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世界の食品ロス、実は2倍以上多い可能性あり?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
廃棄されて腐った大量の夏野菜(写真:イメージマート)

*この記事は、2020年2月22日に掲載した『世界の食品ロスは実は2倍以上多い可能性あり?海外の最新知見、12日発表:SDGs世界レポ(4)』の連載と記事掲載が終了するにあたって、当時の内容を編集・追記したものです。

FAO(国際連合食糧農業機関)がこれまで発表していた食料ロス・廃棄量では、世界の生産量の3分の1が無駄になっているとされている。これに対し、2020年2月12日、海外の大学の研究者らが発表した内容によれば、実際は、世界の消費者が、今まで考えられていた量の2倍以上の量を捨てている可能性があるとのこと。

2020年2月12日、ジャーナル「PLOS ONE」に研究結果を発表したのは、オランダのワーゲニンゲン大学(Wageningen University&Research)の研究者、モニカ・ファン・エン・ボス・バーマ氏(Monika van den Bos Verma、以下、モニカ氏)とその同僚ら。

モニカ氏らは、この研究が、SDGsの12番で目標とされているような、食料廃棄に関する、国際的に比較可能な指標を作るために役立つとしている。

Such data can be used for construct- ing meaningful and internationally comparable metrics on food waste, such as those for Sustainable Development Goal 12.

SDGs(持続可能な開発目標)の12番のゴール(国連広報センターHP)

論文は14ページにわたるもので、引用文献として37の先行研究(論文)が挙げられている。

2020年2月、海外メディアでは連日報じられていたが、日本のメディアでは、報じられていなかった。

発表された論文の中から、抜粋して概要をお伝えしたい。

今まで考えられてきた2倍量の食品が消費者由来で無駄になっている可能性あり

FAO(国際連合食糧農業機関)は、これまで、世界の食料生産量のうち、重量ベースで3分の1が無駄になっているとする食料ロス・食料廃棄(Food Loss and Waste)の推計値を発表してきた。そのため、既存の論文でも、全体の「3分の1」が無駄になっているという前提で論じられてきた。

しかし、モニカ氏らは、FAOの方法論とそれに基づく数値は、食料廃棄に対する消費者の行動を考慮していないと主張する。

However, the FAO methodology and therefore the calorie waste estimate based on it, does not factor in consumer behavior regarding food waste; food supply alone determines the extent of food waste.

消費者は、手に入れられる食べ物の量以上に無駄にすることはできない。入手できる食べ物の量が多い人ほど、無駄にする可能性は増える。

We cannot waste more than the food available to eat, therefore consumer food waste is constrained by an upper limit as dictated by food availability (FA) as determined by supply side factors.

消費者が食品をどれくらい無駄にするか(廃棄量)に影響する要因として、所得・教育レベル・居住地・食文化など、消費者の社会・経済的属性に関するデータが必要となる。これら消費者属性の食料廃棄に対する影響を把握しようとする試みはこれまでにもあったが、世界規模で調べた研究はない。

The demand side requires data on consumers’ socio-economic attributes such as income, education, residence, food-culture etc. There are individual attempts to capture the impact of these consumer specific attributes using regression methods, but no studies have attempted this at a global level.

そこでモニカ氏らは、人間の代謝モデルとFAO、The World Bank(世界銀行)、WHO(World Health Organization、世界保健機関)のデータを利用して、食料廃棄と消費者の収入などとの関係を定量化することを試みた。

Using a human metabolism model and data from FAO, the World Bank, and the World Health Organization, Van den Bos Verma and colleagues quantified the relationship between food waste and consumer affluence.

FAOの推計値だと、消費者由来で214kcal(キロカロリー)/日/人が無駄になっていると計算されていた。しかし、モニカ氏らの研究によれば、実際にはその2倍以上である、527kcal/日/人が、消費者由来で無駄になっている可能性があると述べた。

The results also show that the most widely cited global estimate of food waste is underestimated by a factor greater than 2 (214 Kcal/day/capita versus 527 Kcal/day/capita).

