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冷蔵庫は「魔法の箱」なのかー食品ロスの46%は家庭から、無駄をなくす新技術の今

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

いまや一家に一台、当たり前に存在する冷蔵庫。しかし、「入れておけば安心」とまるで魔法の箱扱いで食材を保管し、本来の機能を十分に活かしきれていない消費者が多いのではないだろうか。

日本の食品ロスのうち、半数近く(46%)は家庭で発生している。この数字には、「使おうと冷蔵庫に保管していた食材をうっかりだめにしてしまった」など冷蔵庫内の食材管理がうまくできなかったケースも多く含まれているように感じている。

近年、日本の家電メーカー各社はIoTを駆使した冷蔵庫の開発を進めている。冷蔵庫×IoTとなると、食材管理を第一に想像するが実際に「食品ロス」削減につながる機能や実績は出てきているのだろうか。各社は冷蔵庫と密接な関係にある食品ロスにどのような考えを持っているのだろうか。そこで2021年2月にIoT対応の新製品を発表したパナソニック株式会社アプライアンス社(滋賀県草津市)と東芝ライフスタイル株式会社(神奈川県川崎市)を取材した。

消費者のお買い物にお役立ちする冷蔵庫

パナソニック株式会社アプライアンス社(以下パナ社)は、「消費者の日々の買い物に冷蔵庫をお役立てします」という立ち位置を取っている印象だ。AIやGPSを駆使した技術を搭載し、消費者の活用方法次第で家庭の食品ロス削減につながりそうな機能が見受けられた。

その機能の一つが「ストックマネージャー」。はかりのような見た目の、重量を検知するプレートがついた、冷蔵庫とは別売りのツールだ。スマホのアプリと連携することで、重複購入や買い過ぎ、買い忘れなどを防ぐことができる。残量を管理したい食材を上に置くだけで、お米なら米びつに対して「あと何%ある」、缶ビールなら「あと3本」といった形で残量を把握できる。

(左)奥の白い板が重量検知プレート。スマホと連携させて食材の残量を把握することができる(筆者撮影)(右)説明してくださるパナ社の西村美保氏(撮影:大田美月氏)
(左)奥の白い板が重量検知プレート。スマホと連携させて食材の残量を把握することができる(筆者撮影)(右)説明してくださるパナ社の西村美保氏(撮影:大田美月氏)

この重量検知プレートは冷蔵庫の中だけでなく、冷蔵庫の外で常温で使うことも可能だ。極端な話、冷蔵庫を買わなくても、重量検知プレートだけ単体で購入できる。管理したい食材が多ければ、複数枚を買うこともできる。

左は重量検知プレートの利用イメージ。右は、消費者が残量を管理したい食材ランキング。毎日使うものやまとめてストックしたい食材が並ぶ(パナ社調査・提供)
左は重量検知プレートの利用イメージ。右は、消費者が残量を管理したい食材ランキング。毎日使うものやまとめてストックしたい食材が並ぶ(パナ社調査・提供)

ストックマネージャー以外に食品ロス削減に役立ちそうな最新機能が「はやうま冷凍」だ。その日に使いきれなそうな野菜を急速冷凍し、おいしく保存できる。以前は傷むのが怖くて野菜を買わなかった人や、無理して調理しても食べ切れないで捨てていた人から、実際に利用してみて「野菜を冷凍しておける安心感から野菜をよく食べるようになった」という声が多く出たそうだ。生姜やみょうが、ネギなどの薬味も、この機能を使えばおいしく長く保存できる。

スペック競争からの脱却 消費者の共感・自発的な使い方を促す商品を

消費者はそれぞれ生活スタイルが異なるし、市場はどんどん変化していく。パナ社は、顧客を置いてきぼりにしてメーカーだけが進化し、ハイスペックにして「どうだ!」と押し付けるやり方は、今の時代にそぐわないと考えているそうだ。

食品ロスに対しても、「冷蔵庫の食材の鮮度を100%保つことで食品ロスを減らす」という冷蔵庫で完全にロス対策がカバーできる、といった考え方はしていない。機能性を他社と競うようないわゆる「スペック競争」から脱却し、「家電(冷蔵庫)は単体で生活の課題をすべて解決するもの」ではなく、利用する消費者の課題解決に寄り添い、お役立ちをしていく存在であると共感してもらえるような商品にしていくこと。消費者自身が食材を管理できるような、新しい冷蔵庫の使い方が身につくこと。その先で結果的に食品ロスが減る、といった提案をしていきたいとのことだった。

パナソニック株式会社アプライアンス社の皆様(写真、右から澤近京一郎氏、安平宣夫氏、西村美保氏、左から宮代達氏、大田美月氏、筆者。撮影:パナ社広報ご担当 岩館秀典氏、金森奈緒氏)
パナソニック株式会社アプライアンス社の皆様(写真、右から澤近京一郎氏、安平宣夫氏、西村美保氏、左から宮代達氏、大田美月氏、筆者。撮影:パナ社広報ご担当 岩館秀典氏、金森奈緒氏)

家庭内食品ロス1位「野菜」の保存性を高めることに特化した東芝

家庭の食品ロスで最も多いのが野菜だ。複数の食品ロス調査を見ても、どれも野菜が上位を占めている。

東芝ライフスタイル株式会社(以下、東芝)の場合、食品ロス削減のターゲットとして野菜を優先順位のトップに置いており、VEGETA(ベジータ)というブランド名で野菜の保存性に特化した冷蔵庫を開発している。

