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SDGs世界ランキング1位デンマーク ジェンダーギャップの克服と食品ロス削減

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
デンマークのFoodPeople(フードピープル)オフィスで(筆者撮影)

*本記事は、2020年2月5日に配信した『SDGs世界ランキング1位デンマーク 企業と行政は何にどのように取り組んでいるか SDGs世界レポ(1)』の連載が終了し、記事掲載が終了するにあたって、当時の記事に追記、編集したものです。

国連「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」(SDSN)が毎年発表している、世界各国のSDGsの達成度を評価する「Sustainable Development Report」(持続可能な開発報告書)。いわゆる世界のSDGs達成度ランキングだ。2019年6月28日に発表された結果では、デンマークが1位となった。 (1)。昨年2022年6月2日の発表結果(2)によれば、デンマークは163カ国中2位。1位がフィンランドで3位がスウェーデンと、北欧3カ国が、ほぼ毎年、トップ3を占めている(3)。

一方、2022年の日本のランキングは19位に転落した。2019年に15位、2020年に17位、2021年に18位、2022年には19位と、年々下がってきている。日本の課題の一つが、SDGsのゴール5番でも制定している「ジェンダー平等」だ。日本は世界的にジェンダー・ギャップが大きいことが問題とされているが、SDGs世界ランキングで毎年トップ3に入っているデンマークはどうなのだろうか。

デンマークのジェンダー・ギャップは年々縮まってきている

デンマークで働いている方によれば、デンマークのジェンダー平等ランキングは、北欧の中では最下位だという(4)。しかし、OECDの報告によれば、デンマークのジェンダー・ギャップは、それでも年々縮まってきている(5)。

グラフの赤線で示すデンマークのジェンダーギャップは年々縮まってきている(2019年1月報告「OECD Economic Surveys Denmark」p50-51より)
グラフの赤線で示すデンマークのジェンダーギャップは年々縮まってきている(2019年1月報告「OECD Economic Surveys Denmark」p50-51より)

2020年時点では5.0%と、OECD加盟国の中でギャップの小ささでは7位となっている(6)。

ジェンダーギャップ(OECD, 2020)デンマークは左から7番目の青
ジェンダーギャップ(OECD, 2020)デンマークは左から7番目の青

2019年以前のOECDの報告でも、家事などの無償労働への参加時間は、デンマークの男性が最多で、一週間に3時間6分という結果が出ている(最も少ないのが日本の男性で一週間に40分)。

筆者の取材では、一週間のデンマーク滞在期間中、「成人男性と子ども」が一緒にいる姿を、平日・休日に限らず、多く目にした。

下記の動画は、平日の公園で遊ぶ父親と子どもたちの姿だ。ボールで遊んでいる父子の他にも、通りすがる人たちに「父と子」が複数見られる。

また、LGBTQに関していうと、デンマークは1989年に、世界で最初に同性婚を法的に承認した国だそうだ。デンマーク取材でお世話になったウィンザー庸子さんから伺った。世界で初めて男性同士で結婚したのは、40年間連れ添っていたアクセルとエイギルという人だったとのこと。

デンマークでも、出産により昇給や昇進への壁が生じるのは女性

とはいえ、デンマークの女性が男性と全く同じ待遇を得られるわけではない。前述のOECDレポートによれば、より高いポジションへの昇進や、より高い給与を得る昇給などのチャンスは、男性では子どもの有無に左右されない一方、女性は子どもがいることで昇進・昇給に壁ができることが示されている(2019年1月報告、「OECD Economic Surveys Denmark」p52-53より)。

男性(グラフ右)の場合、子どもがいても(緑)いなくても(青)稼ぐ金額に差はないが、女性(グラフ左)の場合、子どもがいる(緑)ことで高収入を得る上で壁になっている(2019年1月報告、「OECD Economic Surveys Denmark」p52-53より)
男性(グラフ右)の場合、子どもがいても(緑)いなくても(青)稼ぐ金額に差はないが、女性(グラフ左)の場合、子どもがいる(緑)ことで高収入を得る上で壁になっている(2019年1月報告、「OECD Economic Surveys Denmark」p52-53より)

