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なぜスウェーデンは世界SDGs達成度ランキングで毎年トップ3に入るのか?現地取材レポート

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
スウェーデン・ゴットランド島のホテルの朝食(筆者撮影)

*本記事は、2020年3月2日に配信した『世界SDGs達成度ランキング1位 スウェーデンの取り組みとは?現地レポート:SDGs世界レポ(7)』の連載が終わり、記事の掲載が終了するにあたって、当時の内容に追記して編集したものです。

SDGs世界達成度ランキングで1位(2018年)のスウェーデン。2022年には1位のフィンランド、2位のデンマークに次いで3位だった(1)が、トップとの差はわずか1.32点だ。義務教育で、環境・社会・経済というSDGsの3要素についてしっかり学んでいる。その考え方や背景を知るため、スウェーデンの現地を取材した。

世界のSDGs達成度ランキング1位のスウェーデン

国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)とドイツのベルテルスマン財団が毎年発表している、世界のSDGs達成度ランキング。スウェーデンは、2019年には2位だったが、そのスコア(SDGs Index)の1位のデンマークとの差はわずか0.2だった(2)。2018年には1位を獲得しており、それ以前にも何度も1位を獲得している。

スウェーデンの中でも南部にあるマルメ市は、2020年までに市営組織で使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーに換える目標を立て、2021年末に達成し、先進的な街として注目されている(3)。2019年、女性誌『FRaU』(フラウ)で「食の意識が高い街、マルメ」として紹介された。

マルメ市の出身、株式会社ワンプラネット・カフェ取締役のペオ・エクベリさんに、マルメ市を案内してもらいながら、スウェーデンのSDGsの考え方や背景について教えていただいた。

スウェーデン・マルメ市の街並み(筆者撮影)
スウェーデン・マルメ市の街並み(筆者撮影)

スウェーデンでは「環境に優しい」じゃなく「環境に正しい」

ペオ・エクベリさん(以下、ペオ):今日、うれしいのは、Rumi さん(筆者)がつけているSDGsバッジは(間伐材で作られているので)環境循環型バッジです。

間伐材で作ったSDGsバッジ(筆者撮影)
間伐材で作ったSDGsバッジ(筆者撮影)

地下資源(石油)からできた、金属のSDGsバッジもあるじゃないですか。それだと環境循環の輪に入らないので、本来は、地上のもの(資源)で作るのが正しいんです。

スウェーデン人がよく言うのは、「環境に優しい」というより「環境に正しい」。

株式会社ワンプラネット・カフェ取締役のペオ・エクベリさん(筆者撮影)
株式会社ワンプラネット・カフェ取締役のペオ・エクベリさん(筆者撮影)

ペオ:環境ラベルは第三者が監査します。たとえば、このノート。紙は何回までリサイクルできるかご存じですか?

―知らないです。

ペオ:もうこれ以上リサイクルできない、というところまでは7回。

―7回ですか。

ペオ: 5回から7回。その後、繊維がボロボロになったら終わりで、もうリサイクルできない(4)。でも自然素材でできているから、動植物と同じように土に戻ります。

ペオ:ノートの紙を作るために1本の木を伐採したら、そのあとでちゃんと(採った分を補うために)1本の木を植林したかどうか。環境循環型の物かどうか。自然・健康・経済のバランスが取れているかどうか。100以上の基準をチェックして、認証されて、初めてエコマークがつけられます。今日、これから乗る電車にはタカ(鷹)の認証マークがついています。

認証マークの共通点は「分かりやすい」「選びやすい」。3秒で分かる。第三者が決めているから信頼性がある。サスティナビリティの3つの柱である

people(人)

planet(地球)

profit(利益)

に向けた基準に従っているということです。

基本は環境循環。エネルギーを採るのは(石油のような)地下(から)ではなくて、(再生可能エネルギーのような)地上(から)です。

スウェーデンのセブン-イレブンは環境対策が非常に進んでいる

―デンマークで聞いてきた話では、デンマーク国内のあちこちにセブン-イレブンがあって、Too Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)(5)にセブン-イレブンは寄付をしています。何を寄付しているの?と聞いたら、サンドイッチやお菓子など、いろいろ。日本のセブン-イレブンとは全く違っていて。ここスウェーデンではどうですか?

