中高生女子に支持され続けるボカロ小説 HoneyWorks『告白予行練習』シリーズの魅力とは

HoneyWorks公式サイトトップページより

 クリエイターユニットHoneyWorks(通称「ハニワ」)3年ぶりのアルバム『好きすぎてやばい。』が2020年1月15日にリリースされた。ハニワの楽曲は小説にもなっており、音楽同様、中高生女子に熱い支持を受けている。その理由とは?

■『告白予行練習』シリーズはどのくらい人気なのか?

 HoneyWorksの楽曲を原作とし、角川ビーンズ文庫から刊行されている小説シリーズ『告白予行練習』は、学校読書調査(毎日新聞社・全国学校図書館協議会が毎年実施)の2019年版「5月1か月に読んだ本ランキング」の中1~高1までの各学年の女子部門にランクインしている。

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 また、トーハンが毎年発表している朝の読書でよく読まれている本の中学生文庫部門(2019年5月発表)にも同シリーズは入っている。

トーハンのニュースリリース「「2018年度『朝の読書』で読まれた本」を発表」より
トーハンのニュースリリース「「2018年度『朝の読書』で読まれた本」を発表」より

 このシリーズはHoneyWorksの「ヤキモチの答え」「金曜日のおはよう」「初恋の絵本」などの楽曲のMVで描かれている中高生男女を主人公に、毎巻1組の男女の関係性にフォーカスをし、ふたりが勘違いやすれちがい、逡巡や葛藤を経ながら恋愛を成就させていくまでを描く学園青春小説である。

 男女の恋愛がメインではあるものの、映画研究会や美術部など部活にも打ち込んでいる彼/彼女たちが進路に悩んだり、同調圧力から女友だちをハブることに加担してしまったことを後悔したりと、学校内のさまざまな人間関係の悲喜こもごもも重要な要素になっている。

 HoneyWorksのように、VOCALOIDを使った楽曲を原作とする小説はボカロ小説と呼ばれ、悪ノP(mothy)『悪ノ娘 黄のクロアチュール』を嚆矢とし、2010年代前半に流行した。

(HoneyWorksの曲はいわゆる「歌い手」や声優が歌うことも多く、厳密にいえばこのシリーズを「ボカロ小説」と呼ぶべきかは微妙なところだが、ボーカロイドブームのなかで注目された存在であることは間違いないため、ここではボカロ小説として扱う)

 しかしボカロ小説でいまだ強い人気があると言えるのは、じんの『カゲロウデイズ』とHoneyWorksが展開するメディアミックスプロジェクト「告白実行委員会~恋愛シリーズ~」の小説『告白予行練習』の2シリーズだけだ。

 なぜHoneyWorks作品はボカロ小説ブームが落ち着いてしまったあとも読まれ続けているのか?

■そもそもボカロ小説とは?

 ボカロ小説と言っても、2種類ある。

 ひとつはクリプトン・フューチャーメディアの「初音ミク」などのボーカロイドキャラクターの二次創作としてのボカロ小説だ。登場人物にミクや鏡音リン・レンなどが登場するものである。

 もうひとつはボカロP(ボカロを使った楽曲の制作者)が考案したオリジナルキャラクターが登場する小説である。

 前者はクリプトンがこのタイプのボカロ小説のアニメ化に消極的だったために、『悪ノ娘』『千本桜』をはじめヒット小説シリーズがあったにもかかわらず、「映像化の勢いでさらに原作を売る」という日本の小説ビジネスの勝ちパターンに乗ることができなかった。

 後者は映像化に際してクリプトンなどボカロメーカーの許諾がいらない。そのためじんのカゲロウプロジェクト、LastNote.『ミカグラ学園組曲』がアニメ化された……のだが、どちらも残念ながら作品の出来が原作ファンやアニメファンを満足させるものにならず、DVDの売上が芳しくなかった。結果、業界的に「ボカロ原作のアニメは売れない」という空気になり後続の映像化作品が生まれにくくなってしまい、やはり小説の勢いも失速していった。