デンマークでは、管理職のうち女性が占める割合は4分の1強

デンマークでは、管理職のうち、女性の占める割合は全体の4分の1強に過ぎず、決して高くはない(2019年1月報告、「OECD Economic Surveys Denmark」p52より)。

とはいえ、日本の場合、デンマークのさらに半分程度と、よりいっそう低いのだが…。

管理職に占める女性の割合。赤がデンマーク。日本は左から2番目(2019年1月報告、「OECD Economic Surveys Denmark」p52-53より)
管理職に占める女性の割合。赤がデンマーク。日本は左から2番目(2019年1月報告、「OECD Economic Surveys Denmark」p52-53より)

デンマーク政府や王室をも動かす女性も登場

ジェンダー格差も見られるデンマークではあるが、デンマーク政府や王室をも動かすパワフルな女性も登場している。それが、セリーナ・ユール(Selina Juul)だ。

食品ロスを減らす活動を2008年から続けてきた彼女は、デンマーク全体の食品ロスを5年間で25%も削減した(7)。

写真中央、受賞するセリーナ・ユール(Selina Juul)(本人提供)
写真中央、受賞するセリーナ・ユール(Selina Juul)(本人提供)

政府や食品企業に掛け合い、賞味期限表示の改善に取り組んだNPOの女性たち

セリーナと共に、賞味期限表示による食品ロスを減らすため、動いたのが、Too Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)という、余剰食品をスマートフォンのアプリを介して低価格で提供するサービスを提供する女性たちだ(8)。

デンマーク・コペンハーゲンにあるToo Good To Goのオフィス兼店舗(写真左、筆者撮影)
デンマーク・コペンハーゲンにあるToo Good To Goのオフィス兼店舗(写真左、筆者撮影)

「賞味期限」は、品質が切れる日付ではなく、美味しさの目安に過ぎない。だが、日本と同様、デンマークでも、安全性を示す「消費期限」と混同して誤解する消費者が多いという。

そこでToo Good To Goのマーケティング責任者、ニコライン(Nicoline Koch Rasmussen)とターニャ(Tanja Andersen)は、2019年2月、「賞味期限と消費期限の書き方キャンペーン」を実施した。賞味期限が過ぎて、すぐ捨ててしまう消費者が多いので、その状況を改善しようと試みたのだ。

ニコライン(Nicoline Koch Rasmussen)(右)とターニャ(Tanja Andersen)(左)(筆者撮影)
ニコライン(Nicoline Koch Rasmussen)(右)とターニャ(Tanja Andersen)(左)(筆者撮影)

まずデンマーク政府(食糧庁)に連絡し、賞味期限表示の横に「多くの場合、賞味期限が過ぎてもおいしく食べることができます」と併記してよいかの確認をとった。

政府に表現のお墨付きをとってから、ユニリーバやカールスバーグ、オーガニックブランドや酪農協会のアーラという団体など、15企業と議論した。

食品のパッケージを新しく切り替えるタイミングで、賞味期限の横に「賞味期限が過ぎても多くの場合おいしく食べられます」という表示を入れることに成功したのだ。

2019年6月、小規模農場のオーガニック牛乳「ティーセ」が、四面ある牛乳パックのうちの一面を使い、15企業の先陣を切って表記を始めた。(9)

「ティーセ」が始めた賞味期限表示の説明。「目で見て、鼻でにおいを嗅いで、舌で確認して、つまり五感で確認して大丈夫だったらOK」といった旨が書かれている(Too Good To Go提供)
「ティーセ」が始めた賞味期限表示の説明。「目で見て、鼻でにおいを嗅いで、舌で確認して、つまり五感で確認して大丈夫だったらOK」といった旨が書かれている(Too Good To Go提供)

デンマークの成功にみならい、スウェーデンも賞味期限表示を改善

デンマークは、このような賞味期限の意味を消費者が理解し、食品ロスが減るように、行政と企業、NPOが協力して消費者啓発に取り組み始めた。

日本と同様、賞味期限表示は、デンマークでも表記が決められている。法律の内容を変える、あるいは新たに作るのには年数がかかる。が、たとえ法律を変えなくても、今、ここからできることはある。彼女らは、政府や企業に必要性を訴え、彼らの理解を得てそれを実行したのだ。