スウェーデンのセブン-イレブン(筆者撮影)
スウェーデンのセブン-イレブン(筆者撮影)

ペオ:(日本とは)全然違います。セブン-イレブンが寄付しているかどうかは分からないですけど、お店のエネルギーをグリーンエネルギー(再生可能エネルギー)で賄うセブン-イレブンもありますし、売っているバナナは、生産者に負荷をかけていないという認証マークがついています。

スウェーデンのセブン-イレブンで販売されている、認証マークのついたバナナ(筆者撮影)
スウェーデンのセブン-イレブンで販売されている、認証マークのついたバナナ(筆者撮影)

今広がっている、ベジタリアン向けの食品も扱っています。

スウェーデンのセブン-イレブンに売っていた、ベジタリアン向けの製品(筆者撮影)
スウェーデンのセブン-イレブンに売っていた、ベジタリアン向けの製品(筆者撮影)

今いるこのホテルは、スウェーデン最大のホテルチェーンです。

ペオさんとの取材に使ったホテルのロビー(筆者撮影)
ペオさんとの取材に使ったホテルのロビー(筆者撮影)

ペオ:このホテルでは、ミートフリーランチ(肉なしランチ)を出しています。今こちらでは、肉を食べるのは、環境のために少し恥ずかしいことです。コンビニで売っているフェアトレードのジュースにプラスチックのストローはついていません。これは、風力エネルギーで作ったチーズのサンドイッチ。包装なしとか量り売りとか(スウェーデンのセブン-イレブンは)いろいろやっています。本当にすごいですよ、(日本とは)全然違う。スーパーで扱う容器の7割以上はリサイクルされた素材でできているし、いろんな意味で進んでいるスウェーデンの背景を、今回の取材で見せたいです。

「SDGsは、やるのが当然。議論の余地はない」

ペオ:たとえば、「サスティナビリティ(持続可能)」を家にたとえてみます。

家を建てるとき、屋根と基礎が強いことが大事です。SDGs、サスティナビリティの場合、基礎は自然のルール。スウェーデンではこの基礎を「原理原則」「環境循環」と呼びます。これは、ホテルの掃除係から企業の社長まで、スウェーデンの義務教育で全員学んでいます。政府も自治体でも導入し、20年前から教育されています。義務教育ですよ。イケア(IKEA)でも、エレクトロラックスでも、この原理原則を理解しています(6)(7)。

ペオ:日本では、残念ながらこの(環境)教育がないので、SDGsに対して迷いがあるんです。こんな部屋はきれいだな、とか、壁紙はピンク?床は緑?色をどうしましょうか、とか。

ー要するに、日本では、本質的なものではなく、些末なところに気を取られているということですね。

ペオ:ビジョンは、家で言うと屋根に当たります。SDGsは(やるべきかやらないべきかを)議論する余地はもうありません。なぜかというと、全人類が協定しましたから(筆者注:2015年9月の国連サミットで採択されたことを指す)。

SDGsは、47年前から創り出して世界で合意した最終的ビジョンなので、今、また議論が始まると、47年間の歴史を塗り替えないとならない。それはもったいない。このルールは自然規律に基づくものなので、もう議論の余地はない。

日本の文化とスウェーデンの文化は違うし、考え方や宗教も違います。でも、サステナィビリティとビジョンは、世界共通で変わりません。

森林伐採。もう追い付かないほど速いスピードで進んでいます。ごみには、目に見えるごみと目に見えないごみ、2種類しかありません。でも化学物質は今、10万種類以上あります。目に見えるごみは、プラスチックなど。マイクロプラスチックは分解されると目に見えないごみになります。最新のレポートによると、100万種類の動植物が絶滅の危機に向かっています(8)。

地球温暖化の問題はもちろんです。この100年間で、平均温度が1ぐらい上がったのではないでしょうか。それが1.5を超えれば、もう大惨事になると言われているので、非常に危険な時代です。1.5を抑えるためには残りあと12年しかありません。2030年までに50パーセントCO2を減らさないといけない(筆者注:2023年3月20日に発表されたIPCCの第6次報告書によれば、あと60%減らさなければならなくなった)。世界全体で、気温の上昇1.5を超えないように。

