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“認知症疑惑”が晴れてもなお残る、トランプ大統領の精神状態に対する懸念

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
トランプ大統領の健康診断結果を発表する主治医のロニー・ジャクソン氏。(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領の健康診断を控えて、主治医のロニー・ジャクソン氏の元に、一通の手紙が送られていた。1月11 日付のこの手紙は、トランプ氏の精神状態の検査を行うことを求めている。

ートランプ大統領に、66歳以上の患者が受けている標準的な健康診断を受けることを勧めます。71歳の大統領には、認知機能や精神衛生機能などの検査をすべきです。ー

 トランプ大統領の精神衛生を懸念する手紙を送ったのは、心理学者を中心にした70人以上の専門家たちだ。彼らは、トランプ大統領について、1. 複雑な思考力が低下し、話にまとまりがないこと、2.ろれつが回らないこと、3. 古くからの友人を認識できないこと、4. 同じ内容の発言を繰り返すこと、5.細かい動作をする能力が低下したこと、6. 読んだり聞いたり理解したりすることが困難になっていること、7. 判断力、計画力、問題解決力、衝動抑制力に疑問が感じられること、8. 近年、語彙力が低下したことを指摘し、トランプ氏が認知機能の検査を受ける必要性を訴えた。

10分以内に同じ話を繰り返す

  暴露本『炎と怒り』の中でも、認知機能の衰えを示唆するようなエピソードが紹介されている。それは、1時間の会議中、トランプ大統領はノンストップで、繰り返し同じ話をしたので、大統領首席補佐官候補だったプリーバス氏が不安に感じたという話だ。側近もそのことは理解しているようで、「よく聞いて。彼との1時間の会議では、54分間、話を聞くことになるが、それは、繰り返し同じ話だ。だから、言いたいことは一つにして、言える時にパパっと言うことだ」とプリーバス氏にアドバイスしている。(詳しくは、トランプ大統領の暴露本は、トランプ政権への“爆弾”となるのか? をお読み下さい)

 また、以前は、トランプ大統領は同じ3つの話を30分以内に繰り返していたが、最近では、10分も経たないうちに繰り返すようになったという。

認知機能テストには限界がある

 “認知症疑惑”を払拭するためか、トランプ大統領は自ら認知機能の検査をリクエストして、テストを受けた。それは「モントリオール認知評価検査(MoCa)」と呼ばれる、10分くらいしか、かからない簡単なテストで、アメリカの大統領がこのテストを受けるのは初めてのことだった。ジャクソン主治医によると、結果は30問全問正解で、認知機能に問題は見られなかったという。 

 トランプ大統領が受けたテストは、ある時間の時計の針の位置を描かせたり、何の動物かを認識させたり、言葉や番号を繰り返させたりすることで認知能力を評価するという、世界的によく行われているテストだ。しかし、精神状態全般をテストするものではないという点で、限界があるという。このテストを開発したカナダ人神経学者のジアード・ナスレッディン博士が、National Postのインタビューでこう説明している。

「テストは認知機能の衰えを示す初期症状がないかを見極めるために作られたもので、精神問題や判断力といった個人の性質を見極めるためのものではありません。このテストは限界があるのです。このテストでは主に実行機能(目的を持った一連の活動を効果的に成し遂げるために必要な機能)や記憶、構成力、計画力、抽象的思考力をテストします。全問正解ということは、言語、記憶、実行機能において最低限の認知機能を持っているという点で非常に安心ではありますが、このテストでは人格に問題があるかまでは評価することができないのです」

 つまり、しばしば、取り沙汰されている“トランプ大統領の自己愛性人格障害”を含め、大統領にふさわしい人格であるかは判断できないのである。

 また、アルツハイマー協会のデビッド・ノップマン博士は「このテストは一般的な認知機能を評価するものであり、微妙な認知機能の衰えを知るには感度不足だ」と話している。

スピーチは変化している

 微妙な認知機能の衰えによるものであるかは不明だが、加齢とともに、トランプ大統領のスピーチは変化していると指摘されている。トランプ大統領の80年代、90年代のインタビュービデオと最近のビデオを比較した専門家は、昔のビデオでは、トランプ大統領は洗練された語彙を使って明瞭に話し、長く複雑なセンテンスを用いているという。また、uh(ええと)や"I mean"(つまり)などのつなぎ言葉も少ないと指摘している。最近のスピーチには簡単な言葉やセンテンス、つなぎ言葉が多いというのだ。

 ちなみに、アメリカでは、スピーチと認知機能の関連性を示すような神経言語学の研究が行われているが、アリゾナ州立大学の研究者が、レーガン元大統領とH.W.ブッシュ元大統領の記者会見でのスピーチを研究し、2015年、興味深い結果を発表している。それによると、レーガン元大統領は、something やanythingを使った曖昧な表現や、have, go, getなどの動詞、不完全なセンテンス、限られた語彙、簡単な文法を使ったセンテンス、つなぎ言葉(well, basically, ah, soなど)を多用していたという。そして、こういった特徴は認知機能に問題がある場合に現れる傾向があるという。実際、レーガン元大統領は、任期を終えた後、1994年にアルツハイマー病と診断された。一方、H.W.ブッシュ元大統領のスピーチには、こういった特徴は見られなかった。

カーター元大統領の提案

 レーガン元大統領がアルツハイマー病と診断されたことを受け、1994年、カーター元大統領は、大統領が神経系の病気で精神障害を患った場合、国が危険な状態になる可能性を危惧し、判断力や記憶力、決断力、注意力などを評価するテストで大統領の精神状態を定期的に評価する委員会を設けることを提案していた。今までのところ、このような委員会はまだ発足されていないが、昨年4月、民主党のジェイミー・ラスキン下院議員が、精神科医や医師などからなる「大統領の資格監査委員会」を発足する法案を紹介している。

 トランプ氏は、現時点では認知機能に問題がないことが証明されたものの、認知機能は、加齢やストレス、疲労などの影響を受けるという。また、ナスレッディン博士が指摘しているように、今回のテストでは、精神状態全般や人格の問題がテストされたわけではない。

 アメリカの大統領が国民はもちろん世界に与える影響力の大きさを考えれば、カーター元大統領が提案したような委員会なり、ラスキン下院議員が提案している委員会なりを設けて、今後も、トランプ大統領の精神状態を定期的に評価することが望ましいのではないか。

 最も、ウェイル・コーネル・メディカル・カレッジのリチャード・フリードマン教授がワシントンポストで「人の適性は、テストの結果や専門家の意見ではなく、実世界でその人を観察することで最も正確にわかる。アメリカ人は、トランプの適性を判断するのに必要なすべてのデータをすでに持っている」と話しているように、トランプ氏が大統領としてふさわしいかどうかを最終的に判断するのはアメリカ国民であることに間違いはない。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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