拡がる高齢者間格差

 シルバーウイークまっただ中の現在。コロナ禍の影響でひきこもりがちであるものの、年金で豊かな余生を送る高齢者のイメージが強いかもしれない。 

 しかし現実には、高齢者間の経済格差は激しく、生活保護受給世帯の半数以上が高齢者世帯であり、無年金や年金だけで暮らせない人が少なくないことが明らかになっている。65歳以上のおひとりさま女性の貧困率は46.1%(※1)と約2人に1人が貧困である。

 また日本は海外に比べ、高齢者の就労率が突出して高い国であり、65歳~69歳の約半数、70歳~74歳の3人に1人が就労しており(※2)、労働力人口に占める高齢者の割合は年々増加している。2021年4月には「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、企業が高齢者に就労機会を確保しなければならない年齢は65歳から70歳にまで引き上げられた。

 ”生涯現役”を願う人がいる一方、年金収入が低いため、仕事を続けざるを得ない場合もある。特にコロナ禍において重症化リスクが高いにもかかわらず、エッセンシャルワーカーとして働く高齢者の姿を目にすることも少なくない。

コロナ怖くても仕事辞めず

 コロナ禍の影響は、高齢者の状況にさらに暗い影を落としている。

 中高年シングル女性の当事者団体「わくわくシニアシングルズ」は、コロナ禍以前は少なくとも月に一度集まり、食事をするなどの交流を重ねてきた。しかしコロナ禍以降、会うことができなくなった。オンライン(Zoom)をつかったおしゃべり会をはじめるようになったが、パソコンやWi-Fi環境がなく、参加できない人もいる。

「お互いに孤立しないよう、メーリングリストで生活情報や近況を分かち合うなどの活動を続けていますが、コロナ禍が長引く中、体調を崩す人も増え、心配な状況が続いています」と同代表の大矢さよ子さん(71歳)は話す。

 特に高齢者はコロナ禍が長引く中、ひきこもりがちな生活が続くことで、健康や認知機能の衰えなど、さまざまな問題が現れてくる人も少なくない。

「私は家にいることが苦にならないタイプですが、友だちと出かけるのが好きな人、外で活発に活動してきた人ほど、ステイホームによるダメージが大きいと感じています」(大矢さん)

 わくわくシニアシングルズが2016年に実施した調査では、高齢単身女性の年金受給額は月額10万円未満が5割を占め、半数以上が働いており、その大半が非正規雇用であることが明らかになっている(※3)。

 高齢おひとりさまと一口にいっても、雇用状況や家族構成によって年金受給額は異なる。厚生年金受給額は現役時代の賃金に比例する。老齢厚生年金の月平均受給額は、男性17万1305円、女性10万8813円(※4)であり、男女間の賃金格差が老後も引き継がれる形だ。

「コロナ禍で仕事が減ったという話は聞きますが、コロナが怖いから仕事を辞めたという話は聞いたことがありません。将来を考え、体が動くうちは少しでも稼がなければと考えるのは自然なことでしょう」

 現役時代の”格差”が老後生活にもまた暗い影を落としている。

コロナ禍で届きにくい高齢者の声

 特にコロナ禍に入ってから高齢者は苦境に立たされている。病院や介護施設ではクラスターが発生するという理由で家族に会えなかったり、一人暮らしの人は以前以上に孤立しがちだ。元気に出歩いていた人も家にひきこもりがちになり、その声を聞くことは難しくなっている。

 Zoomなどを使いこなす高齢者もいるものの、ワクチン接種予約などの必要性からスマフォを持ったという人のほうが圧倒的だろう。一方、この1年ほどでスーパーのレジは自動化され、外出するにもネットによる事前予約が必要などオンライン環境がない、教えてくれる人が側にいない高齢者の生活の質は著しく下がっている。

 かつて人数が多く、投票率が高い高齢者の意見が優先されがちな世の中は、”シルバーデモクラシー”などと揶揄された。しかしSNSで個人が意見を述べ、ツイッターデモなど世の中を変える動きがある中、その手段をもたない高齢者の意見は届きづらくなっていると感じる。

 社会保障の面でまだ恵まれていると言われる高齢世代がこのような状況だ。現役世代が高齢になった時、一体どうなっているのか思いやられる。「長生きなどしたくない」と思う人が一人でも減るような社会であるように。コロナ禍で埋もれがちな高齢者の声を、シルバーウイークに限らず、聞き、届ける続ける必要があるだろう。

参考:『ルポコロナ禍で追いつめられる女性たち』(光文社新書)

※1 阿部彩(2021)「日本の相対的貧困率の動向:2019年国民生活基礎調査を用いて」科学研究費 助成事業(科学研究費補助金)(基盤研究(B))「貧困学」のフロンティアを構築する研究」報告書

※2 2016年「高齢社会白書」(全体版)

※3 50歳以上の単身女性530人(うち年金受給者は145人)に対する調査

※4 令和元年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」