 もっとも、ボカロ曲自体はネット文化のひとつとして、ブームは終わったものの一ジャンルとして完全に定着した。ネット上で主に楽曲を発表する歌い手人気は衰えることなく(トップクラスは武道館やドームを埋める動員力を誇る)、歌い手に対する楽曲提供やボカロPのシンガーソングライター化などが進んだが、いずれにしてもYouTube上などで新曲が日々発表されている。

 ボカロ小説ブームが落ち着いて以降にも、ボカロ関連のヒット出版物としてKADOKAWAの『「カゲロウデイズ」で中学英単語が面白いほど覚えられる本』や学研プラスの『ボカロで覚える中学歴史』などの学習参考書が生まれている。

 ただ、いずれにしてもボカロ小説として今もシリーズが継続し、アニメが劇場版2作、TVアニメ2作も作られたのはハニワが唯一だ。

■ハニワをボカロ小説として生き残らせた「分業制」と少女マンガ的MVとの連動

 ハニワの『告白予行練習』シリーズはなぜ例外的な成功を今も続けられているのか?

 ひとつめの理由は、ハニワが最初から分業を前提としたチームだったからだ。

 このグループはGomとShitoという楽曲制作を手がける男性2人がMV制作のためにイラスト、ムービー担当としてヤマコに声をかけたことに始まり、曲・プロジェクトごとに参加してもらう複数のサポートメンバーがいる。

 小説執筆は角川ビーンズ文庫が用意した藤谷燈子や香坂茉里といったプロの作家が行い、ハニワは直接筆を執っていない。

 ボカロ小説は、Pが自ら小説執筆するとそちらに時間が取られて楽曲制作が滞る(逆もしかり)。しかしP以外の小説家に自由に書かせると楽曲の世界観から離れやすいという問題があった。

 ハニワは、ヤマコとMVを制作を始めた時点からGomとShitoが「プロデューサー」として統括するスタイルで活動していたため、小説もコントロールが利いた形での分業が成功し、小説・楽曲ともにコンスタントなリリースを実現している。

 なおハニワ初のボカロ小説は鏡音リン・レンが登場する『スキキライ』である。ここで「学園恋愛ものはいける」と踏んだのだろう、オリジナルキャラによる恋愛群像撃『告白予行練習』に移行。これで唯一無二の存在になった。

『告白予行練習』成功のふたつめの理由は、中高生向け少女マンガ風の世界観のMVと小説の連動だ。

 世に「少女マンガから出てきたような」と形容される存在は多いが、ハニワのようなスタイルで活動する存在は他には目立って見当たらない。

 女子が好きな振る舞いの演出に長けた男性アイドル、あるいは十代女子の心情に寄り添う女性アイドルやシンガーはいても、ハニワのように男女両方が登場人物になって(=歌い手になって)学園恋愛ものの世界観を表現する楽曲&MVを展開するグループは、少なくともメジャーシーンでは皆無である。

 これは複数のVOCALOIDを用いてシリーズで物語的な楽曲を展開していくのが当然(歌に使うボカロをキャラごとに変えるため、男女両方が登場することが多い)のボカロシーンからでなければ生まれてこなかった発想だろう。

 また、元がボカロ曲でも人間の歌い手によるカバーが行われるのが当然の文化圏出身だったからこそ、男女両方の(人間の)歌手や声優が歌っても違和感がないという流れを形成できたのだと思われる。

『COUNTDOWNTV』や『ミュージックステーション』の出演者たちとハニワを比較してもらえば、あるいは少女マンガ原作のアニメや実写映画の主題歌を担当するアーティストに他にハニワのようなスタイルの存在がいるか? を考えてもらえれば、ハニワの「少女マンガ的な学園恋愛ものの世界観のMVをウリにする男女混声のプロジェクト」がいかに稀有で、しかし女子中高生のニーズを的確に突いていたかがわかるはずだ。