―50%・・・。

ペオ:本当に急がないといけない。今、スウェーデンでは社会問題になっているので、どんな新聞でもどんなテレビ番組でもこの問題が取り上げられているんです。

でも、日本では、気候変動の問題は、ほとんど取り上げられていない。まだ本当かどうか議論があるけれども、スウェーデンはそれに加えて、今「気候うつ病」という病気があって、2人のうちの1人が、かなり落ち込んでいるんです。もう、対策のしようがないのではないか、どうすればいいか分からない。子どもから大人まで。英語では、これをclimate anxiousness(気候うつ病)と呼びます。みんな危機感を感じています。

さっきの生ごみで走るバスはCO2がほぼゼロだし(9)、クリーンエネルギーの風力はもちろんCO2はゼロ、どんどん今切り替えています。

スウェーデン・マルメ市内を走るバス。生ごみを使い、100%グリーンエネルギーで賄われている(筆者撮影)
スウェーデン・マルメ市内を走るバス。生ごみを使い、100%グリーンエネルギーで賄われている(筆者撮影)

ペオ:世界中の人間から出ている温室効果ガス。全ての温室効果ガスの何パーセントが食品ロス由来? 8%です。世界の全ての温室効果ガスの8%は食品ロスです(10)(筆者注:8-10%)。それと食品のごみ(廃棄物)。これは、かなり大きなことです。ですから、Rumiさんが今回まとめたい食品ロスについての記事は、すごく大事です。

貧困の問題も、もちろんあります。貧困の問題の原因の一つは、働いた分に見合う給料がもらえないこと。ちゃんと給料を払って、児童労働なしで、子どもはちゃんと学校へ行かせるというのがフェアトレード。貧困と環境問題を同時に解決するビジネスがフェアトレードということです。マルメ市は、スウェーデン初のフェアトレード・タウンになりました(11)。もう10年以上も前から。今、スウェーデン全国に「フェアトレード・タウン」は60カ所以上あります。日本では4カ所しかないんですよね。

―4カ所しかないんですね。

ペオ:フェアトレード・タウン。熊本、逗子、名古屋かな。今度、札幌がフェアトレード・タウンになります(12)(筆者注:ほか、浜松、三重県いなべ市)。

フェアトレードタウンが運営する病院や学校は、ある程度までの調達基準として、フェアトレードな物を頼まないといけません。たとえばコーヒーはフェアトレードなものを頼む、とか。

ホテルにあった、フェアトレードのコーヒー(筆者撮影)
ホテルにあった、フェアトレードのコーヒー(筆者撮影)

ペオ:学校の職員室がフェアトレードになっていること。スウェーデンは、今、実行している最中です。

スウェーデンはなぜ成功しているのか?というと、解決する2つの方法を同時に実行しているからです。人間が考えた解決(human solution)と自然が考えた解決(nature solution)。これは、世界でもすごく珍しいことです。

自然の解決は、先ほどお話しした、家の基礎となる「環境循環」。人間の解決はSDGs。SDGsは、国際会議で頭を付き合わせて日本人、スウェーデン人、アフリカ人、アメリカ人、イタリア人たちが、こうすればいい、と決めたもの。その人間の解決はいつ始まったか、分かりますか?

―1970年代?

ペオ:Yes。1972年の地球サミット(筆者注:世界初、環境に関する国際会議としてスウェーデンのストックホルムで1972年に開催された「国連人間環境会議」のこと)(13)。

地球サミットは今までに4回あって、最初の地球サミットはスウェーデンで開催されたんです。スウェーデン人はラッキーだった。

―環境会議が開かれた、日本の京都のような感じでしょうか。

ペオ:Yes、京都の会議は、地球サミットの間にある、小さなpiece by piece(一つひとつ)(の課題)に関する国際会議。京都は温暖化、ワシントン条約は生物多様性、名古屋議定書は全国の自然、ジェノバはごみを輸出輸入しないように、など。幾つかのpiece by pieceが決められた会議がたくさんあるけれど、地球サミットでは環境、健康、経済など、全ての問題を同時に導入したということです。

初めて人間が解決する方法を探し始めたのが1972年。そこで生まれたのがUNEP(国際連合環境計画)。しっかりしたデータはUNEPにあります。それが47年前。

大事なことの一つは、人類にビジョンが生まれた。それは

自然や人間の健康

社会の健康

経済

この3つの柱が取れるバランスであるサスティナビリティの定義。

映画『魔女の宅急便』の舞台の一つにもなった、スウェーデン・ゴットランド島(筆者撮影)
映画『魔女の宅急便』の舞台の一つにもなった、スウェーデン・ゴットランド島(筆者撮影)