これは一つの事例に過ぎないが、このことからも、「できるところからできることをやる」姿勢や、デンマークで「ヒュッゲ」と呼ばれる、居心地の良さや満足感のある暮らし方が感じられる。

今回の「賞味期限と消費期限の書き方キャンペーン」をする以前にも、デンマークでは、賞味期限を、ピンポイント表示ではなく、アバウトな時期を示す表示に変えることで、食品ロス削減に貢献したとのことだった。2016年秋にスウェーデンの大学から来日した女性研究者に話を聞いた。デンマークの成功事例を受け、スウェーデンでもそのような表示を始めたとのこと。

スウェーデンでも「目で見て、においを嗅いで、五感で確認して飲食しよう」と呼びかけるパッケージが取り入れられている(筆者撮影)
スウェーデンでも「目で見て、においを嗅いで、五感で確認して飲食しよう」と呼びかけるパッケージが取り入れられている(筆者撮影)

日本でも賞味期限表示の横に併記することはできる

日本ではどうだろうか。何人かの人に聞いた意見は「“期限”と言われると、目安とは思えないので、どうしても、そこで期限が切れてしまうと思ってしまう。本当は、”賞味期限“という名称そのものを変えたほうがよいと思う」とのことだった。消費者庁が2020年に実施した「賞味期限の愛称・通称コンテスト」では筆者も審査員を務めたが、このとき最優秀賞を受賞したのは「おいしいめやす」だった。日本政府が本気で食品ロスを減らしたいのであれば、現在の「賞味期限」をやめて「おいしいめやす」に変えることもできただろう。

賞味期限はおいしさのめやすに過ぎない(消費者庁の紹鴎を基にYahoo!JAPAN制作)
賞味期限はおいしさのめやすに過ぎない(消費者庁の紹鴎を基にYahoo!JAPAN制作)

賞味期限表示のすべてを「おいしいめやす」に変えることは難しいにしても、賞味期限表示の横に併記することは可能だ。表示そのものは変えられなくても、表示の意味を説明することはできる。「食品ロス」という社会課題は大きなものであっても、できるところから、できる個人/組織が取り組むことで、社会は確実に変わるはずだ。それは、筆者が2008年から細々と取り組んできた「食品ロス」という分野において、日本で初めて食品ロス削減のための法律が国会で成立したことでもわかる。

この記事では、日本のSDGs世界ランキングの低さの要因としてジェンダーギャップがあるが、デンマークも同様にジェンダーギャップはあり、それを少しずつ克服してきたことをお伝えした。また、食品ロス削減を実現する手段の一つとして、デンマークで、賞味期限表示の横に「過ぎてもたいていの場合は飲食可能です」と併記したやり方について紹介した。また、デンマークのセリーナ・ユールやToo Good To Goの女性たちがおこなった取り組みについては、北欧を取材して書いた記事をまとめた拙著『北欧でみつけたサステイナブルな暮らし方』(10)も参考にしていただきたい。

参考記事

1)世界のSDGs達成度ランキング、日本は15位 昨年と変わらず(サステナブル・ブランドジャパン 2019.6.30)

2)Sustainable Development Report 2022(SDSN, 2022.6.2)

3)The overall performance of all 193 UN Member States(SDSN, 2022.6.2)

4)ジェンダー平等ランキング北欧最下位のデンマーク。その歴史と変容(さわひろあや、HUFFPOST、2021.2.17)

5)OECD Economic Surveys Denmark, p50-51(OECD, January 2019)

6)Gender wage gap (OECD Data, 2020)

7)たった5年で食品ロス25%も削減 デンマーク王室をも動かしたある女性の怒りとパワー(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019.9.13)

8)Too Good To Go, Denmark

9)企業の賞味期限表示を改善した!食品シェアアプリの元祖 ヒュッゲの国デンマークのToo Good To Go(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019.10.2)

10)『北欧でみつけたサステイナブルな暮らし方 食品ロスを減らすためにわたしたちにできること』(井出留美、青土社)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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