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トランプ氏の名前が初登場した「パナマ文書」 マネーロンダリングが行われた可能性を示唆か?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
パナマにあるモサック・フォンセカ法律事務所(写真:ロイター/アフロ)

 世界の超富裕層がカリブ海のタックスヘイブン(租税回避地)で行った租税回避行為を浮き彫りにした機密文書「パナマ文書」。その内容は、2015年、匿名で「南ドイツ新聞」に漏洩され、ジャーナリストたちによる分析を経て、昨年4月、公開された。公開により、アイスランドのグンロイグソン首相やパキスタンのシャリフ首相が辞任に追い込まれたことは記憶に新しい。

トランプ・パレスの“転売”?

そして、このほど、ピュリッツァー賞受賞ジャーナリスト、ジェイク・バーンスタイン氏の調査により、トランプ氏の名前が「パナマ文書」の中にある1990年代の不動産書類で初めて言及されていることがわかった。

トランプ氏の名前が出て来るブローカー契約書
トランプ氏の名前が出て来るブローカー契約書

Trump’s First Appearance in the Panama Papers

 それは、プロセス・コンサルタンツというパナマの企業が、トランプ氏の会社を、所有していた物件を売却するための独占ブローカーにするという1994年の契約書だ。その物件とは、1991年にプロセス・コンサルタンツが購入した「トランプ・パレス」というマンハッタンにある高層コンドミニアムの1ユニットである。そして同社は、トランプ氏を独占ブローカーにして、3年後の1994年、この物件を35万5千ドルで香港の女性に売却するという“転売”を行っていた。しかも、その香港の女性の名前は、漏洩された他の書類にも出ていたのだ。

マネーロンダリングの可能性?

 プロセス・コンサルタンツは“無記名株”(株券や株主名簿に株主の氏名が記載されていない株)を発行していた謎に包まれた企業だ。“無記名株”は、匿名で資産を譲渡する好手段としてマネーロンダリングに利用されることが多いため、近年では規制されている。しかも、プロセス・コンサルタンツの役員として名を連ねていたのが、パナマ文書で暴露された政治家や著名人の租税回避を助けていたモサック・フォンセカ法律事務所で働く従業員たちだった。

 もっとも、バーンスタイン氏によると、従業員たちは実際に意思決定を行う役員ではなく、名目上の役員に過ぎなかったという。モサック・フォンセカ法律事務所はプロセス・コンサルタンツの意思決定を実際に行っている人物を隠すために、事務所の従業員を名目上の役員にするサービスを行っていたからだ。パナマ文書では、同社の背後にいた人物が誰なのかは明確にされていない。

 バーンスタイン氏の調査を報じたニューヨークデイリーニュースは「無記名株を使っていたからといってプロセス・コンサルタンツが不審なことをしていたという証拠にはならないが、“転売”はマネーロンダリング目的でよく行われる。トランプ氏の会社が、マネーロンダリング目的での転売だと承知の上で、物件を売却していたとしたら、トランプ氏自身も重大なトラブルを抱える可能性がある」と指摘している。

苦境に立たされていたトランプ氏

 プロセス・コンサルタンツがトランプ・パレスの物件を売買した1991年〜1994年というと、トランプ氏が、くしくも、ニューヨークのハドソン川沿いに立ち並ぶ“リバーサイド・サウス”という高層コンドミニアム群の開発プロジェクトで、ビジネス的に苦境に追い込まれていた時期だ。

 80年代半ば、トランプ氏は、同地に、150階建てという世界貿易センタービルよりも高層のビルを含む摩天楼を建設する計画をしていたが、規模の超巨大さと大気汚染に繋がるという理由から、ニューヨーク市民の大反対を買っていた。当時、プロジェクトに反対する地元住民団体に雇われていたのが環境コンサルタントのダン・ガットマン氏だ。ガットマン氏は建築家とともに、トランプ氏が計画していた超巨大なプロジェクトを小規模化させようと計画を練り、トランプ氏の説得に成功した。当時のトランプ氏のビジネス状況について、ガットマン氏はこう話してくれた。

「当時、トランプ氏はアトランティックシティーにあるカジノホテルのプロジェクトが上手く行っていませんでした。“リバーサイド・サウス”のプロジェクトでも、銀行のローンが200ミリオンドルもあったのです。彼はローンの利子さえ払うことができない状況でした。銀行側はプロジェクトが頓挫することを懸念し、プロジェクトを軌道に乗せてほしいと焦っていました。トランプ氏は銀行からプレッシャーを掛けられる一方、地元住民団体からも巨大な開発プロジェクトを進めたら訴訟するとプレッシャーを掛けられていたんです。両者の板挾みになる中、プロジェクトは遅延し、銀行に払わなければならない利子は増えていく一方でした。そんな経済状況だったからでしょう、1991年初め、トランプ氏は、最終的に妥協して、我々が考えた小規模化した計画案を飲んでくれました。トランプ氏は、市から計画の認可を受けた後、銀行への支払いのため、1994年、“リバーサイド・サウス”を香港の企業に売却し、彼自身はマイノリティーオーナーになったのです」

 トランプ氏がビジネス的に苦境に立たされていた時と同じくして起きていた、パマナの“無記名株発行企業”プロセス・コンサルタンツによるトランプ・パレスの“転売劇”。果たしてこれはマネーロンダリングのためだったのか。そして、マネーロンダリングのためだったとしたら、トランプ氏はそのことを知っていたのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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