ペオ:エネルギーはpeople、planet、profit。これはサスティナビリティですね。国連による定義。サスティナビリティとは、people、planet、profit。環境だけ守ると経済が崩れる。でも経済だけだと働き過ぎる、不健康になる。だから、全てバランスを取らないといけない。これが、1990年代の地球サミットで決まりました。スウェーデン全国、学校やいろんなところで導入が始まりました。そこで何が起こったのかというと、いつまでに何を達成すればいいのか議論が起こり、生まれたのがSDGs。人、経済、環境。このゴールをより具体的にした169のターゲットがあります。これは私たちの約束です。

SDGsのウェディングケーキモデル。土台が生物圏、下から2段目が社会、一番上が経済(SDGs Wedding Cake_Stockholm Resilience Centre)
SDGsのウェディングケーキモデル。土台が生物圏、下から2段目が社会、一番上が経済(SDGs Wedding Cake_Stockholm Resilience Centre)

ペオ:今、全人類がいろんな言葉の違い、いろんな文化の違いもいっぱいある中で、共有価値ができた。私の目から見たら、奇跡です。たった47年間で、全人類が、今同じ道(SDGs)に向かっていますので、Rumiさんがこれ(木製のSDGsバッジ)を付けていて、今日は本当にうれしいです。

―ありがとうございます。日本では、SDGsウォッシュという言葉があります。

ペオ:(バッジを)付けているだけね。グリーンウォッシュ(環境にいいフリをしている)や、SDGsウォッシュ。SDGsウォッシュの話が出てきたのは素晴らしい。意識が高まるから。いろいろなことを、どんどんやったほうがいい。日本で良いところもたくさんありますね。セブン-イレブンさんも「これからはSDGsを目指す」と。すごいじゃない。

―2050年までにという目標が(セブン-イレブンには)あって。

ペオ:そう、その前に2030年までという目標もあるし、SDGsウォッシュもある。スウェーデンが日本と大きく違うところは、目標づくりがうまいこと。バックキャスト。英語版、スウェーデン語版はNo Poverty(貧困ゼロ)。2030年の世界をイメージして、どんな世界が欲しい?今から何をすればいいのか、逆算して考えた、それが169のターゲット。日本は・・・バックキャストの反対の言葉は?

―フォーキャスト。

ペオ:そう、フォーキャストですよ(14)。日本語版のSDGsの1番は「貧困をなくそう」。全然違う。(SDGsの)デザイナーも気付いた。これはあまり良くない翻訳です。

―8番も違和感があったんですけれども。

ペオ:いろいろありますね。スウェーデンは、100年前は途上国でした。当時、非常に貧しくて、人口の4分の1はアメリカに渡ってしまったんです。私のひいおじいちゃんもアメリカに行ってしまって、おばあちゃんはシカゴ生まれ。貧し過ぎるので、スウェーデンが新しい目標を作り「人間中心の社会を作りましょう」と決めた。作らないと、みんな外国へ行ってしまうから、人口が減る。そのビジョンができて、「戻って来てください」と呼びかけて、何人かがスウェーデンに戻ってきた。私のひいおじいちゃんも戻ってきた。そのビジョンとは「福祉大国になろう」ということ。スウェーデンの福祉制度はそこから生まれたんです。

1996年に、2021年のビジョンができた。人間中心の社会だけでは足りない。環境も守らないと不健康になる。緑がなくなると大気汚染を起こす。環境と健康と経済はつながっている、ということが地球サミットのおかげで分かった。

スウェーデン政府の環境庁や、NPOや企業がプログラムを作って「2021年までに環境、健康と経済の主な問題を解決しよう」と。今、SDGsの目標が2030年ですよね。スウェーデンが目標にしていたのは2021年ですよ。その目標が1996年に決まったので、そこから2021年までは何年?

―25年。

ペオ:25年といえば1世代。1世代以内に解決しよう。スウェーデン全国でSDGsみたいにジグソーパズルをやって、水や乗り物や食品はどう持続できるのかをバックキャスティングした。1996年に発行したスウェーデンの雑誌に、2021年のことが書いてあります。結構すごいと思いませんか?2021年までにこう考えないといけない、将来は燃費効率のいい車が走っているだろう、わざわざ職場まで通うのではなく、コンピューターを通して仕事しているだろう、と。日本語では何て呼びますか?distance(距離)をとって働くこと。

―モバイルオフィス?