他社の場合、野菜の長期保存は「7日間」としているが、東芝はそれより3日多い「10日間」、冷凍せず生のままで鮮度を保てることを訴求している。

VEGETAは野菜室が真ん中にあり、腰をかがめることなく使うことができる(撮影:福田かずみ氏)
VEGETAは野菜室が真ん中にあり、腰をかがめることなく使うことができる(撮影:福田かずみ氏)

他社との違いは冷蔵庫と冷凍庫、それぞれに合わせた2つの冷却機がついていることだ。他社冷蔵庫の場合、マイナス18度の冷凍庫に合わせた冷却機1つで全体温度を調整しているため、ともすると野菜室の野菜が冷たすぎる冷気にあたり、水分を取られ乾燥する原因となる。

だが東芝の場合は冷蔵庫と冷凍庫それぞれに合わせて冷却器が稼働するため、野菜を適温で冷やし、乾燥を防ぎ、鮮度を保つことが可能なのだ。

「野菜そのまま冷凍」は、野菜を生のまま入れておくとおいしく保存できる機能だ。上段冷凍室内の緑のマットの部分が断熱材になっており、ブロッコリーなどを密閉容器に入れてマット上に置くと、緩慢冷凍でゆっくりと凍らせておいしく保存できる。野菜室の野菜を使い切れなさそうなときは、こちらに移せば1ヶ月ほど日持ちさせることができる。

洗って切った野菜を冷凍室の「野菜冷凍マット」の上に置くとゆっくり凍らせることができる(東芝ホームページより)
洗って切った野菜を冷凍室の「野菜冷凍マット」の上に置くとゆっくり凍らせることができる(東芝ホームページより)

アプリと連携させ、遠隔地から冷蔵庫を操作できる機能や食材管理機能、冷蔵庫に入っている食材でレシピの検索ができる機能もある。買ってきた食材や賞味期限を自分で入力すれば、どの食品の期限が迫っているかもわかるし、食材がなくなれば自動的に「買い物リスト」に入る。スマートスピーカー(もしくはそのアプリ)を使い、しゃべって食材の管理をすることも可能だ。

(左)冷蔵庫にトマトが余っていれば、それを使ったレシピが検索できる(右)なくなった食材は自動的に買い物リストに入る(撮影:大田美月氏)
(左)冷蔵庫にトマトが余っていれば、それを使ったレシピが検索できる(右)なくなった食材は自動的に買い物リストに入る(撮影:大田美月氏)

「食材を長持ちさせる」冷蔵庫の本質を追求

東芝には、冷蔵庫は食品を長期保存するためのもので、できるだけ食材が傷まないよう長持ちさせるのが本質的な機能、という考えが基本にある。そのため、ロスの問題に対しても、食品の鮮度保持性能が良くなればなるほど削減されていくと考えている。

先に触れたとおり、中でも家庭内でのロス率が高いのが野菜ということもあり、野菜を特に大事に考え開発された冷蔵庫がVEGETAということだ。

コロナの影響で新型冷蔵庫には奥にUV-LEDを入れた。ハンドル部も抗菌加工。扉は肘で開けられる。説明してくださったのは東芝ライフスタイル株式会社の富山真年氏、村崎和寿氏、田原麻美氏(撮影:大田美月氏)
コロナの影響で新型冷蔵庫には奥にUV-LEDを入れた。ハンドル部も抗菌加工。扉は肘で開けられる。説明してくださったのは東芝ライフスタイル株式会社の富山真年氏、村崎和寿氏、田原麻美氏(撮影:大田美月氏)

冷蔵庫は「魔法の箱」ではない 主体的な活用を

パナ社も東芝も、各社様々な観点から冷蔵庫の開発を重ねており、IoTを駆使した新機能は家庭内食品ロス削減につながる可能性があることがわかった。

一方で、日本のメーカー製品は「より便利に」と、機能や効果の向上を目指すなかでスペックが複雑になっているため、消費者が全ての機能を使いこなせていないのではというジレンマを感じる。

消費者側も、冷蔵庫に過度に依存している部分がある。先進的な機能を兼ね備えていても「食材を入れておけばOK」という考えにとどまり、主体的に使いこなせている消費者は少ないのではないだろうか。冷蔵庫はただ入れておきさえすれば、どんな食材でも永遠に持つ「魔法の箱」ではない。機能や使い方を理解し、主体的に能動的に使いこなしていくことが大切である。

自身が普段利用している冷蔵庫機能の見直しとあわせ、次のようなことに気をつけて使えば、食品ロスは最小限に抑えることができそうだ。

・冷蔵庫に入れる量を全体の50%から70%におさめる

・どの棚も、奥が見える程度にして、食材管理をしやすくする

・冷凍庫に入れたものは1ヶ月以内くらいで使い切る

・食材の居場所(定位置)を決めておく

・適した場所に食材をおさめる

・自分に合った方法で在庫管理をコンスタントにおこなう

また、青菜など、劣化がはやい野菜は市販の野菜保存袋を活用すると、なお日持ちが長くなる。もやしやニラなど、特に日持ちの短いものは、使う日に買うようにするのも大事だろう。

これら基本的なことに留意し、IoTの力を借りながら、主体的に冷蔵庫を使いこなしていくことが、家庭の食品ロスを減らすのには大切だと感じた。

企業にも、機能だけでなく、開発への思いを含め、より丁寧な啓発を望みたい。

取材先と取材日:

パナソニック株式会社 アプライアンス社 2021年3月30日       

東芝ライフスタイル株式会社 2021年4月5日

【この記事は、Yahoo!ニュース 個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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