収入が多い人ほど食べ物を無駄に 6.7ドル/日/人が分岐点

また、モニカ氏らは、収入が多い人ほど食べ物を無駄にする傾向があり、1日1人あたりの収入が6.7ドル(およそ883円、2023年3月19日現在の換算レート)を超えると食品の無駄が増え始めることについても論文で言及した。

The authors also found that once consumer affluence reaches a spending threshold of approximately $6.70 per person per day, consumer food waste starts to arise.

したがって、世界の食料廃棄を抑えるためには、高所得国の食料廃棄を抑えることが必要だと述べている。

また、現在、発展途上にある国も、経済成長に伴い、食料の廃棄が増えることも示唆されている。

今回の方法がSDGs12番のゴール(12.3)測定に寄与する、と著者ら

モニカ氏らは、彼らが使った方法が、食料廃棄量を評価し、SDGsの12番のゴールのうち3番目のターゲットで謳われている「世界の食料廃棄を2030年までに小売・消費レベルで半減させる」という目標の到達度を測る上で助けになるとしている。

Van den Bos Verma and colleagues believe that the method behind their work can be used as a basis to introduce the affluence elasticity of waste as a new concept in empirical consumption models, to better understand and assess current food waste magnitudes, and to help measure global progress in reducing food waste (SDG 12.3).

モニカ氏らの研究で対象としたサンプルは、世界人口のうち、67%で、米国やカナダ、オーストラリアなど、大量の食品を消費している国が含まれていない。したがって、この結果に懐疑的な研究者もいる、と、報じている記事もある。

論文を読んで

2021年7月、WWF(世界自然保護基金)と、英大手スーパーのTESCO(テスコ)は、Driven to Wasteというレポートを発表した。これまでFAOが「13億トン」と発表してきた世界の食品ロスの約2倍、25億トンが実際には発生している、とするものだ。農場で発生している12億トンが見過ごされてきた、としている。このレポートから考えても、消費者由来の食品ロスが2倍だったとしても、驚くべきことではない。

ミクロでなく、マクロの統計値は、厳密に推計するのが困難だ。日本の政府が発表している食品ロスの最新の推計値522万トン(2020年時点の推計値)も、畑や漁港での一次生産品の廃棄は含まれていないし、全国で備蓄されている食料の廃棄もカウントされていない。したがって、筆者は、政府の発表している統計値以上の食品ロスが日本で発生していると見ている。

一つの国だけでも過小評価されている可能性があるのだから、世界全体の値となれば、なおさらだろう。

そもそも食文化が異なる国々で、ある国では不可食部(食べられない部分)とされるものを、別の国では可食部(食べられる部分)とみなす場合もある。世界の食料廃棄を厳密に測定するのは困難だ。

この研究結果で興味深いのは、消費者の、1日一人あたりの収入と食料廃棄量とに関連性が見られることだ。今は廃棄が少ない国も、今後、経済発展に伴い、食料廃棄が増える可能性が示唆されている。

筆者も農林水産省ASEAN事業の一環で、東南アジアの大学へ定期的に講義に行っているが、食品ロスに対する意識は醸成されているとは言い難い。しかし、今後、ロスや廃棄が増える可能性を予測し、今から啓発を行っていくことは重要だと考える。

注:論文では、キロカロリーの表記が「Kcal」となっているが、正しくは全て小文字(kcal)なので、本記事では後者を用いた。

参考記事

Consumers discard a lot more food than widely believed: Estimates of global food waste using an energy gap approach and affluence elasticity of food waste (PLOS ONE)

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0228369

Consumers may be wasting more than twice as much food as commonly believed

https://www.wur.nl/en/research-results/research-institutes/economic-research/show-wecr/consumers-may-be-wasting-more-than-twice-as-much-food-as-commonly-believed-f00dwa5.htm

Surprise: Rich people waste more food than everyone else

https://www.mic.com/impact/food-waste-amounts-may-have-been-underestimated-by-half-new-study-says-21815416

The huge problem of food waste could be twice as big as we thought

https://www.newscientist.com/article/2232923-the-huge-problem-of-food-waste-could-be-twice-as-big-as-we-thought/

Global food waste twice as high as previously estimated, study says

https://edition.cnn.com/2020/02/20/health/global-food-waste-higher/index.html

Driven to Waste: The Global Impact of Food Loss and Waste on Farms

https://www.worldwildlife.org/publications/driven-to-waste-the-global-impact-of-food-loss-and-waste-on-farms

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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