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寒い世界の片隅で、凍傷のホームレス男性を温めたものとは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
アメリカでは昨年、寝場所がないホームレスの人々の数が、2年前より9%以上増加。(写真:ロイター/アフロ)

 この冬、日本もアメリカも記録的な大寒波に襲われていますが、寒い世界の片隅で起きた出来事が、アメリカの人々の心を温めています。

迷わず差し出されたブーツと靴下

 それは、一月のある金曜日の夜、シカゴを走る電車の中で起きた出来事です。

 その夜、ケンタッキー州でエレベーター技師として働くシングルファザーのモーリス・アンダーソンさんは、9歳の娘に会いにいくため、シカゴに飛びました。アンダーソンさんは元々シカゴに住んでいましたが、同地では職が見つけられなかったため、職が得られたケンタッキー州に移住、娘とは別々に住んでいるのです。

 シカゴの空港から電車に乗ったアンダーソンさん、何気なく視線を落とすと、穴が空き、かかとが潰れたボロボロのスニーカーが視界に飛び込んできました。それは、そばに座っているホームレス男性が履いているものでした。防寒のため何枚も重ね履きしている靴下からは、血も滲んでいました。

「足が凍傷になっているかもしれない」

 そうつぶやいたホームレス男性に、アンダーソンさんは尋ねました。

「足のサイズは?」

 ホームレス男性は「12」と答えました。自分と同じサイズだと知ったアンダーソンさんは、身につけていた真新しいスノーブーツを脱ぎ、ホームレス男性にそっと手渡しました。そして、スーツケースを開け、靴下も差し出したのです。ホームレス男性は驚きながらも、感謝し、喜びました。周囲の人々も感嘆しました。

「足をきれいにして、できるだけ早く靴下を履くんだよ」

 アンダーソンさんはそう言うと、スーツケースに入っている別の靴を履いて、電車から降りて行きました。

迷わず撮られた写真

 二人のやりとりを目にした人々の中に、弁護士のジェシカ・ベルさんがいました。ベルさんは写真を撮り、フェイスブックに以下の写真を載せました。

ベルさんのフェイスブックに掲載された写真

 ホームレス男性のスニーカーの横には、手渡されたブーツが置かれています。この写真は、フェイスブックで、2万3千回以上シェアされ、世界中に広がりました。

 ベルさんは「憎悪や無関心が蔓延っている今、突然、思いやりに遭遇しました。自分のことは考えず、そっと助けたモーリスさんの優しさに心を打たれました」と話しています。

 ベルさんが、迷いもなく写真を撮ったのは、彼女自身もホームレスの人々を助ける活動をしているからかもしれません。ベルさんは、ホームレスの女性たちに生理用品を提供するために募金集めをしている団体のファウンダーなのです。ベルさんは、人々がアンダーソンさんの行動にインスパイアされて、思いやりが広がって行くことを願っています。

 注目されたアンダーソンさんは、メディアの取材でこう話しています。

「貧しい人々を変な目で見るのではなく、助けたい。ホームレス男性はすでに困窮しているし、寒い中外にいた末、電車に乗っていた。手を差し伸べなかったら、どうなっていたことか。靴を脱いで渡さなくては。迷うことなくそう思ったんです」

 まだまだ、これからも寒い日が続きます。世間も決して温かくはありません。そんな世界の片隅で、思いもかけず手渡された一足のブーツが、今、ホームレス男性の足を温かく包んでいることでしょう!

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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