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フリーランスの6割パワハラ、4割セクハラを経験 相談機関なく泣き寝入りも

飯島裕子ノンフィクションライター
フリーランス当事者三団体が記者会見を行った(2019年9月10日厚生労働省)

「ハラスメント防止法」対象外のフリーランス

フリーランスで働く人たちのハラスメントに対する大規模なアンケート調査がこのほど実施された。1218人の回答者の62%がパワハラ、37%がセクハラを受けたと回答している。調査を実施したのはマスコミや芸能で働く当事者三団体(※)だ。

個人で仕事を請け負うフリーランスは弱い立場に置かれることが多く、パワハラやセクハラの被害に遭いやすいことは想像に難くない。さらにここ数年、雇用によらない働き方や副業を推進する動きもあり、フリーランスで働く人の数は増えている。

しかし2019年5月末に「ハラスメント防止関連法」が成立したが、対象は雇用労働者のみで、フリーランスで働く人は含まれなかった。

フリーランスというとデザイナーやライター、講師、俳優など特殊な仕事をイメージする人がいるかもしれないが、雇用労働者として会社に勤めながら、副業としてフリーランス(非雇用)で働く人が増えている。クラウドソーシングで在宅業務を請け負う人やウーバーのドライバーなども新しいタイプのフリーランスと言えるだろう。しかしこうしたフリーで請け負った仕事中に事故に遭っても、雇用労働者ではないため、労災は適用されず、パワハラ等の問題に遭遇しても相談できる機関はほとんどないのが現状だ。

同調査によれば、ハラスメント内容として「精神的な攻撃等」が59%と最も多く、「過大な要求等」42%、「経済的な嫌がらせ」39%と続く。またストーカー行為やレイプなど深刻な性被害に遭っている人もいた(表1参照)。「経済的な嫌がらせ」39%とは納品した作品や出演作などに難癖をつけ、約束していた報酬を与えないことなどが想定される。フリーランスが特に受けやすいパワハラ行為である。

表1 ハラスメント内容(フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケートより)
表1 ハラスメント内容(フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケートより)

ハラスメント被害の相談状況については、46%が誰にも相談していないと答えている。相談した人(54%)に関しても家族や知人が中心であり、弁護士や医師、相談機関等第三者に相談した人は39%にとどまっている。相談しなかった理由(表2参照)については、「相談しても解決しないと思った」57%、「人間関係や仕事に支障が出る恐れ」54%と続く。狭い業界で噂が広まり仕事を受注できなくなるリスクや企業相手に個人が戦う限界を感じている人も少なくない。

表2 ハラスメント被害を相談しない理由(フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケートより)
表2 ハラスメント被害を相談しない理由(フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケートより)

PTSDに加え、キャリアも信頼も失う理不尽

調査報告の記者会見にハラスメント被害者の一人として登壇した八幡真弓さんはインターネット映像制作者としてフリーランスで働き始めた直後、レイプ被害に遭った。

「打ち合わせと言われて出かけたホテルでのことでした。写真や動画を撮られていたこと、仕事で関わらざるを得ない人だったことからその後も度々被害を受けましたが言い出せず、仕事を投げ出して逃げることしかできませんでした」

八幡さんはPTSDを発症し、1年間心療内科に通院することになる。映像関係の仕事をしていたにもかかわらず、フラッシュバックの恐怖からしばらくはパソコンを開けることすらできなかったという。フリーランスのため、労災保険、雇用保険はもちろん健康保険の傷病手当金は受けられなかった。

「突然仕事を辞めた理由を説明することもできず、これまで築いてきた信頼やキャリアすべてを失ってしまったことが何より悔しかったです」(八幡さん)

同アンケート調査の自由記述欄には、1200人を超える回答者からハラスメント被害の実態が書き込まれている。深刻な記述も多く、読んでいるだけで苦しくなるようなものもある。私も十年以上フリーランスを続けてきたので、思い当たるものもあるのだが、「フリーランスだから仕方がない」とあきらめてきたことに気づく。たとえば、契約書がない、仕事が短期間で打ち切られることがある、制作費の不払いや不当な値下げなど……。問題が可視化されることによって現状を変えるきっかけになるという意味でも調査の意義は大きいと感じる。

脆弱なフリーランスを守る法整備を

調査を実施した当事者三団体は、「どのような就業形態で働いているかにかかわりなく働く人へのハラスメント防止、被害者への救済に対する法整備を行うべき」とする要望書を厚生労働大臣に提出した。

冒頭に書いたように「ハラスメント防止関連法」ではフリーランスは対象とされなかったが、附帯決議として「必要な対策を講じる」としている。また(仕事の)発注者からのセクシャルハラスメント等の防止に関しても労働政策審議会などで議論されているが、フリーランスの職種や業種が幅広く、実態把握が不足していることが課題とされてきた。

記者会見に出席した東洋大学社会学部の村尾祐美子さんは「今回のタイミングで当事者による調査が実施され、要望書が提出された意義は議論を前に進める上で大きい」とする。

「セクハラ防止法やDV防止法に結実したセクハラやDVの調査はいずれも当事者が主導する形で行われました。働く人々がこれまですくいあげられてこなかったハラスメント被害者の声を可視化したことは重要です」(村尾さん)

副業推進も含め、政府は働き方改革の一環として多様な働き方を推進している。世界的にもこの流れが進んでいくことは必死だ。しかしフリーランス(非雇用)の立場は非常に脆弱であり、パート・アルバイトに従事するかたわら、生活のためにフリーランスの仕事をかけもちしている人も少なくない。(詳しくはこちらのyahoo! 記事を参照 副業の実態は「非正規の掛け持ち」)。政府のみならず、フリーランスを仲介しているプラットフォーム企業への働きかけも含め、多様な働き方をする人が泣き寝入りしなくてすむよう、対策を講じていく必要がある。

(※)「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート」は、協同組合日本俳優連合、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、一般社団法人プロフェショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会により実施された。

(※)写真は筆者が撮影した。

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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