ペオ:Yes。今でこそ当たり前ですけれども、これを書いているのが1996年ですよ。一台のコンピューターの中で、CD、音楽、テレビ、ビデオ、いろんな映画も1つの機械で同時に見ることができると書いてある。

この後、iPadが出たでしょう、iPhone。実際にすごいと思いませんか。

食品でも同じです。食品はできるだけ肉を減らしてベジタリアン(菜食)に切り替えること。肉は10倍の環境負荷がかかるから。CO2や資源や食品ごみのことを考えると、菜食へ切り替えよう、と。これは、1990年代の環境庁(環境省)が支えたんです。今の日本でもなかなか考えられないことでしょう。オランダ政府も「肉を70%減らそう」と発表したみたいです。

スウェーデンでは1990年代、こういうことを行っていたんです。将来はもっと環境負荷を少なくしよう、ということからバックキャスティングが生まれたんです。16個の目標を作って。今のSDGsと似ているじゃないですか。

―本当、似ていますね。

ペオ:SDGsはここから生まれたといわれています。

スウェーデンでは、家庭ごみのリサイクル率は50%。食べ物を燃やしてグリーンエネルギーに切り替えた分も考えると99%。CO2は、既に26%減らせたし、グリーン電力は50%等々です。

スウェーデンは、3年連続でSDGs国際ランキングで1位になっています。最新(2019年)はデンマークが1位ですけれども、スウェーデンは3年連続1位です。2017年でもスウェーデンが1位です。スウェーデンとデンマークがずっと1位2位を占めている。

human solution(人間による解決)だけでなく、nature solution(自然の解決)も取り入れたからこそ、スウェーデンが1位になった。人間のsolutionだけで止まってしまうと、1位はなかったんです。

1989年に、がん医療のある先生が発見したのは、人間の細胞と自然界で起こっている環境破壊は、すごく似ているということ。彼がNPOの環境団体を創り、そのNPOが、地球と細胞を示した絵本を出したんです。地球や自然を大切にしないと人間の健康も崩れるという。この絵本は、1989年、スウェーデン全国の全450万世帯に無料で配りました。全ての学校にも配布しました。そこからスウェーデンの環境革命が起こったんです。1989年当時に配られた絵本、ボロボロになっているけど、まだ持っています。これは本当に歴史的な物の一つです。

この絵本が面白いのは、スウェーデンの国王やたくさんの組織がサポートしていること。国だけではなく、スウェーデン最大の鉄道企業(スウェーデンのJR)やCOOP、スウェーデン最大の銀行や保険会社、企業、グリーンピース、WWF、スウェーデン最大の自然保護団体もサポートしています。

環境循環を大切にしないとおかしくなるということや、木の細胞と人間の細胞はほぼ同じであることを伝えています。最も素晴らしい内容がここに詰まっています。これも「バックキャスティング」です。どんな将来が欲しいですか?「It’s up to us(わたしたちの行動次第です)」ということ。ごみを捨てるのは何種類の生き物?私たちだけでしょう。

―ごみを捨てるのは人間だけ。

ペオ:そう、人間だけ。鳥やゾウの死骸や木は土に戻りますから。CO2を作って出し過ぎるのも、化石燃料を使うのも、人間だけ。500万種類か800万種類か1,000万種類のうち、人間だけ。動物は、貧困もほぼゼロ、失業率ゼロ、でしょう? 

自然の中では特別なルールが決まっているのではないかと、科学者の友達を呼んでいろいろ分析したら、見つけたんです。アリもゾウも花も木も鳥も同じルールに従っています。だからこそ、自然界では環境問題をほとんど起こさない。起こってもすぐ回復する。台風の後でも回復する。そこから学ぶことができないかと。

幾つかのルールがありますけれども、今回2つだけ説明したいと思います。

先ほど説明した、サステナビリティを家の基礎にたとえたのを思い出して下さい。スウェーデン人みんなが義務教育で学ぶ「環境循環」です。スウェーデンの大人向けの教材です。

環境循環は、人間が生まれる前からずっと繰り返していたこと。植物が育って、植物を食べるエネルギーの中に入るために動物がいます。で、動物が死んでしまったら土に戻ります。それが栄養になって、また植物が育ちます。10億年ぐらい前から、この循環をずっと繰り返してきました。数百万年前からずっと、完璧なリサイクルシステム。

