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熱海土石流の悲惨な動画… 被災した老舗製麺所の復興は娘たちの行動から始まった

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン
土石流が直撃したコマツ屋製麵所

「助けて、どうしていいかわかんない」

文面にこう書かれたTwitterの投稿には、町が土石流で流されるあまりにも悲惨な動画が添付されていた。

2021年7月3日に発生した熱海市伊豆山の土石流。その衝撃的な威力を映したこの動画を見た人も多いのではないだろうか。

実はこの動画を撮影していたのは、熱海市にある「コマツ屋製麺所」という製麺所の社長・中島秀人さんの次女・中島茉子さん。動画にあるとおり土石流がまさに直撃し、奇跡的に家族全員の命は助かったものの、工場の入口や壁が土砂で押し壊され、製麺機や大型冷蔵庫なども損壊してしまったという。麺を配達する車も流され、道路も寸断されていることから、移動すら厳しい状態だという。

土石流が工場の中を埋め尽くしている
土石流が工場の中を埋め尽くしている

コマツ屋製麺所は、熱海市内のラーメン屋を中心に麺を卸している製麺所だ。工場を立ち上げてからは80年以上の歴史があり、現在の社長・秀人さんで三代目となる。

熱海のラーメン店の40~50軒の麺はコマツ屋製麵所で作っていて、「わんたん屋」「雨風本舗」など人気店の麺も長年作っている。まさに熱海の町とともに歩んできた製麺所である。今、どういう状況になっているのか、筆者はコマツ屋製麵所の中島茉子さんにメールで話を聞いた。

「お客様先が非常に心配してくださっていたので、無事であること、必ず復興すること、また、麺が供給できない間は、代わりに東京の丸山製麺さんに麺を頼めることになったので今まで通りお願いしますという旨を伝えて回りました」(茉子さん)

工場は完全にストップしてしまったが、地域のラーメン店までストップするわけにはいかない。復興のめどが立たない現状、コマツ屋製麺所の卸先については、社長の秀人さんが25年前に修業していた東京の丸山製麺が代わりに麺を製造して提供しているという。

伝票なども全く使えない状態だったので、LINEを交換して麺の数を確認するなどしていた。

完全に倒壊してしまい、復帰の目途は立っていない
完全に倒壊してしまい、復帰の目途は立っていない

生まれ育った場所の甚大な被害にしばらく絶望していたが、茉子さんの姉である真唯さんがクラウドファンディングの立ち上げを提案する。

「姉はもう結婚し、都内に暮らしているんですが、そんな中で、何かできることはないか?と考え始めました。

この度の土石流災害により、コマツ屋製麺所だけでなく、熱海市伊豆山地域で壊滅的な被害が発生しました。今なお避難生活を余儀なくされている方もたくさんいます。

家が流され、亡くなられた方や行方不明の方もいる中で、「当社だけがクラウドファンディングで資金を集めても良いものか…」と不安な気持ちもありましたが、伊豆山地域に暮らしていた人たちにとって一筋の復興の光になれたら、と思い、本プロジェクトの公開に踏み切りました」(茉子さん)

災害に負けて工場を閉めることは絶対にしたくない。そして、両親のためにできることをしたい。

コマツ屋製麵所のクラウドファンディングは、自家発電機の購入設置にかかる「300万円」を目標にスタートしたが、7月26日現在600万円を超え、ネクストゴールを800万円に設定し、工場の再建に向けて動いている。

「土砂で家が流されてしまい、もう伊豆山地区に住まないという方もいらっしゃいます。

コマツ屋製麺所が復興し、みんなを勇気づけられるシンボルになり、そして災害に負けないということを身をもって伝えたいと思います。一緒に被災した方たちの光になりたいです」(茉子さん)

復興までの道はまだ長いが、クラウドファンディングが一つの光となり、熱海の明日を照らしている。

※写真はコマツ屋製麵所提供

ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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