディング・サイトgofundme.comは、寄付をした人々に寄付金を戻すと言っていますが、お金が戻ってきたとしても、彼らの心はなかなか元には戻らないかもしれません。

 寄付をした人々は、ジョニーさんが提訴した8月の段階で、寄付金を遊びに使い果たしてしまったとされるケイトさんとマークさんに騙された気持ちになっています。そして、今回は、同情していたジョニーさんまでも寄付金集めのために2人と共謀していた疑いで逮捕されたのです。寄付や人助けをする気持ちも、人を信じる気持ちもなくなってしまうかもしれません。こんな顛末を知った人々も、同じような気持ちを抱いていることでしょう。

 とてもやりきれません。それでも、こんなことがあっても、善意の心は失わないでいてくれたら。筆者はそう願いたい気持ちです。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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