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高校銃乱射事件が起きたフロリダ州の“銃規制力”は“F(落第)” 事件は起こるべくして起きたのか?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
フロリダ州高校銃乱射事件後、若者たちはアサルト銃の取り扱い禁止を訴えている。(写真:ロイター/アフロ)

 フロリダ州は”F”、つまり、落第。

 これは、ギフォーズ銃暴力防止法律センターがフロリダ州の“銃規制力”について評価した結果だ。

 アメリカでは、銃は連邦法と州法で取り締まられているが、連邦法には”法の抜け穴”が多く、手緩いことが問題とされている。そんな連邦法の弱さを補完しようとしているのが州の法律だ。

 同センターは、毎年、各州の“銃の法律の強さ”と”10万人あたりの銃による死亡者数”をベースに各州の“銃規制力”を評価している。2月28日にリリースされた2017年の評価結果を見ると、フロリダ州は“F=落第”と判定された25の州のうちの一州だった。“銃の法律の強さ”、”10万人あたりの銃による死亡者数”ともに、50州中26位というランクである。10万人あたりの銃による死亡者数は12.6人だった。

 トランプ大統領は、乱射事件を、すぐに校舎に突入できなかった警官やクルーズ容疑者の精神問題のせいにしているが、フロリダ州が“銃規制力”の点で“落第州”だったという結果を見ると、乱射事件は起こるべくして起きたということもできるかもしれない。

 下記URLの表を見ると、州の“銃の法律”が強いほど、人口あたりの銃による死亡者数が低い傾向にあることがわかる。ちなみに、A判定されたのはカリフォルニア州のみ。Aマイナス判定されたのはコネティカット、ハワイ、メリーランド、マサチューセッツ、ニューヨーク、ニュージャージーの6州だ。10万人あたりの銃による死亡者数が最も多かったのはアラスカ州で23人である。

各州の銃の法律の強さを採点

 同センターは、各州の銃の法律の強さを、銃購入者の身元調査が行われているか、子供の銃器へのアクセスが防止されているか、銃携帯許可証が発行されているか、家庭内暴力を加えている加害者の銃購入や所持を禁止しているか、危険な兆候を見せている人物が銃にアクセスできなくなるようにしているか、軍隊スタイルの武器が禁止されているかの6点から評価している。

 銃規制と一言で言っても、その規制内容はこと細かに分かれているのだ。

銃購入者の身元調査が行われているか

 身元調査では、州が、個人的に銃を販売する人々に、銃購入者の身元調査を行うことを義務づけているかどうかが評価される。身元調査の点では、連邦法に大きな抜け穴があるからだ。連邦法では、許可を得ている銃販売業者には銃購入者の身元調査を行うことを義務づけているものの、許可を得ていない銃販売業者には身元調査を義務づけていないのである。2017年の調査によると、アメリカの銃所有者の42%が身元調査を受けずに銃を購入している。多くの人々が、銃器見本市やオンラインなどを通じて、個人から購入するという連邦法の抜け穴を利用しているのだ。

 問題は、州が州法でこの抜け穴を埋めようとしているかどうかだが、フロリダ州はこの抜け穴を埋めていない。ちなみに、埋めているのは、カリフォルニア州やニューヨーク州などの12州。コネティカット州では個人的に販売している人々にも銃購入者の身元調査をするよう義務づける法律を制定したが、それにより銃による殺人件数が40%減少と効果を上げている。

子供の銃器へのアクセスが防止されているか

 連邦法には、子供が銃にアクセスしないよう安全に保管することを義務づけた法律(CAP法)がない。そのため、CAP法は州レベルで制定されており、フロリダ州は制定している27の州のうちの一つだ。CAP法は州によって厳しさに差異がある。

 例えば、子供が安全に保管されていない銃にアクセスする可能性がある状況(実際に使用したかどうか、人を傷つけたかどうかは関係ない)となっている場合、銃所有者に刑事責任を課す厳格な州もあるが、フロリダ州の場合は子供が安全に保管されていない銃を実際に威嚇するために使用したり、公共の場に携帯したりした場合にのみ銃所有者に刑事責任を課している。

 事件時にクルーズ容疑者の保護者となっていた夫婦は、彼が銃を所有していることは知っていたが、保管庫に鍵をかけて収納、その鍵は自分たちしか持っていないと思っていたという。保護者と子供の間ではこうした認識の違いが多い。例えば、2006年に行われた調査では、銃のある家庭に住む10歳以下の子供の73%が銃の保管場所を知っているが、親の39%は子供は銃の保管場所は知らないと報告している。

銃携帯許可証が発行されているか?

 アメリカでは州によって、銃をかばんに入れたり、上着の内ポケットに入れたりなどして外から見えないように携帯することは違法で、そのように携帯するには携帯許可証が必要になる。現在、38の州がこの携帯許可証を発行しているが、発行機関がどの程度発行の自由裁量権を持っているかは州により異なる。発行機関が自由裁量権を強く持っている州は、例えば、その人物が公共の場で銃が見えないように携帯することに問題を見出した場合、携帯許可証の発行を拒否することができるが、フロリダ州の場合は発行機関に自由裁量権がない。

家庭内暴力を加えている加害者の銃購入や所持を禁止しているか?

