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新語・流行語大賞2022年トップ10選出!「てまえどり」を最初に考えたのは誰?

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:イメージマート)

食品ロス削減につながる行動「てまえどり」が、2022年「現代用語の基礎知識選ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10に選出された(1)。

「てまえどり」とは

「てまえどり」とは、消費者が、スーパーやコンビニで商品を選ぶ際、商品棚の手前にある食品を積極的に選ぶ行動を指す。それにより、食品ロスが削減される効果が期待される。

特に牛乳など、消費期限や賞味期限を気にしやすい食品に関して、消費者は、同じ値段だったら少しでも期限が多く残っているものを、奥から引っ張り出して買う傾向がある。筆者が2,730名にアンケート調査した結果でも、88%が「奥から取る(あるいは取ったことがある)」と回答している。

牛乳売り場でよくある、手前ではなく、商品棚の奥から取る「奥取り」(筆者撮影)
牛乳売り場でよくある、手前ではなく、商品棚の奥から取る「奥取り」(筆者撮影)

奥から取ると消費者も損をする?

期限が迫っている手前のものが売れ残ると、それらはスーパーやコンビニや処理コストを負担するだけでなく、消費者が市区町村に納めた税金も使って処理コストを負担する場合がある。すべての自治体とは限らないが、「事業系一般廃棄物」として回収されながら、家庭ごみと一緒にされ、焼却処分されるのだ。

筆者が住んでいる埼玉県川口市は、事業系一般廃棄物と家庭ごみは一緒にして焼却処分している。そのように、事業系一般廃棄物が焼却処分される場合、処理コストは自治体によって異なる。東京都世田谷区の場合、事業系一般廃棄物1kgあたり57円がかかっている(2)。

コンビニやスーパーの商品棚、手前で売れ残ると「事業系一般廃棄物」として税金も使って焼却処分される(筆者作成)
コンビニやスーパーの商品棚、手前で売れ残ると「事業系一般廃棄物」として税金も使って焼却処分される(筆者作成)

「てまえどり」キャンペーンを最初に始めたのは?

では、この「てまえどり」キャンペーンを最初に始めたのは誰だろう?

筆者の調べた限り、2018年秋に始めた、生活協同組合コープこうべと兵庫県神戸市だ。

コープこうべが実施した際の啓発ポスター(コープこうべ提供)
コープこうべが実施した際の啓発ポスター(コープこうべ提供)

今回の授賞式でも、農林水産省らと一緒に受賞しており、受賞者名として筆頭に挙げられている。

「てまえどり」がトップ10選出(ユーキャン公式サイトより)
「てまえどり」がトップ10選出(ユーキャン公式サイトより)

そして、日本で最初に「てまえどり」を報じたのが神戸新聞、2018年10月6日付の記事だ(3)。もともとは、商品棚の手前にある値引き商品から購入する行動を「てまえどり」と呼んでいた(下記、神戸新聞の記事より)。

2030年の食品廃棄物半減などを目標に据える同生協の取り組み「エコチャレ2030」の一環。商品棚手前の値引き商品などから購入する行動を「てまえどり」と銘打ち、市内34店舗で展開する。販売期限切れが近い商品に「なくそう食品ロス! すぐに食べるなら是非」と記した値引きシールを貼付。買い物かごにも「手前から取ってね」と呼び掛ける啓発ステッカーを付けた。この日はコープ山手の店頭で、賞味期限が5日後と1日後の豆腐の味比べを実施。間違える人も多く「味はほとんど変わらない」などの声が聞かれた。

店頭では、賞味期限まで5日残っている豆腐と、賞味期限が1日過ぎた後の豆腐と、消費者に味を比べてもらった。そうしたところ、半数の人しか味の区別がつかない、という結果も得られた。所詮、「賞味期限」とはおいしさのめやすであり、その程度のもの、ということだ。

筆者も、このキャンペーンを実施している最中に、兵庫県神戸市とコープこうべに取材させていただいて、記事を書いた(4)。

コープこうべの益尾大祐さん(奥・右、当時のご所属)と井野健太郎さん(奥・左)(筆者撮影)
コープこうべの益尾大祐さん(奥・右、当時のご所属)と井野健太郎さん(奥・左)(筆者撮影)

ハンガリーでも「作りたてと期限間近で味の区別がつかない」

コープこうべでは、豆腐の作りたてとそうでないものとで味の比較をおこなったが、ハンガリーでも、ヨーグルトで同様の調査がなされている。このときにも、半数程度の人しか味の区別がつかなかった。そこで「だったら、手前から取りましょう」という啓発ポスターが作られた。

ハンガリー「てまえどり」ポスター(帝京大学、渡辺浩平先生提供)
ハンガリー「てまえどり」ポスター(帝京大学、渡辺浩平先生提供)

2020年に閣議決定した「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」に「手前取り」

そして、2019年に施行された食品ロス削減推進法を受けて、2020年3月31日に閣議決定した「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」には、「手前取り」という言葉が入っている(5)(p5)。

2021年、京都市の実証実験では「てまえどり」が消費者にも事業者にも得であるという結果

2021年9月から11月にかけて京都市がおこなった実証実験では、「てまえどり」が、事業者のみならず、消費者にとっても、食品の廃棄を減らすという結果が判明した(6)。

「てまえどり」というキャッチコピーを生み出した素晴らしさ

今回の受賞を受けて、農林水産省は、12月1日、プレスリリースを発表した(7)。2021年6月に、コンビニエンスストア向けの「てまえどり」啓発物を作ったのが、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会、消費者庁、環境省、農林水産省だ。食品ロス問題について、あまり意識のない方でも、大手コンビニの店頭で「てまえどり」のキャッチコピーを見たことがある人もいると思う。

神戸市とコープこうべが生み出した「てまえどり」は、こうして広がっていき、このたびの新語・流行語大賞の受賞にもつながった。

実は筆者も、2016年10月に出版した拙著『賞味期限のウソ』(8)で、てまえどりに関連することを次のように書いていた。

スーパーやコンビニで、牛乳パックの賞味期限を見て、奥のほうへ手を伸ばし、賞味期限の日にちが遠いものを取ったことはありませんか。手前のものも売り切れればいいですが、残ってしまったら、店側が処分することになります。

これが家の冷蔵庫だったらどうでしょう。牛乳が複数本入っていたら、賞味期限が近づいているほうから使いませんか。

でも、やはり、この文章を読むより、「てまえどり」と言われたほうが、瞬時に理解できるし、より多くの人に広まるのは間違いない。

あらためて、食品ロスを減らす「てまえどり」を広めていただいた関係者全員に感謝するとともに、2018年に始めたコープこうべと神戸市のみなさまにも敬意を表したい。

参考情報

1) 第39回 2022年「現代用語の基礎知識選ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10(株式会社 ユーキャン)

2)東京都世田谷区 事業系一般廃棄物 ガイドブック(東京都世田谷区、2022年4月)

3)コープこうべ 食品ロス削減啓発 商品は棚の手前の値引き品から「てまえどり」運動開始(神戸新聞、2018/10/6)

4)「てまえどり」すぐ食べるなら手前からとってね!食品ロスを減らすコープこうべと行政の連携(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/4/8)

5)食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針(2020年3月31日、閣議決定)

6)「てまえどり」の食品ロス削減効果について(京都市)

7)「てまえどり」が今年の新語・流行語大賞トップ10に選出されました!(農林水産省、2022/12/1)

8)『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(井出留美、幻冬舎新書、2016/10/28)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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