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副業の実態は「非正規の掛け持ち」

飯島裕子ノンフィクションライター
(写真:アフロ)

副業している人の7割は年収299万円未満

 連休中、副業に精を出したという人もいるのではないか。

 政府による副業支援が打ち出され、副業許可を解禁する企業も増え始めている。パラレルキャリアやプロボノなど、自身の可能性や創造性を高める働き方に注目が集まる昨今。副業している人の数は増加傾向にある。しかし実際には、生活のためにやむを得ず複数の仕事をかけもちしているという人が大半ではないだろうか?

 厚生労働省がまとめた資料によれば、副業している人の7割が年収299万円未満である。

所得階層別による副業している人の年収。出典:厚生労働省労働基準局「副業・兼業の現状」
所得階層別による副業している人の年収。出典:厚生労働省労働基準局「副業・兼業の現状」
年収200万円未満が7割近くを占める。出典:厚生労働省労働基準局「副業・兼業の現状」
年収200万円未満が7割近くを占める。出典:厚生労働省労働基準局「副業・兼業の現状」

 副業する理由としては、「十分な収入を得たい」が44%と最も多く、「スキルアップ、資格の活用」は13%にとどまる。

 副業と一口に言っても2ヶ所以上で雇われる<雇用×雇用>、雇用と自営/フリーランス的な仕事をかけもちする<雇用×非雇用>、自営/フリーランスとして複数の仕事をかけもちする<非雇用×非雇用>などさまざまだ。中でもこの15年間で31万人から58万人にまで増加しているのが、<パート/アルバイト×パート/アルバイト>、すなわち非正規の仕事を複数かけもちする形での “副業” なのである。

副業する理由は「生活できないから」

 はたらく女性たちからの電話相談を実施している「はたらく女性の全国センター」(ACW2)では複数の仕事をかけもちする女性たちからの相談が相次いでいるという。

「パートをかけもちしているので会社の保険に入れない、仕事を一つに絞りたいが、短時間シフトばかりでかけもちせざるを得ない、フリーランスで働いてきたが収入が激減し困窮している……。仕事を複数かけもちしなければ生活が成り立たないという声ばかり。副業やフリーランスなど、柔軟な働き方がもてはやされているけれど、私たちの現実とはだいぶかけ離れていると感じます」と話すのは「はたらく女性の全国センター」共同代表の伊藤みどりさん。

 現在、同センターでは、副業・兼業の実態を知ろうと働く女性を対象とした「仕事のかけもちアンケート」を実施している(現時点で52人が回答)。中間段階だが、その一部を紹介する。

 副業をする主な理由については「生活できないから」が48%と最多。次いで「貯金と老後資金のため」17%と続く。育児や介護などで時間に制約があり、一ヶ所で長時間働けないためと答えた人もいた。

はたらく女性の全国センター「仕事のかけもちアンケート」中間集計より
はたらく女性の全国センター「仕事のかけもちアンケート」中間集計より

 週あたりの労働時間は週40時間以上が42%と半数近くに及ぶ。しかし比較的労働時間が長いにもかかわらず、年収は200万円未満が53%、200ー300万円未満が22%と低水準だ。

はたらく女性の全国センター「仕事のかけもちアンケート」中間集計より
はたらく女性の全国センター「仕事のかけもちアンケート」中間集計より

 第三号被保険者は15%にとどまることから、家計支持者も多く含まれることが考えられるが、半数以上が年収200万円未満であり、生活が苦しいことがうかがえる。

 以下で寄せられた声を一部紹介したい。

副業している女性たちの声

※パート(介護)をかけもち 25-34歳

賃金水準が低く、週50時間近く働くことがあっても、年収200万円にも満たない。複数の事業所で働いているので会社の社会保険に加入できず、自分で国民年金、国民健康保険を払わないといけないため、余計に負担が重くなっている。

※正社員×派遣(コールセンター)45-54歳

平日仕事終わりに3時間と週末、コールセンターで働いている。奨学金返済と家賃を払うのために始めた。奨学金は返済できたが、今後給料が上がる見込みはなく、年金も当てにならない。シングルなので老後少しでも安心できるよう、体力が続く限り、副業は続けていくつもりだ。

※年金×派遣(事務)×アルバイト(非営利団体)65-74歳

シングルマザーとして子供を育てながら非正規で20年以上働き、保険料を払い続けたが、現在受け取れる年金だけでは生活が厳しい。派遣で働きながら空き時間にアルバイトもしている。今後もできる限り働き続けたい。

※非常勤(専門学校講師)×パート(介護)55-64歳

訪問介護のヘルパーとして長年働いてきた。一日に複数の利用者宅を訪問するのだが、突然のキャンセルがあったり、移動時間や待機時間は給与が支払われないため、収入が不安定。それゆえ複数の事業所に登録して働かなければならないのが現状だ。

※アルバイト(マッサージ師)×フリーランス(通訳・翻訳)35-44歳

正社員として外資系企業で働いた経験もあるが、ストレスが多く退職。いろいろな仕事を少しずつやるほうが性に合っていると感じている。アパートをシェアするなど支出を抑えているので150万円程度で生活できるが、将来に不安がないというわけではない。

※非常勤(塾講師)をかけもち 35-44歳

一ヶ所では生活がなりたたず、複数の学校で教えている。授業が多い月と少ない月があり、収入が不安定。雇い止めの不安があるため、常に次の仕事を探しているような状態。未来がみえない状況の中、学生のことや授業内容に集中することがしんどいと感じ、自己嫌悪に陥ることがある。

※フリーランス(ライター)×パート(宿泊業)45−54歳

子育て中のため、時間的制約があり、一ヶ所で長時間働けないため、ダブルワークで時間を調整しながら働いている。しかし非正規なので賃金は安く、思ったように収入が得られず、家庭と仕事の両立で疲弊してしまうことがある。

「本業」なき「副業」のかけもち

 「本業」の収入が低いため、「副業」で補わなくては生活していかれない人たち。そもそも「本業」と呼べるような安定した仕事をもっていない=「本業」なき「副業」のかけもち=をしている人が多いことも明らかになった。

 さらに今回のアンケートでは、大学等の非常勤講師、校正者、翻訳者、ライター、NPO職員など、専門的な仕事に就いている人も多く見受けられた。しかし専門性や技術力に対する対価が低く、それだけでは生活できない状況にある。一部には「体力に自信がない」「一ヶ所で長時間働くとストレス過多になる」と短時間の仕事をかけもちしている人もいた。副業やかけもちそのものが悪いとは言い切れないが、一つの仕事だけでは満足な賃金が得られず、副業せざるを得ない現状は問題である。

 また複数の仕事のかけもちしているため、会社の社会保険に入れないなど、社会保障制度の谷間に落ちてしまうケースも少なくない。労働時間も自己管理しなければならず、長時間労働のリスクもおのずと高くなる。

 政府は副業、兼業をはじめとする柔軟な働き方を推し進める前に、仕事をかけもちせざるを得ない女性たちの現実にもしっかり目を向けてもらいたい。

はたらく女性の全国センターでは、毎月0と5がつく日(5,1015,20,25,30日)に無料の電話相談(0120-787-956)を行っている。
はたらく女性の全国センターでは、毎月0と5がつく日(5,1015,20,25,30日)に無料の電話相談(0120-787-956)を行っている。

☆「はたらく女性の全国センター」では引き続き「仕事のかけもちアンケート」を実施している。

こちらから簡単にアンケートに答えることができる。詳しくは、「はたらく女性の全国センター」 まで。

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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