麺と生卵で1000円の超人気ラーメン店が突然の閉店… コロナ禍での“計画的サヨナラ”の意味とは?
大阪は阪急電鉄・神崎川駅から徒歩12分。大阪でトップレベルの人気を誇る行列店がある。「桐麺 本店」だ。
2014年12月にオープンし、「食べログ百名店」にも毎年選ばれる人気店。日本最大級のラーメン専門クチコミサイト「ラーメンデータベース」では2022年上期の大阪府総合1位に輝いた。
本店のほかに、十三には「中華そば 桐麺」を支店展開し、本店の並びにある「桐ちゃん製麺」では店頭販売や通販を行っている。
この2月にはファミリーマートからカップラーメン「ファミマル 桐麺 濃厚鶏白湯しょうゆ」が新発売。早くも人気となっている。まさに大阪で最前線を走る人気店といっていいだろう。
この人気絶頂の「桐麺」のTwitterに1月22日、驚きの投稿があった。
お知らせです。
「桐麺本店」「中華そば桐麺」「桐ちゃん製麺」今ある桐麺3店舗 2023年7月末に閉店します。
桐家は兵庫県加西市に引っ越し、夢のラーメン屋付き住居で自分のラーメンの究極を追う「RamenDream 桐麺」として家族で出発します。
7月末まで大阪桐麺がんばります!
麺 for all All for 麺
コロナも落ち着いてきて、これからさらに店を伸ばしていこうと思われたこの時期に突然の閉店発表。ファンからは驚きの声がやまない。店主の桐谷尚幸さんに話を聞いた。
麺と生卵だけで1000円「冷やし桐玉」が大ヒット
桐谷さんは大阪・福島の行列店「ラーメン人生 JET」の出身。「魁力屋」で1年の修行の後、「JET」で4年半修業し、2014年12月に独立した。
数々の人気メニューを生み出してきた「桐麺」だが、昨年には創業以来一番人気のメニューが完成した。茹でた麺の上にタレをかけ、卵を乗せた「釜玉桐麺」という人気メニューがあり、その冷やしバージョンである「冷やし桐玉」が大ヒットした。
昨年のゴールデンウィーク頃、あまりの暑さに冷やしバージョンを作ってみたところ、有名TikToker・ごうさんの投稿でバズり一気に火が点いた。一時は一日に200杯出るうちの100杯が「冷やし桐玉」だった。
麺と生卵だけで1000円という価格には驚きだが、それだけ「桐麺」の自家製麺が美味しいということを証明している。
「桐ちゃん製麺」ではUberや通販をスタート。その麺の美味しさが口コミで全国に広がり、全国47都道府県から注文が殺到した。コロナを乗り切り、桐麺グループは売上も過去最高を記録した。
「コロナ禍で何があってもどうにか生き残る術を学ぶことができました。Uberや通販にも積極的に取り組み、ラーメン店主としてはとても勉強になった期間です。
一方、輸入小麦はいつなくなるかわかりません。今後は国産小麦の取り合いになるでしょう。その中で、自分の作るラーメンは誰に向けて作るのか、そう考えたときにまずは目の前のお客さんを大事にすることだと改めて思ったんです」(桐谷さん)
“計画的サヨナラ”の意味とは
社員が育ってお店がしっかり回るようになった頃、桐谷さんの仕事はラーメン職人からマネージャー業に代わっていった。年商は1億円を突破したが、長年職人として生きてきた桐谷さんはなにか虚しさを感じていた。
弟子たちは独立を志願しているが、なかなか代わりの働き手は見つからない。そんな悩みもある中、桐谷さんは全店舗を7月末で閉店することに決めた。“計画的サヨナラ”である。
「もともと、賞を獲っていつかは東京で勝負したいと思って長年頑張ってきました。ラーメン屋になるからには東京で認められてこそと思っていたんです。しかし、コロナ禍で賞を獲ることよりも、目の前のお客さんを大事にしたいと考えるようになったんです。考え方がシフトし、店を広げるよりも自分で厨房に立ち続けたいと思うようになりました。
私のDNAは弟子たちに受け継ぎ、私はラーメン店主としての第3章に入っていきたいと思っています」(桐谷さん)
コロナ禍で自分の足元を見つめた時、自分の大事にしたいものは何だろうと考えた桐谷さん。そう考えて、桐谷さんは「家族」と「ラーメン」を大事にする人生を選ぶことにした。
7月末までの準備期間で3人の弟子たちを独立させ、今年秋には兵庫県加西市でお店を開く予定にしている。
「田舎に行って妻と二人でお店をやりたいというのが昔からの夢でした。家の隣が店舗になっている家族経営のお店です。
兵庫県加西市に200坪の土地を買い、今年の9月から10月のオープンを目指して準備していこうと思っています。縁もゆかりもない場所ではありますが、ここでお店をやっている絵が頭に浮かんできて、家族を説得して決めました」(桐谷さん)
閉店のニュースを聞いた常連客が毎日のようにお店に集まっている。すぐに閉店をせず7月末としたのは、3人の弟子の独立の準備と、常連客に来てもらえる機会を少しでも長くするための桐谷さんの想いである。
桐麺 本店
大阪府大阪市淀川区三津屋北3丁目1−15
※写真はすべて筆者による撮影