しかし、何が起こったのかというと、私たち人間が生まれた。人間が生まれてから何が起こっているかというと、特に産業革命以降、地下の物(石油資源)や地上の物など、自然から資源を取り過ぎて、回復することができなくなるまで取ってしまっている。

この「環境循環」ルールの本当の表現は、

「返すことができる以上に取らないでください」

でも、私たちはそのルールに反して、取り過ぎて、作り過ぎて、化学物質を作って、大気汚染や水汚染を起こしている。

企業やスーパーは「安全・安心」だと宣伝しているけど、ケミカルから作られているんだったら、本当は「安全・安心」ではないよね。

取材を終えて

ペオさんの2時間近くにわたるお話は、SDGsの17のゴール、ほとんどすべてを網羅していた。

ペオさんは「地下と地上」を繰り返し強調していた。地下から取る石油資源などは有限。でも、地上で作られたグリーンエネルギー(再生可能エネルギー)は、無限で尽きることがない。

SDGsの専門家が「日本は(世界と比べて)周回遅れ」と言っている背景が少し理解できた。スウェーデンでは、SDGsの最も本質的なところを、20年以上前から、既に全国で義務教育を行なってきたのだ。だから迷いがない。理解が早い。

日本は、自分たち人間が主役で、環境はそれに従うもの。でもスウェーデンでは、環境があってこそ、人間がその中で生かされているという、自然に対する謙虚な気持ちがある。

日本にも、自然への畏敬の念はあるのだが、自然災害など「自分たちにはどうしようもない」「自然は変えられない」という諦めの気持ちや諦観の姿勢になってしまっているように感じる。

なお、ペオさんの話の内容は、拙著『北欧でみつけたサステイナブルな暮らし方』(15)にもまとめて掲載しているので、参考にしていただければと思う。

参考資料

1)Sustainable Development Report 2022: Ranking

https://dashboards.sdgindex.org/rankings

2)Sustainable Development Report 2019: Ranking

https://www.sustainabledevelopment.report/reports/sustainable-development-report-2019/

3)Sustainable Malmö

https://malmo.se/Welcome-to-Malmo/Sustainable-Malmo.html

4)保存版 リサイクルできる回数と、意外とできないもの5選(Ethical Choice, 2021.11.22)

https://myethicalchoice.com/journal/plastic-free/materials-recyclable-non-recyclable/

5)企業の賞味期限表示を改善した!食品シェアアプリの元祖 ヒュッゲの国デンマークのToo Good To Go(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019.10.2)

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20191002-00144664

6)子供の環境保護意識を芽生えさせる!「森のムッレ教室」とは?(FQ Kids. 2020.8.17)

https://fqkids.jp/3249/

7)「スウェーデンの環境政策・環境教育とエコツーリズムの課題」(スウェーデン大使館参事官、カイ・レイニウス、宮城学院女子大学発達科学研究、2012.12.93-96)

https://www.mgu.ac.jp/main/educations/library/publication/pre_hattatsu/no12/hatsurin12_14.pdf

8)人類のせいで「動植物100万種が絶滅危機」(BBC, 2019.5.7)

https://www.bbc.com/japanese/48182496

9)まるで映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアン?バナナとコーヒーで走るスウェーデンのバス

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20191125-00150844

10)UNEP Food Waste Index Report 2021

https://www.unep.org/resources/report/unep-food-waste-index-report-2021

11)フェアトレードタウンとは(フェアトレードフォーラムジャパン)

http://fairtrade-forum-japan.org/fairtradetown/about-fairtradetown

12)フェアトレードタウン認定の市・町

http://fairtrade-forum-japan.org/townactivity/details

13)国連人間環境会議(1972年、国際連合が主催し、ストックホルムで開催した、環境問題に関する最初の国際会議)

https://www.y-history.net/appendix/wh1703-117.html

14)福島市立野田中学校  校長室だより~燦燦~ No722 (2023.3.23)

https://fukushima.fcs.ed.jp/wysiwyg/file/download/368/297070

15)『北欧でみつけたサステイナブルな暮らし方 食品ロスを減らすためにわたしたちにできること』(井出留美、青土社)

スーパーの売れ残りバナナでバナナアイス!スウェーデンで食品ロスを活かすアイス会社

https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20191113-00149194

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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