 家庭内暴力を受けている女性被害者は、パートナーが銃を所有している場合は、所有していない場合よりも、5倍も銃で殺害される可能性が高い。連邦法や多くの州法は家庭内暴力を加えている加害者の銃購入や所持を禁止しているが、全ての州が加害者の警察への銃明け渡しを保証しているわけではない。23の州は加害者に銃を警察に明け渡すよう要求し、明け渡した証拠を裁判所に提出させているが、14の州は銃を警察に明け渡すことを要求してはいるものの、明け渡した証拠の提出までは命じていないのだ。

 また、連邦法では限界が多い。家庭内暴力の被害者として認められる対象が狭義に限定されているからだ。被害者と加害者間の関係によっては法律が適用されないのである。例えば、被害者が加害者の配偶者ではなくデイトの相手だったり、パートナーや子供以外の家族(例えば、両親や兄弟姉妹)であったりした場合は法律が適用されない。

 そのため、州法が被害者として認められる対象を広げて、連邦法の限界を克服しようとしている。例えば、カリフォルニアやコネティカット、ハワイ、ニューヨークの4州は加害者が暴力やストーカー行為で有罪となった場合、被害者と加害者間の関係に関わりなく、加害者の銃購入及び所持を禁じている。しかし、フロリダ州の場合は禁じていない。

危険な兆候を見せている人物が銃にアクセスできなくなるようにしているか?

 大量乱射事件の場合、人々は、事前に、犯人の犯罪の兆候に気づいていることが多い。しかし、犯人の銃へのアクセスを防ぐ手段がなかったので、悲劇が起きてしまっている。過去20年間で乱射事件を犯した62人の乱射犯中38人は、犯行前に、精神的に危険な兆候を見せており、周囲にいる人たちはその兆候を目撃していた。しかし、そんな状況があるにもかかわらず、連邦法も州法も、危険な兆候を見せている人物の銃へのアクセスを、一時的な期間でさえも防いでいない。

 連邦法の下では、精神状態に問題のある人でも精神病院に入院していなければ、また、心神喪失状態だったという理由で有罪とならなければ、銃購入・所持が禁止されることはない。同様に、他人に乱暴な行為を働いた人も、家庭内暴力により接近禁止令を出されたり、重罪や家庭内暴力で有罪となったりしなければ、銃購入・所持が禁止されることはない。連邦法は手緩いのだ。

 この手緩さを補うため、カリフォルニア、ワシントン、オレゴンの3州はエクストリーム・リスク・プロテクション・オーダー(ERPO)法を制定した。この法律では、家族や同居人、警察は、危険な兆候を見せている人物がその人物自身や他人に対して切迫した危険をもたらしそうな場合、その人物が銃にアクセスできなくなるよう裁判所に請願することができる。つまり、法律で、銃による悲劇が起きるのを未然に防ごうとしているのだ。

 今回の乱射事件では、クルーズ容疑者の危険な兆候に気づいていた人が多かったはずだ。FBIに通告が行っていたし、生徒たちも彼は銃乱射をする可能性があると感じていた。その危険性から、高校から退学処分を受けてもいた。育ての母親が他界直後、彼の保護者となった夫婦を銃で脅して警察沙汰になったこともあったという。フロリダ州にこの法律があったら、今回の乱射事件も未然に防げた可能性があるのではないか。

軍隊スタイルの武器が禁止されているか?

 アサルト銃は、特に、銃乱射犯の多くが使用している軍隊スタイルの武器だ。クルーズ容疑者もAR-15というアサルト銃を使用した。

 アサルト銃のような軍隊スタイルの武器については、1994年に連邦法で取り扱い禁止となったものの、2004年、議会で更新されなかった。そのため、州は州レベルで軍隊スタイルの武器を禁止する法律を定め、カリフォルニアやコネティカット、ハワイなどの7州とコロンビア特別区はアサルト銃を禁止している。しかし、フロリダ州は禁止していない。

高まる銃規制強化の声

 CNNの調査では、銃規制強化を求める人々の割合は70%と過去最高の高まりを見せている。高まった世論が、連邦や州レベルでの銃規制強化を後押ししている。フロリダ州の議会は、銃の購入可能年齢を18歳から21歳まで引き上げることを審議中だ。トランプ氏も、それが単なるポーズではないことを祈るが、銃購入者の身元調査の強化や精神状態に問題を抱える人の銃購入の見直しに取り組む姿勢を示した。

 しかし、銃規制強化に至る道のりは現実的に険しい。今回事件のあったフロリダ州の議会下院は、事件後、アサルト銃の販売禁止法案提出を求める動議について採決を行なったが、反対多数で否決、実質的に廃案となってしまった。アメリカの高校史上最悪の銃乱射事件が起きたにもかかわらず、大量殺人兵器であるアサルト銃の禁止法案が議論にさえ至らない状況が厳然としてある。

 若者たちは銃規制のために立ち上がり、激しく声を上げている。彼らの訴えに、政策決定者たちの心が動かされることを願いたい。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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